教員給与の実態|高校教師の年収と将来像
- コラム
「高校教師の年収」は、進路選択やキャリア設計に高校教師を検討している方の多くが気になるテーマです。
一方で、教員の給与は民間企業のように成果給で大きく変動するものではなく、法律や自治体の制度に基づいて体系的に決められているという特徴があります。
そのため、年収額だけを見るのではなく、
- 給与はどのような仕組みで構成されているのか
- 全国平均はどの程度なのか
- 一般的な労働者と比べてどんな傾向があるのか
といった点を整理することが重要です。
ここではまず、高校教師の年収・給与の基本を押さえていきます。
高校教師の年収・給与の基本
公立高校教員の平均年収は、給与月額と賞与を合算して算出される点が基本となります。
文部科学省が公表している「学校教員統計調査(令和4年度・中間報告)」のデータによると、高等学校教員の平均月給はおおよそ35万3,000円前後です。これに、期末・勤勉手当(ボーナス)を加えると年収ベースでは約670万円〜700万円前後が一つの目安となります。
※この金額は、給与体系が自治体ごとに異なることや勤続年数、役職の有無によっても変動するため、あくまで平均値としての参考値です。
年収額を検討する際には、給与構造(月給・賞与・手当)の仕組みを理解することが重要です。
給与の基本構造(月給+賞与+手当)
教員の給与はおおむね「月給(本給+諸手当)+賞与(ボーナス)」の合計で算定されます。公立学校教員については、教育職員特例法やいわゆる「給特法」によって給与の扱いに特例が設けられており、教職調整額(本給に対する一定割合)が支給される一方で、時間外勤務手当などの扱いが一般の労働者と異なる点が制度上の特徴です。
賞与の水準や手当(地域手当・特殊勤務手当・扶養手当など)は自治体ごとに条例で定められるため、同じ教員でも地域によって手取りや年収の構成が変わります。
教員と一般労働者の給与比較
国税庁の公表データ(民間給与実態統計調査)によると、民間の給与所得者全体の平均年収は約460万円、正社員に限ると約530万円(令和5年分)となっています。一方で公立高校教員の平均年収は前述のように約680万円が目安とされ、民間の平均的な正社員水準と比較すると高めの水準にあるケースが多いことが分かります。
ただし、業種差・地域差・年齢構成の違いなどがあるため、単純比較だけで「有利/不利」を断定するのは適切ではありません。客観的には「公務員としての給与体系(等級・号給・手当・賞与など)を基盤に、安定した年収構成になっている」という整理が妥当です。
年齢・勤続年数による年収の違い
高校教員の年収は、年齢や勤続年数によって変化します。これは公務員としての給与体系が等級・号給によって段階的に上昇する仕組みであるためです。
ここでは、年代別の年収目安を厚生労働省や国税庁等の統計データをもとに整理します。
20代〜30代前半の年収目安
新規採用された高校教員は、初任給段階では一般的に賃金構造が低めの等級からスタートします。
厚生労働省の賃金構造基本統計調査によると、20代〜30代前半の給与所得者(民間企業含む)の平均給与は年齢とともに上昇する傾向がありますが、公立学校教員の場合は等級・号給に応じた公務員給与表に基づく増加が見られます。
例えば、20代後半・30代前半の教員の年収は、おおむね420万円〜550万円前後になるケースが多いとされています。
※この金額帯は、以下の参考情報を根拠に算出した目安です。
※個別自治体のデータや学校種別によって若干の差があります。
参考:公立学校教員給与等実態調査|文部科学省
地方公務員給与実態調査|総務省
30代後半〜40代の年収推移
30代後半から40代になると、等級・役職経験の蓄積により昇給が進みます。公立教員の給与は、一般的な公務員給与表に基づいて、勤続年数や職務経験に応じた号給の上昇が反映され、賞与等を含めた年収が高くなる傾向です。
民間給与実態統計調査(国税庁)では、30代後半〜40代前半の給与所得者全体の平均年収は600万円前後となっていますが、公務員の場合はこれに近いかやや上回る構成になるケースが多いと整理されています。
50代以降の収入ピークと退職後の収入傾向
50代以降の教員は、長年の勤続による等級・号給の上昇、役職・管理職経験(教頭・副校長等)を経ることで、給与が高水準になる傾向があります。一般労働者全体の統計では、50代以降の平均年収がピークに達する傾向があり、公立高校教員でも同様に高い年収帯が見られます。
ただし、60歳前後で退職や再雇用・契約年齢制限の影響を受ける場合、退職後の収入は大きく変わる点も統計で確認されています。
このように、高校教員の年収は年齢・勤続年数と密接に関連しており、等級・号給・賞与・手当の仕組みが反映される形で段階的な推移を示します。

参考:
令和5年分 民間給与実態統計調査|国税庁
令和6年 賃金構造基本統計調査 結果の概況|厚生労働省
令和6年 賃金構造基本統計調査 結果の概況|厚生労働省
地域差と学校種別の給与実態
高校教師の年収は、全国で一律ではありません。勤務する地域(都市部か地方か)、そして公立高校か私立高校かといった条件によって、給与水準や昇給の仕組みには違いが見られます。
ここでは、公表データや公開情報をもとに、地域差と学校種別による給与傾向を整理します。
都市部(例:東京都)の年収傾向
都市部、とくに東京都の高校教員は、全国平均と比べてやや高めの年収水準となる傾向があります。
公開されている給与データや口コミ情報を総合すると、東京都の高校教員の年収はおおむね650万〜700万円前後のレンジに収まるケースが多いとされています。
この背景には、以下の要因が挙げられます。
- 地域手当(都市部手当)が上乗せされる
- 物価・生活費水準を考慮した給与設計
- 教員数・学校規模が大きく、職務分担が細分化されている
一方で、生活コスト(住居費など)も高いため、可処分所得ベースでは一概に有利とは言い切れない点も留意が必要です。
地方自治体(例:中核市・一般市町村)の年収傾向
東京都などの大都市圏以外に位置する地方自治体(中核市や一般的な市町村)では、都市部と比べて年収水準はやや低めになる傾向があります。
全国平均が約680万円前後とされる中で、地方では600万円台前半〜中盤に分布するケースも多く見られます。
ただし、地方勤務には次のような特徴があります。
- 住居費や生活費を抑えやすい
- 通勤距離が短く、時間的負担が小さい場合が多い
- 地域との関係性が密で、学校運営や教育活動に裁量が生まれやすい
そのため、高校教員の給与を評価する際は、年収額の高低だけでなく、生活コストや働き方を含めた総合的な視点で考えることが重要だといえるでしょう。
公立高校と私立高校の給与差
高校教員の給与は、公立か私立かによっても仕組みが異なります。
公立高校教員の場合
- 地方公務員としての給与体系が適用される
- 給与表・昇給・賞与は自治体ごとに制度化
- 年功的な昇給が比較的安定している
私立高校教員の場合
- 学校法人ごとの給与規程に基づく
- 初任給や賞与水準は学校によって差が大きい
- 実績評価や役職による年収差が生じやすい
一般的には、長期的な安定性は公立、柔軟性や裁量は私立という特徴があり、どちらが優れているかは一概には言えません。
地域別・学校種別 給与比較表(目安)
| 区分 | 年収目安 | 特徴 |
| 都市部(例:東京都) | 約650〜700万円 | 地域手当あり・生活費高 |
| 地方都市 | 約600〜680万円 | 生活コスト低・地域密着 |
| 公立高校 | 全国平均に近い | 制度的安定性 |
| 私立高校 | 学校差が大きい | 評価・裁量に幅 |
※あくまで公開情報をもとにした一般的な目安
高校教師の年収は、どの地域で働くか、そして公立高校か私立高校かといった条件によって、一定の幅が生じます。
重要なのは、年収額そのものだけでなく、生活環境・働き方・教育観との相性を含めて総合的に判断することです。
参考:
高校教師の年収データ|Glassdoor Japan
教員給与の地域手当制度|総務省
公立・私立学校の教員給与制度|文部科学省
高校教員の給与が決まる仕組み
高校教員の給与は、個人の裁量や交渉によって決まるものではなく、制度に基づいて段階的に決定される仕組みとなっています。
特に公立高校の教員は地方公務員として位置づけられ、給与は「給与表」「手当」「昇給制度」という複数の要素を組み合わせて構成されます。
ここでは、給与がどのような考え方で決定されているのかを整理します。
公務員給与表(等級・号給)
公立高校教員の基本給は、各自治体が定める公務員給与表に基づいて決まります。
この給与表は、「等級」と「号給」という2つの軸で構成されています。
- 等級:職務の内容や責任の重さを区分したもの
- 号給:勤続年数や経験年数に応じた段階的な給与水準
多くの場合、新卒や未経験者は低い号給からスタートし、毎年一定の条件を満たすことで号給が上がる仕組みです。
校内での役割や職位(主任、主幹教諭など)に就くと、等級が変更され、基本給が上がるケースもあります。
このように、基本給は年齢や経験と連動しやすい構造になっています。
教職特有の手当(教職調整額・部活動手当等)
高校教員の給与には、基本給に加えて教職特有の手当が含まれます。代表的なものは以下のとおりです。
- 教職調整額
教員の業務が時間管理になじみにくいことを踏まえ、時間外勤務手当の代わりとして支給される定額手当。 - 部活動指導に関する手当
部活動の顧問業務に対して支給される手当で、自治体や学校種別によって金額や条件が異なります。 - 地域手当・通勤手当・住居手当
勤務地域や生活環境に応じて支給される一般的な手当。
これらの手当は、給与全体の一部を構成しており、勤務地や担当業務によって支給内容が変わる点が特徴です。
昇給・評価と給与の関係
高校教員の昇給は、原則として定期昇給制度に基づいて行われます。
多くの自治体では、毎年の勤務実績を前提に、一定額の昇給が制度的に設定されています。
一方で、近年は以下のような動きも見られます。
- 勤務評価制度の導入
- 校務分掌や役割に応じた評価の反映
- 管理職・中核的役割への登用による給与差
ただし、一般企業のように成果によって大きく年収が変動する仕組みではなく、全体としては安定的・累積型の給与設計となっています。
高校教員の給与決定プロセス(イメージ)
基本給
├ 等級(職務・役割)
├ 号給(勤続年数)
↓
各種手当
├ 教職調整額
├ 部活動手当
├ 地域・通勤・住居手当
↓
月給+賞与
高校教員の給与は、
① 公務員給与表
② 教職特有の手当
③ 定期的な昇給制度
という制度的枠組みによって決定されています。
そのため、短期的な増減よりも、長期的に積み上がっていく安定性が特徴といえるでしょう。
参考:
地方公務員の給与制度について|総務省
教職員給与制度の概要|文部科学省
教職調整額の制度解説|文部科学省/
まとめ:高校教師の年収とキャリアをどう考えるか
高校教師の年収は、「高い・低い」と単純に評価できるものではありません。
給与は公的制度に基づいて安定的に設計されており、年齢や勤続年数、役割の変化に応じて段階的に形成されていきます。
その一方で、給与の伸び方や将来の収入イメージは、どのようなキャリアを描くかによって大きく変わります。
単に在職年数を重ねるだけでなく、教育現場でどのような経験を積み、どのような役割を担っていくのかが重要になります。
年収は「制度+キャリアの積み重ね」で決まる
本記事で見てきたように、高校教員の給与は、
- 公務員給与表(等級・号給)
- 教職特有の手当
- 勤続年数と評価
といった制度的な枠組みによって支えられています。
その中で、授業力や学級経営力、学校運営への関与などの経験を重ねることで、より責任のある役割を任される可能性が広がり、結果として収入にも反映されていきます。
つまり、年収は「結果」であり、その背景には日々の実践とキャリア選択の積み重ねがあります。
これから高校教員を目指す人が意識したい視点
これから高校教員を目指す人にとって大切なのは、
初任給や平均年収の数字だけを見るのではなく、
- 教育現場でどのように成長していきたいのか
- 長期的にどのような役割を担いたいのか
- 自分自身が教育を通じて何を実現したいのか
といった視点を持つことです。
そうした視点を持つことで、給与制度や昇給の仕組みも「制限」ではなく、キャリアを支える枠組みとして捉えやすくなります。
Teach For Japanという選択肢が提供する視野
高校教師の年収や待遇は、進路を考えるうえで重要な判断材料の一つです。一方で、「教育を通してどのような社会を実現したいのか」「そのために自分はどう在りたいのか」という視点も、進路選択のうえでは大切な問いです。
Teach For Japanのフェローシップ・プログラムは、こうした視野を広げる一つの選択肢です。応募時点での教員免許の有無にかかわらず、選考や赴任前研修を経て、教師として学校現場に入り、授業づくりや学級経営、子ども一人ひとりと向き合っていくことができます。
年収や雇用形態といった条件だけで進路を決めるのではなく、「教育を通じて何を実現したいのか」「自分はどんな役割で関われるのか」を深められる点が、このプログラムの大きな特徴です。教師という仕事を、収入面だけでなく社会的意義や成長の機会から捉え直す視点を提供してくれます。
参考:
Teach For Japanとは
Teach For Japan 年次報告書
フェローシップ・プログラム募集要項
令和の日本型学校教育の構築を目指して(答申)|文部科学省
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