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コラム column

子どもの精神的幸福度ワースト2位!ウェルビーイングとは?【後半】

2020年9月に発表された『レポートカード16』を前半記事でご紹介しました。後半記事ではユニセフの報告書から発展的に考え、教育と日本の子ども達の精神的幸福度についてご紹介していきます。また、幸福度を上げていくためにはどの様な取り組みが重要なのか、Teach For Japanにはどの様な働きかけができるのか考えていきたいと思います。

精神的幸福度と教育

前半記事ではユニセフの報告書が示す日本の子どもの精神的幸福度が低い要因を見てみましたが、教育において挙げられている要因も見てみましょう。

まず第一に、教育と精神的幸福度に関連性はあるのか?という疑問が挙げられると思います。この問いに対し、教育社会学者の本田由紀教授は次のように述べています。

日本は、世界最高の一般的スキル水準を誇りながらも、その中で生きている人々全般、特に若者の主観的なウェル・ビーイングは良好にはほど遠く、少なくとも先進国中では最もと言ってよいほどのネガティブさ、暗さ、不安が色濃く刻印されている。
そのすべてが教育を原因としているとは断言できないまでも、特に教育機関に在学中の年齢層の若者において否定的な意識が強いことからは、日本の教育のあり方がその一端を担っていると考えることに妥当性があるだろう。

(引用元:教育は何を評価してきたのか|本田由紀 岩波新書, p.18

同様に、ユネスコ・バンコク事務所が行ったアジア・太平洋地域の学校と子どもの幸福を調査した報告書でも、「教育により幸福を得ることが出来る。また教育そのものが幸福の根源ともなりうる」という考え方を示しています。

これらの見解から教育のあり方と子ども達の精神的幸福度は深い関係性があることが分かります。教育のあり方で精神的幸福度に影響を及ぼしている事象は複数あると思いますが、主体性の尊重と自己肯定感の2観点を簡単に考えたいと思います。

子どもの主体性の尊重

子どもの幸福度を上げていくためには、彼らの主体性を尊重することが重要だと言われています。

前半の記事で紹介した主観的ウェルビーイングの4因子でもある「マイペースと独立」とも関連することであり、各児童・生徒が自分らしく、主体的に学ぶことができる学習機会を設けることで幸福感の向上に繋がると考えられています。

教育評論家の尾木ママも、次のように主体性の大切さを強調しています。

主体性育てる【探究型】の学びに・【教え】から【学び】のサポートに切り替えないと子どもたちの幸せはあり得ないですね

(引用元:日本の子どもは「身体的健康は1位」精神的健康はビリから2番目|オギブロ(尾木ママ オフィシャルブログ 臨床教育研究所「虹」)

ユネスコ・バンコク事務所は、「宿題を選択可能な活動に替え、学びを広げる」ことも子どもの主体性を尊重し、幸福感を高めるのに有効と提唱します。

そして、今年コロナウイルス感染拡大に伴い、履修主義から修得主義への移行が改めて囁かれています。履修主義と修得主義の定義は次の図のとおりです。

(筆者作成 引用元:1ーコロナ後「対面・遠隔を併用」 文科省、デジタル化推進|日本経済新聞、2ー「義務教育に係る諸制度の在り方について」(初等中等教育分科会の審議のまとめ)の概要|文部科学省

修得主義は、個人の修得レベルに合った学習の提供ができ、個々の能力を最大化できるという利点があります。文部科学省はこれまでも複数回にわたり修得主義の応用について議論を繰り返してきましたが、学力格差の拡大や児童の価値観を狭める可能性への懸念などから、修得主義の応用・移行には慎重な姿勢がとられてきました。

しかし、2020年のコロナ禍で日本と修得主義をとる欧米諸国との休校中の対策・対応の違いから、改めて修得主義への移行が議論されています。

修得主義に基づく欧米では、オンライン授業を正式な授業と認めたため、各児童・生徒が休校中に学習を進めることができました。また、双方向のオンライン授業の展開が速かったといいます。

日本経済新聞によると、その結果、フランスなど夏休みを短縮する必要がなかった国があったといいます。

この様な背景も踏まえ、9月28日の中央教育審議会において、履修主義に固執せず、修得主義も組み込むことで指導計画を柔軟化していく方針が議論されたそうです。

子どもの主体性は新学習指導要領で掲げられている「主体的・対話的で深い学び」にも含まれているとおり、今後の日本の教育において重要な論点になりそうです。

自己肯定感を伸ばす

次に、子どもの幸福感を高めるために自己肯定感を伸ばすことが大切だとされています。自己肯定感は主観的幸福度の「自己実現と成長・やってみよう」要因と深く関わっているように見受けられます。

今の日本の教育は学力・学歴偏重が特徴的で、子ども達の不安を駆り立て自己肯定感を損なっていると言われています。教育評論家の尾木ママも「競争原理をテコにした序列主義は、すべての子どもたちの自己肯定感を他国に比べて最低クラスに下げている」と指摘します。

自己肯定感は幸福度だけではなく、学習成果にも影響を及ぼすことが分かっています。

(筆者作成 参考:子どもの自尊感情や自己肯定感を高めるためのQ&A|東京都教職員研修センター

以前特集した教育格差においても、生まれの諸条件により不利な立場に置かれている子どものうち、自己肯定感が高い生徒は成績が伸びる傾向にあるとの報告もあります。つまり、自己肯定感を高めることは幸福度だけでなく学習成果の改善に向けても非常に重要であることが分かります。
・教育格差の記事はこちら→教育格差ー日本における現状とコロナ禍で拡大する格差とは?

幸福感を高めていく学校作りの一つとし、「学習の学術的要素以外の学びを評価する」ことも必要とユネスコ・バンコク事務所は訴えかけます。

どのような実践が子ども達の自己肯定感を高めることに有効なのか、引き続きの模索が重要となりそうです。

子どもの幸福度を上げていくために

主体性と自己肯定感に着目しながら、教育が及ぼす子ども達の精神的幸福度への影響を紹介してきましたが、子ども達の幸福度を上げていくためには学校だけでなく包括的なアプローチが必要です。

①子ども達の声に耳を傾けること

まず第一に、子ども達の声に耳を傾けることが大切です。

ユニセフ・イノチェンティ研究所は、子ども達は人との繋がりを想像以上に大切にしていたり、決断に参加することに強い関心を示したりと、大人とは違う観点を持っていると強調しています。

国士舘大学の助川晃洋教授も、どの様な実践が子ども達に幸福や満足感をもたらしているのか研究し、授業運営に活かしていく必要があると提唱します。

ユネスコ・バンコク事務局も幸福度を高める学校運営のためには、「生徒が教師に対するフィードバックを行えるようなシステムを構築する」取り組みが有効と提案しています。

②教員養成

次に大切なのが、教員が子どもの幸福度を高めるために働きかけることができるようスキル育成をしていくことです。

ユネスコ・バンコク事務所は子どもの幸福度を上げていくために教員養成も充実させていく必要があると指摘します。教員の方々は、従来、教科を教えることに特化した研修を主に受けているため、子ども達のウェルビーイングに配慮した実践を導入していくことに苦戦しています。

子どもの幸福度に焦点を当てた教員研修を行い、児童の興味をひく授業計画の進め方、子ども達の自由な取り組み・創造性・オーナーシップを尊重した学習過程の実現に向けたノウハウを培うことは、子ども達の幸福度を上げていくために不可欠だといいます。

③学校以外の地域での取り組み

そして、子どもの幸福度を上げていくためには学校だけでなく、家庭・地域など様々な立場の人々が働きかけることが重要とされています。

香川県を拠点に子育て支援をされているNPO法人わははネットの理事長は、次の様に述べています。

政府として取り組むべきことが中心かもしれませんが私たち地域の子育て支援団体としても取り組めることがあるはずです。
特に精神的幸福度を上げるための「生活満足度をあげるためには何ができるか?」「自ら命を絶とうとする子どもたちにできることは無いのか」世界の子ども達となぜこんなに差が出てしまうのだろうか。
要因や背景について、身近なシーンでも想定して動けることを動いていかなければ。と思います。

(引用元:子どもの精神的幸福度ワーストの日本…|NPO法人わははネット 理事長ブログ 太字筆者加筆)

この呼びかけ同様、ユネスコは、幸福を促進する教育制度の実現に向けて、地域の協力がもっと必要だといいます。

TFJに出来ること

TFJはTeach For Allという58団体のグローバルネットーワークの一員とし、子どものウェルビーイングを高めていくことに注力しています。

2020年10月4日に「教師の日」を先駆け、Teach For All(TFA)のアジア・パシフィック地域統括者、Teach For Cambodia, Teach For The Phiilpines のCEOを迎えパネルディスカッションを行いました。そこでも、TFAのコミュニティーが抱く子ども達のウェルビーイングへの課題意識が再確認されました。
・パネルディスカッションのサマリーはこちら→【イベントレポート】

また、Teach For Allのアジア・太平洋地域ではCEOが月一回定例会を行い、有効な実践や2030年に向けた目標などの情報共有を活発に行うことで、各地域の活動強化にいかしています。

TFJで学校に赴任するフェロー達は子どもとの関わり合いをとおし、自己肯定感や自信を刺激できるよう努めています。

・子どもたちの自信や、やってみようという積極性につなげることが出来た取り組み事例の記事はこちら→【フェローの実践】子どもたちと在福岡米国領事の交流会実現までのストーリー
・フェローシッププログラムの概要はこちら→フェローシッププログラム

また、TFJにはフェローとしてだけではなく、プロボノとし事業運営に尽力して下さっている方々がいます。学校現場に直接関わっていなくても、ご経験やスキルをいかし、間接的に子ども達の幸福の向上に働きかけていただいています。
プロボノ募集のページはこちら→プロボノ・インターン募集のご案内

関連リンク:
Teach For Allについて
Teach For All (英語HP・Google翻訳機能有り)
Teach For Cambodia(英語HP)
Teach For the Philippines (英語HP)

まとめ

後半記事では教育と子どもの精神的幸福度の関連性に着目しました。その結果、いまの、日本の教育のあり方は子ども達に精神的負担を与えているという指摘があることが分かりました。課題をご紹介したうえで、今後子ども達の主体性・自己肯定感を伸ばし幸福度改善に繋げるためには何ができるか考えてみました。幸福度研究の結果を基に、現状批判をするのではなく、課題を把握し、改善に向けそれぞれのコミュニティーで議論していくことが大切だと思います。

新型コロナウイルスの感染拡大による長期間の休校経験や各地域での経済的損失は、今後、子ども達の幸福度に大きな影響を与えていくであろうと懸念されています。子どもたちの持続的な幸福の実現に向け、引き続き幸福度研究・子どもたちのウェルビーイングに注目していきましょう。

前半記事はこちら↓
子どもの精神的幸福度ワースト2位!ウェルビーイングとは?【前半】

後半記事:
「こころがボロボロ」子どもの精神的幸福度調査 日本がワースト2位の理由|FRaU(島沢優子)
「一律・平等」脱却に芽 個に応じた指導、柔軟に|日本経済新聞
「義務教育に係る諸制度の在り方について」(初等中等教育分科会の審議のまとめ)の概要|文部科学省
【校長ブログ】ユニセフの子どもの幸福度調査 尾木ママ「すごく衝撃的な数字」|さいたま市立浦和南高等学校
Education, Happiness and Wellbeing|Alex C. Michalos
Promoting Learner Happiness and Well-being|UNESCO Bangkok(2017) 
オンライン教育、規制緩和で拡大探る 実現には曲折も|日本経済新聞
コロナ後「対面・遠隔を併用」 文科省、デジタル化推進|日本経済新聞
ハッピースクール 要約|UNESCO Bangkok 
ユニセフ報告書「レポートカード16」発表 先進国の子どもの幸福度をランキング|ユニセフジャパン
子どもの”well-being”にかかわる教育言説の妥当性ー日本の子どもの自尊感情と幸福度の低さについてー|助川晃洋 宮崎大学教育文化学紀要 教育学科 第24号(2011), pp.11-23
子どもの自尊感情や自己肯定感を高めるためのQ&A|東京都教職員研修センター
教育上の不利益は10歳のときから始まる|OECD
日本の子どもは「身体的健康は1位」精神的健康はビリから2番目|オギブロ(尾木ママ オフィシャルブログ 臨床教育研究所「虹」)
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