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コラム column

教員免許更新制廃止の概要と「新たな教師の学びの姿」

教員免許更新制が2022年7月に廃止されてから、この夏で2年経とうとしています。「新しい教師の学びの姿」や「令和の日本型学校教育」などの論点から、更新制廃止後もさまざまな研修環境が整備されてきました。今回は、改めて教員免許更新制の廃止の背景と、それに伴う懸念点、更新制廃止後の教師の質の確保へ向けた研修制度についてまとめてご紹介します。

教員免許更新制度の背景

教員免許更新制は、2009年に導入された制度であり、比較的短い期間で廃止が決定されました。廃止の背景を理解するためにも、そもそもなぜ導入されたのかをまとめ、どのような課題をもとに廃止が決定されたのか見てみましょう。

2009年導入の背景

免許更新制は、教員免許に10年の有効期限を定め、更新に際し、2年間で30時間以上の免許状更新講習の受講・修了を義務化しました。ゆとり教育による学力低下への懸念が高まる時代背景もあり、導入時の理由は次のとおり公表されました。

教員免許更新制は、その時々で求められる教員として必要な資質能力が保持されるよう、定期的に最新の知識技能を身に付けることで、教員が自信と誇りを持って教壇に立ち、社会の尊敬と信頼を得ることを目指すものです。

(引用元:教員免許更新制(アーカイブ)|文部科学省

義務化された研修は「必須領域」「選択必須領域」「選択領域」の3領域に整理され、具体的には次のような内容が含まれました。

(参照:免許状更新講習の受講について|文部科学省

「資質能力の保持」を目的とし、受講制度が整備された一方で、具体が徹底されてないと、早稲田大学の油布教授は当時次のように指摘していました。

「資質の高い教師」とは何か、どのように育成できるかという議論が徹底されないままに、制度変革が進んでいる実態がある。

(引用元:制度改革期における中学校・高等学校教師の仕事|油布佐和子, 日本労働研究雑誌 No.645, p.35

他にも、当時の議論では、時代の変化に対応できることを理由の一つとして導入するのであれば、10年は妥当な期間でないという指摘もされていました。そして、諸外国で教員免許に更新制を課すケースが稀であったのも懸念点として挙げられていました。

2022年廃止の経緯

約10年という比較的短い期間で廃止となった主な経緯には、講習受講義務による教員の多忙化がありました。他にも、講習への満足度、講習内容の実践への活用度、制度への総合的な満足度にも課題がありました。文部科学省が2021年に実施した、免許更新制への現職教員の認識の調査結果の概要を少し見てみましょう。

(引用元:令和3年度「免許更新制高度化のための調査研究事業」結果概要|文部科学省, 図筆者作成)

このグラフから、講習内容には比較的満足度が見られる一方、講習内容を教育現場での実践に役立てていると感じる教員が少なかったことがわかります。

同調査では、受講にあたっての負担感もまとめられています。

(引用元:令和3年度「免許更新制高度化のための調査研究事業」結果概要|文部科学省, p.5から抜粋)

このグラフから、費用や、講習時間への負担が重かったことがわかります。他にも、他の業務との兼ね合いや、予約も負担に感じている教員が多かったことが読み取れます。この様に、負担要素が多い一方で、多くの受講者が講習が現場実践に役立っていると感じられない点は問題視されました。

講習への評価とは他に、受講・修了したにもかかわらず更新手続き漏れにより毎年発生していた「うっかり失効」なども課題でした。

更新制廃止後の質の確保について

2022年7月、更新制の発展的解消に際し、論点となったのが更新に際する受講義務がなくなった環境下での教員の質の確保です。最後に、更新制廃止に伴う質の確保への懸念と、廃止後の研修制度を見てみましょう。

更新制の廃止に伴う質確保への懸念

基本的多くの利害関係者の賛同を得て廃止が決定した更新制は、特に、教員たちに歓迎されました。一方で、更新に課していた研修が無い状況で、如何にして教員の資質能力を維持・向上していくのか、懸念が挙げられてきました。

ここで留意したいのが、先ほど紹介した通り、廃止推奨の理由に、そもそも更新制時代の講習が教員の実践にあまり役立っていなかったという課題があったという点です。そのため、教員免許更新制廃止が原因で教員の質の確保が難しくなるとは言い難いことがわかります。

「新しい教師の学びの姿」における研修制度

講習の実践への応用性に課題があった一方で、30時間という研修義務を設けていた更新制がなくなった今、国はどのようにして研修の整備や資質の維持・向上に試みているのでしょうか。文部科学省は、現に、更新制廃止時に、次のような計画を公言していました。

今後、本改正を踏まえ、個々の学校現場や教師のニーズに即した新たな研修システムを整備するとともに、文部科学大臣が定める教師の資質向上に関する指針の改正や、それに基づくガイドラインを新たに策定することを予定しています。

(引用元:「教育公務員特例法及び教育職員免許法の一部を改正する法律」が成立|文部科学省

この計画に沿って整理された資質向上の要素は次のとおりです。

(引用元:教師の資質向上に関する指針・ガイドライン|文部科学省

新たな教師の学ぶ姿の議論で強調されているのが、「学校管理職等と教師との積極的な対話に基づく、一人 一人の教師に応じた研修等の奨励などを通じた教師の資質向上のための環境づくり」です。また、更新制時代の課題も踏まえ、受講自体が目的化しないことが重要であるとし、研修がどのように職務に生かされているのか、研修の効果測定をすることが有効であると考えをまとめています。

これらの考えのもと整備されたのが、研修履歴の記録・活用です。履歴を元に指導助言者と対話しながら研修計画を立てるようガイドラインがまとめられました。各学校に履歴の記録と活用を命ずる権利を持つのは各教育委員会で、各自治体は研修履歴管理シートを整備しまいます。

(参照:福島県教育委員会 研修履歴シート, 部分抜粋)

(参照:徳島県教育委員会 受講履歴一覧シート,  部分抜粋)

(参照:香川県教育委員会 研修履歴シート, 部分抜粋)

3つの例から、各自治体の記録項目や評価観点が少し違うことがわかります。文部科学省は長期的に、全国的に研修履歴を記録できる情報システムの構築を目指しています。

研修履歴の記録に関しては、懸念も挙げられています。例えば、全日本教員組合は、次のように声明を出しています。

研修履歴の記録が義務化されることによって、 このような管理・統制が強化されることは明らかです。

(引用元:【談話】教員免許更新制廃止を歓迎するものの、新たな管理強化につながる教特法「改正」に強く抗議する|全日本教職員組合

他にも、神戸親和大学の小坂教授は次のように指摘しています。

教師も学びたいことを学ぶためには、時間と心にゆとりが必要である。本来、研修も勤務時間に行わなければならないはずである。(中略)管理ではなく、個別最適な学びと協働的な学びという新たな教師の学びの姿を目指すべきである。

(引用元:教員免許更新制の廃止とこれからの課題~教員研修という観点からの考察~|小坂明, p.48) 

これらの履歴の活用に関する懸念がある一方、文部科学省は研修履歴を活用する際の重点を次のようにまとめています。

この際、教員等が可視化された学習履歴を自ら振り返り、指導助言者と対話する中で、自らの強みや弱み、今後伸ばすべき能力、学校で果たすべき役割など踏まえ、必要な学びを俯瞰的かつ客観的に理解することが重要である。

(引用元:公立の小学校等の校長及び教員としての資質の向上に関する指標の策定に関する指針|文部科学省, p.4)

この引用から、研修履歴の記録は、あくまで教師の主体的な学びを促進するために活用されるためであり、マイクロマネジメントや管理を意図して推奨されているわけではないことがわかります。

Teach For Japanが運営しているフェローシップ・プログラムでは、教育をより良くしたいと考える多様な人材を、選考・研修を通して育み、2年間教師として学校現場に送り出しています。研修段階では、一方的に講義を行う知識伝達型ではなく、自らが主体的・対話的で深い学びを体現する場となるよう設計しています。新たな教師の学びの姿として大事にされている主体的な学びや、免許更新制の廃止後の研修環境整備に注視しながら研修設計をしています。

研修の特徴や、経験者の振り返り、プログラムの詳細はこちらからご覧ください。

まとめ

今回は教員免許更新制の廃止の背景を振り返った上で、廃止後の研修制度についてご紹介しました。日々の業務で多忙な教員が個々のニーズに合った資質能力を向上できる研修制度を確立することは容易ではありません。多様なニーズに対応する質の高い研修の設計、研修に時間を割ける環境づくり、研修での学びについて対話的に振り返ることができる同僚・管理職との関係性、教員が自発的・主体的に研修を受けたいと思える働き方の確立など、さまざまなな要素が必要です。教員免許更新制がない環境、そして研修履歴の記録・活用し教師の主体性を尊重した資質能力の指針が始動してから、まだ日が浅いのが現実です。今の研修制度を教員がどのように活用できているのか、どのように効果測定が進められていくのか、引き続き注目していきましょう。

参考文献:
改正教育職員免許法施行後の教員免許状の取扱いについて(周知)|文部科学省
教師の質は保てるか?教員免許更新制の見直し|NHK 
教師の資質向上に関する指針・ガイドライン|文部科学省
教員免許更新制廃止の理由~導入意図と制度設計の問題~|嶺井正也(専修大学教職教育大学研究第3号)2023/2
教員免許更新制の廃止とこれからの課題~教員研修という観点からの考察~|小坂明
教員免許更新制の終焉をめぐる教員の意識|山田浩之
教員免許更新制度の廃止、現役教員96%「賛成」一方で不安の声も|ReseEd
制度改革期における中学校・高等学校教師の仕事|油布佐和子
「新たな教師の学びの姿」の実現に向けて|文部科学省
「教育公務員特例法及び教育職員免許法の一部を改正する法律」が成立|文部科学省
【談話】教員免許更新制廃止を歓迎するものの、新たな管理強化につながる教特法「改正」に強く抗議する|全日本教職員組合

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