特別支援学級とは?近年の実態と令和の日本型学校教育における課題と方向性
- コラム
日本が目指す令和の日本型学校教育、共生社会の実現に向けたインクルーシブ教育システム構築のために特別支援教育の推進は欠かせません。特別支援学級は、特別支援教育の大事な仕組みの一つです。今回は特別支援学級とは何かをまとめると同時に、近年の実態や、課題、より個別最適化な学習を実現させるための方向性を紹介します。
特別支援学級とは?
まず、特別支援学級とは何を指すのか、通級と特別支援学校との違いを見てみましょう。
特別支援学級・通級・特別支援学校の違い
文部科学省は、障害のある子供の教育的ニーズに的確に応えた指導を提供するべく、様々な学びの場を整備しています。対象とする障害も含め、学びの場の種類は次のとおりです。
この表から、全ての学びの場において、対象とする障害の種類や指導体制が異なることがわかります。今回注目する特別支援学級は、基本的には小中の学習指導要領に沿った指導が行われるとされていますが、個々の実態に対応して、特別支援学校学習指導要領に沿った特別の教育課程も編成できるようになっています。また、特別支援学級は、障害の種別ごとの学級(1学級8人)が編制されるという特徴があります。
特別支援学校を担当する教諭は特別支援教育の免許が必要となりますが、その他の学びの場で指導を担当する教員は特別支援教育の免許は必要ありません。
参考:
特別支援教育の現状|文部科学省
特別支援教育に関する学習指導要領等|文部科学省
特別支援学級の現状
令和4年度の文部科学省の調査結果によると、特別支援学級に在籍している児童生徒は約353,400人で、義務教育課程の全児童生徒の3.7%を占めています。通級の指導を受けている児童は約164,700人(令和2年度)であり、特別支援学級での学びを受けている児童は倍以上であることがわかります。
また、特別支援学級に在籍する児童生徒数は年々増加しており、平成24年度と比較して、2倍以上の児童生徒数が在籍していたことがわかりました。
(引用元:特別支援教育の充実について|文部科学省, p.6)
義務教育段階での全児童生徒数が過去10年で約1割程度減少しているのに対し、なぜ特別支援学級の在籍数は倍増しているのでしょうか。増加の要因を包括的に分析する調査は未だ行われていませんが、いくつかの見解が検討されています。
学校現場が「危機回避」を意識するあまり,トラブル をおこす子どもを過度に問題視して,特別支援学級へと方向づける傾向がある
(引用元:なぜ特別支援学級・学校の在籍児は急増しているのか?:排除としての「途中転籍」に注目して|赤木和重, p.2)
発達障害について、広く認知されるようになり、診断される子供が増えたこと。(中略)一人一人の子供の状況に応じたきめ細かい対応を求めて、保護者が特別支援学校・学級を選択するようになった。
(引用元:20年で倍増!急増し続ける特別支援学校の児童生徒-対応が追いつかず足りないものだらけで困惑する現場|Eduwell Journal 岩切準)
特別支援教育に詳しい一部の専門家は、発達障害を早期発見した場合でも、「通常の学級での指導や支援が工夫されないまま、安易に特別支援学級への転籍が検討されるケースがある」と指摘している。
(引用元:学校で「発達障害」の子どもが急増する本当の理由ー特別支援学級に入る児童・生徒は10年で倍増|東洋経済オンライン)
障害への理解が深まったなどポジティブな見解も挙げられている一方で、問題を避けるためや安易な転籍などネガティブな要因も議論されていることがわかります。特別支援学級の運営の実態を理解するためにも、増加の背景を理解することは、今後肝心となりそうです。
特別支援学級における課題
記事前半で紹介した特別支援学級の概要と在籍児童生徒数の現状を踏まえ、近年議論されている課題を2点見てみましょう。
特別支援学級と通級の運用
まず近年注目されているのが、特別支援学級の運用です。文部科学省は令和3年に特別支援教育の実態調査を一部の自治体で行い、いくつかの課題を散見したと報告しています。特に問題視された点が、「特別支援学級に在籍する児童生徒が、大半の時間を交流及び共同学習として通常の学級で学び、特別支援学級において障害の状態や特性及び心身の発達の段階等に応じた指導を十分に受けていない事例」でした。
従来、文部科学省は共生社会そしてインクルーシブ教育の実現ためにも、「交流及び共同学習」の実施を推奨し、特別支援学級の児童生徒が通常の学級で学ぶ機会に対して時間制限等は設定してきませんでした。現に、大阪府含む関西圏では、特別支援学級などに在籍する児童生徒が通常の学級で学べる時間数を最大限増やすべく、通常の学級に支援員が同席しての付き添い指導・入り込み支援などが率先して行われてきました。
しかし、令和3年度の調査結果を踏まえ、文部科学省は、次のような時間制限の適用を各教育委員会に要請しました。
特別支援学級に 在籍している児童生徒については、原則として週の授業時数の半分以上を目安として 特別支援学級において児童生徒の一人一人の障害の状態や特性及び心身の発達の 段階等に応じた授業を行うこと。
(引用元:特別支援学級及び通級による指導の適切な運用について|文部科学省, p.3)
各自治体が実際の運用に関して決断権を持つこのになりますが、この要請は、インクルーシブ教育の概念から逸脱していると、大阪府では一部の保護者による人権救済の申立てがされました。
日本は、2006年に国連が採択した「障害者の権利に関する条約」に2014年から批准しており、締約国として障害のある人の教育への権利とインクルーシブ教育を保障することが義務付けられています。国連障害者権利委員会は2022年に日本の審査を行い、上述の運営に関連する特別支援教育についての懸念を報告しました。特に関連する報告点は次のとおりです。
- 障害のある子どもたちが通常の学級で学びづらくなっていること、特別支援学級など障害のある子どもたちの分離された特別支援教育が普通の学校において永続していること。
- 特別支援学級に在籍する児童生徒が、2022年(令和4年度)の通常学級で学ぶ時間を制限する大臣通知。
これらの点を踏まえ、委員会は障害のある児童生徒に対し通常の学級へのアクセスが否定されることが決してないインクルーシブ教育を保障するよう求めました。
特別支援学級の担任
次に注目されているのが、特別支援学級の担任に関する課題です。文部科学省は令和4年度に、「特別支援教育に関わる教師が、他の教師と比べて、 長期的な視野に立って計画的に育成・配置されているとは言い難い現状にある」と課題を挙げました。具体的に、特別支援学級の担任が臨時的任用の場合が多い状況が問題視されました。
(引用元:特別支援教育を担う教師の養成の在り方等に関する検討会議 報告|文部科学省, 図筆者作成)
このグラフからも、学級全体と特別支援学級を比較した際に、小中一貫して、臨時適任用の教員の割合が倍以上である現状がわかります。
特別支援学級と令和の日本型教育
最後に、今回紹介した特別支援学級に関する2つの課題に関する今後の方向性を見てみましょう。
教師に共通的に求められる資質・能力
特別支援学級の充実は、個別最適化の学習の実現を目指す令和の日本型学校教育に欠かせないものだと考えられています。普通免許の教諭が指導を担当する仕組みも踏まえ、文部科学省は教師に求める資質・能力の5つの柱のうちに、「特別な配慮や支援を必要とする子供への対応」を含めています。全ての教員が 特別な支援を必要とする児童生徒に関わる可能性があるため、教師全員の特別支援の資質・能力を向上していく方針をまとめています。
関連記事:「令和の日本型学校教育」を担う教師に求められる資質能力と53の改革具体策
Teach For Japanが運営しているフェローシップ・プログラムでは、教育をより良くしたいと考える多様な人材を、選考・研修を通して育み、2年間教師として学校現場に送り出しています。研修段階では、教師の求められる資質・能力の1つの柱である「特別な配慮や支援を必要とする子供への対応」にも注視し、研修設計をしています。現に、特別支援学級の担任として赴任しているフェロー、過去に赴任したアラムナイもいます。
研修の特徴や、経験者の振り返り、プログラムの詳細はこちらからご覧ください。
教師の専門性向上
教師の全体的な資質・能力の強化に加え、文部科学省は、特別支援の専門性を向上するべく、養成・採用・研修を一貫して改善・強化する計画を固めています。具体的には次のような方向性が検討されています。
個別の指導計画等の作成・指導、関係者間の連携の方法等の専門性の習得
(引用元:「令和の日本型学校教育」の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現~(答申)(中教審第228号)(特別支援教育部分)|文部科学省)
OJT やオンラインなどの工夫による参加しやすい研修の充実、発達障害のある児童生徒に携わる教師の専門性や研修の在り方に関 する具体的な検討
小学校等教職課程において特別支援学校教職課程の一部単位の修得を推奨
特別支援学校教諭免許取得に向けた免許法認定講習等の活用
まとめ
今回は、特別支援教育の重要な一部である特別支援学級について紹介しました。特別支援学級の運営など仕組みに関する課題や、特別支援学級の担任を担う人材の課題もあることがわかりました。そして、障害のある方の権利を守る条約が定めるインクルーシブ教育の保障に関する懸念が挙げられていることも紹介しました。特別支援学級や通級に在籍する児童生徒が増加傾向にある昨今、彼らのニーズに応え、支援が整った学びの場の充実・整備は引き続き課題となりそうです。日本がどのように特別支援教育の充実に取り組んでいくのか引き続き注目していきましょう。
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