コラム column

5分でわかる小学校学習指導要領の変遷!改訂のポイントと流れを解説!(後半)

学習指導要領は、約10年に1度改訂されています。戦後にできた試案から高度経済成長期までを扱った前半に続けて、後半では「ゆとり」という言葉が強調される1977年の改訂から2020年4月に全面実施となる改訂までをわかりやすく解説します。

5分でわかる!小学校学習指導要領改訂のポイント(後半)

前半と同様、小学校学習指導要領の授業時間数の一覧です。後半では、高度経済成長期をピークとして授業時間数は減少し、いわゆる「ゆとり教育」を境に増加へとシフトチェンジしています。

【授業時数の一覧】

(各学習指導要領より筆者作成)

それでは、1977年の改訂から2020年から全面実施される学習指導要領の改訂までの変遷を確認していきましょう。

1977年 ゆとりある充実した学校生活

高度経済成長を経て、世界で2番目の経済大国となった日本は、高等学校の進学率が90%超えます。しかし、知識の伝達に偏る傾向により、おちこぼれや受験戦争などの問題が出てきます。このような背景から、 道徳教育や体育を一層重視し、知・徳・体の調和のとれた人間性豊かな児童生徒の育成に重点が置かれます。

【改訂の主なポイント】
・ゆとりのある充実した学校生活を実現するため、各教科の標準授業時数を削減
・地域や学校の実態に即して授業時数の運用に創意工夫
・学習指導要領に定める各教科等の目標・内容を中核的事項にとどめる
・教師の自発的な創意工夫を加えた学習指導が十分展開できる余地をつくる

1977年の改訂で、戦後増え続けていた授業時間がはじめて減ります。また、ゆとりある学校生活を実現するために、地域や学校の実態、児童生徒の個性や能力に応じた教育の実施が展開できるようにするという、現行の学習指導要領にもつながる内容が明示されます。

1989年 思考力・判断力・表現力などを重視した新しい学力観

平成元年となり、思考力・判断力・表現力などを重視した新しい学力観の提起がされます。背景には、情報化や国際化、価値観の多様化などの社会の変化やいじめや不登校など学校環境の課題などがあります。

【改訂の主なポイント】
・豊かな心をもち,たくましく生きる人間の育成
・自ら学ぶ意欲と社会の変化に主体的に対応できる能力の育成
・基礎的・基本的な内容を重視
・個性を生かす教育の充実
・国際理解を深め、国の文化と伝統を尊重する態度の育成
・小学校1,2年生の理科・社会科が生活科となる
・生涯学習の基礎を培うために、体験的学習・問題解決的な学習を推進
・学校週6日制→隔週学校5日制の導入

隔週学校5日制が始まり、自ら学ぶ意欲や主体性などがキーワードとなります。

1998年 基礎・基本と「生きる力」の育成

21世紀を目前にして、ゆとりの中で「生きる力」を育むことが改訂の大きな方向性です。各学校が、ゆとりの中で特色ある教育を展開し、基礎的・基本的な内容を確実に身に付けさせること、「生きる力」を育むことに重点を置いています。ここで、「生きる力」が定義されます。

【主な改訂のポイント】
・教育内容の厳選(1/3を厳選するとして削減)
・完全学校週5日制の導入
・授業時数の縮減
・総合的な学習の時間の新設
・道徳教育の充実
・国際化への対応
・体育・健康教育
・読・書・算などの基礎的・基本的内容を繰り返し学習させ習熟させる

基礎的・基本的な学習内容の習熟を重視しつつも、総合的な学習の時間の新設に象徴されるように、自ら学び自ら考える力を育成し、個性を生かしたゆとりある教育を行うことがポイントになっています。しかし、この授業時数の縮減や教育内容の厳選によって、学力低下へとつながります。

参考
新しい学習指導要領の主なポイント(平成14年度から実施)|文部科学省

2003年 学習指導要領のねらいの一層の実現(一部改正)

2000年のPISAの結果から、家庭学習の時間が参加国の中で最低であることや、読解力が平均並みであるなどの課題が明らかになります。それを受けて、文部科学省は「学びのすすめ」を発表し、ここで初めて「確かな学力」という言葉が使われます。

また、児童生徒の実態を踏まえて、学習指導要領に示されていない内容を加えて指導することが明確にされます。

【主な改訂のポイント】
・基準性を踏まえた指導の一層の充実
・学校において特に必要がある場合等には、「内容の取扱い」にある事項にかかわらず指導することができるのを明確化
・総合的な学習の時間の一層の充実
・個に応じた指導の一層の充実(習熟度別指導や補充・発展授業の例を示す)

この改訂の後、2003年に行われたPISAの結果が2004年に発表されます。PISAの結果から、学習意識や学校外での学習時間が低水準であること、学習離れ、習熟度の低い層の増加、学力格差などの課題が浮き彫りになります。いわゆるPISAショックです。

参考
小学校、中学校、高等学校等の学習指導要領の一部改正等について(通知)|文部科学省

2008年 「生きる力」と思考力・判断力・表現力の育成

2006年12月に、教育基本法改正で明確になった教育の理念を踏まえた「生きる力」の育成が知識基盤社会の時代において、重要性が増していきます。なお、生きる力を構成する3つの柱は確かな学力、豊かな人間性、健康・体力です。

【主な改訂のポイント】
・知識・技能の習得と「思考力・判断力・表現力」などの育成のバランスを重視
・授業時数を増加
・道徳教育や体育などの充実により、豊かな心や健やかな体を育成
・外国語活動の導入

このタイミングで、国語、社会、算数、理科、体育の授業時数を10%程度増加が行われます。指導内容としては、言語活動、理数教育、伝統や文化に関する教育、道徳教育、体験活動、食育、情報教育などに重点が置かれます。

参考
学習指導要領の変遷|文部科学省
幼稚園教育要領、小・中学校学習指導要領等の改訂のポイント|文部科学省

2015年 道徳の「特別の教科」化(一部改正告示)

文部科学省によると、下記の5つの背景から、道徳を「特別の教科」とすることが告示されます。

1.深刻ないじめの本質的な問題解決に向けて
2.情報通信技術の発展と子供の生活
3.子供をとりまく地域や家庭の変化
4.高校生の自己肯定感や社会参画への意識の低さ
5.与えられた正解のない社会状況

これらの背景から、35時間の授業時数を確保するという量的課題へのアプローチと、子供たちが道徳的価値を理解し、これまで以上に深く考えてその自覚を深めるという質的課題へのアプローチが行われます。また、「特別の教科」としているのは、他の教科とは異なり、数値などによる評価が馴染まない点や学級担任が授業を行うのが望ましい点があるからとされています。

【主な改訂のポイント】
・検定教科書の導入(副読本「心のノート」から、検定教科書「私たちの道徳」へ)
・道徳の特別教科化、指導方法の改善、評価の充実
・型にはまったものではなく、議論するような道徳への転換
・キーワードを設けて指導内容を分かりやすくする(学習指導要領)

検定教科書の導入は、適切な教材の入手が難しい・効果的な指導法がわからないという現場の声を吸い上げた結果生まれています。自分の考えを書き込んだり、系統的にわかりやすい工夫がされています。

参考
道徳教育アーカイブ|文部科学省
道徳教育について|文部科学省
高校生の生活と意識に関する調査報告書〔概要〕—日本・米国・中国・韓国の比較—|国立青少年教育振興機構
ケータイ&スマホ、正しく利用できていますか?(小中学生版)(2016年版)|文部科学省

2017年 主体的・対話的で深い学び

いよいよ2020年から全面実施される学習指導要領は、予測困難な時代に、一人一人が未来の創り手となるという社会の変化への対応がポイントになります。

【主な改訂のポイント】
・各教科の目標・内容が「知識及び技能」「思考力・判断力・表現力など」「学びに向かう力・人間性など」の3つの資質・能力の柱で再整理
・知識の理解の質を高め資質・能力を育む主体的・対話的で深い学びを重視
・各学校で実態に合わせたカリキュラム・マネジメント(※)が可能に
・具体的な教育内容の改善・充実

今回の改訂で注目されているのは、外国語教育の充実と情報活用能力(プログラミングを含む)の充実です。その他にも、理数教育や伝統や文化に関する教育の充実が改善事項に挙げられています。ちなみに、授業時数は、外国語教育の時間が増えた分、6年間で140時間増加しています。(3,4年生の外国語+35時間、5,6年生の外国語+35時間)

外国語教育と情報教育に関する関連記事はこちら▼
【2020年度全面実施】小学校英語教育改革―背景・内容・課題とは
プログラミング教育って何?導入目的から小中高の学習内容をご紹介!

※カリキュラム・マネジメントとは、教科横断的な視点で教育内容を組み立て、PDCAサイクルと回して改善を図り、教育活動に必要な人的物的資源(外部も含める)を活用しながら教育活動の質の向上を図ることです。

参考
新しい学習指導要領の考え方|文部科学省

いまの教育を理解するには、学習指導要領の変遷がカギ!

学習指導要領は、日本中どの地域で教育を受けても、一定の水準の教育を受けられるようにするための基準です。日本の教育の魂とも言えるものです。戦後の試案からスタートし、2017年の改訂が8回目の改訂となります。

授業時間数、経験主義・系統主義、学力観など、視点を決めて変遷を読み進めてみると、現行の学習指導要領までの変化が陸続きであることがわかります。今回の記事が、学習指導要領の変遷を理解するきっかけになれば幸いです。

前半を読んでいない方はこちらからどうぞ↓
5分でわかる小学校学習指導要領の変遷!改訂のポイントと流れを解説!(前半)

TFJは、世界60ヵ国以上に広がるTeach For Allというグローバルネットワークの一員で、「すべての子どもが、素晴らしい教育を受けることができる世界の実現」をビジョンに活動する認定NPO法人です。
主な事業は、教育をより良くしたいと考える多様な人材を、選考・研修を通して育み、自治体との連携により、2年間「教室」に教師として送り出すフェローシップ・プログラムの実施です。応募の時点で教員免許状の有無は問わず、選考や赴任前の研修プロセスを経て、臨時免許状や特別免許状を活用し教員になることができます。

教師になることに興味がある方は、こちら

 

参考
学習指導要領データベース|国立教育政策研究所
学 習 指 導 要 領 の 変 遷|明治大学学術成果リポジトリ
意外と知らない”学習指導要領の改訂”(vol.2)|内田洋行教育総合研究所
意外と知らない”学習指導要領の改訂”(vol.3)|内田洋行教育総合研究所
意外と知らない”学習指導要領の改訂”(vol.4)|内田洋行教育総合研究所
平成29・30年改訂学習指導要領のくわしい内容|文部科学省
教育課程の時数の歴史|東京学芸大学

教師になることに興味がある方

詳しく知りたい