特別支援学校教諭免許状〜取得方法と令和の日本型学校教育での必要性〜
- コラム
「令和の日本型学校教育」の構築において、引き続きの進展と強化が期待される特別支援教育。障害者の権利を保障する国際条約に批准する日本にとって、特別な支援を必要とする児童生徒に対し、様々な学びの場の種類を保証することは義務とされています。今回は、特別支援教育の重要な一部である、特別支援学校に焦点を当て、特別支援学校教諭免許状の取得方法、そして、今後の特別支援教育、令和の日本型学校教育における必要性をまとめてご紹介します。
特別支援学校と特別支援学校教諭免許状
記事前半では、特別支援学校とは何か、特別支援学校教諭免許状の取得方法や現状課題をまとめてみてみましょう。
特別支援学校とは
日本には様々な特別支援教育の場が整備されており、特別支援学校は、その一種となります。文部科学省(以下、文科省)は、特別支援学校を次のように区分しています。
障害のある幼児児童生徒に対して、幼稚園、小学校、中学校又は高等学校に準ずる教育を施すとともに、障害による学習上又は生活上の困難を克服し自立を図るために必要な知識技能を授けること目的とする学校。
(引用元:2.特別支援教育の現状|文部科学省)
令和4年の時点で、幼稚部・小学校・中学校・高等学校段階で全国に1,055校の特別支援学校があります(国立・公立・私立全て含む)。令和3年度の、特別支援学校の在籍児童生徒数146,290名、教員数は86,143名に上ります。少子化に伴い、義務教育段階の在籍児童生徒数が年々減少する一方、特別支援学校の在籍児童数は上昇傾向にあると確認されています。
日本では、支援を必要とする児童生徒に向け、特別支援学校以外にも学びの場の種類が整備されています。
特別支援学校が他の学びの場と異なる点が2つあります。基本的に特別支援学校教育指導要領に添った指導が行われるという点、そして指導を担う教員に、特別支援学校教諭免許状の保有が求められる点です。
参考:
特別支援教育を取り巻く 学校施設の現状等|文部科学省
令和4年度 特別支援教育に関する調査結果について|文部科学省
関連記事:
特別支援学級とは?近年の実態と令和の日本型学校教育における課題と方向性
特別支援学校教諭免許状の取得方法
特別支援学校教諭免許状は専修、一種、二種の3種類あります。特別支援学校の免許状の取得には、幼、小、中又は高の教諭の普通免許状の保有が基礎資格とされており、この資格を満たす者は大学等の認定課程を経て免許状を取得できます。その他にも、幼、小、中又は高の教諭の普通免許状を保有し、特別支援学校も含む学校現場で3年間の職務経験を積んだ教員は、通常の認定課程より少ない単位数で、教育職員検定を活用し免許を取得できます。
認定課程 | 専修免許状 | 基礎資格 | 修士+幼、小、中又は高の教諭の普通免許状 |
単位数 | 50 | ||
一種免許状 | 基礎資格 | 学士+幼、小、中又は高の教諭の普通免許状 | |
単位数 | 26 | ||
二種免許状 | 基礎資格 | (短期大学士+)幼、小、中又は高の教諭の普通免許状 | |
単位数 | 16 | ||
教育職員検定 | 専修免許状 | 有している免許状 | 特別支援学校教諭一種免許状 |
上記免許状取得後の在職年数 | 特別支援学校で3年 | ||
単位数 | 15 | ||
一種免許状 | 有している免許状 | 特別支援学校教諭二種免許状 | |
上記免許状取得後の在職年数 | 特別支援学校で3年 | ||
単位数 | 6 | ||
二種免許状 | 有している免許状 | 幼、小、中又は高の教諭の普通免許状 | |
上記免許状取得後の在職年数 | 特別支援学校、幼、小、中、高又は中等教育学校で3年 | ||
単位数 | 6 |
保有者数の現状
本来、特別支援学校で教えるには、特別支援学校教諭免許状の保有が条件とされていますが、教員免許法附則第15項により、しばらくの間、保有していなくても特別支援学校で教えることができるとされています。
「幼稚園、小学校、中学校又は高等学校の教諭の免許状を有する者は、当分の間、 特別支援学校の相当する各部の教諭又は講師となることができる。
(引用元:教育職員免許法|e-Gov法令検索)
この規定の影響もあり、実際に、特別支援学校の教員の特別支援学校免許状の保有率は、令和5年度で87.2%に留まっています。
(参照:令和5年度特別支援学校教員の特別支援学校 教諭等免許状保有状況等調査結果の概要|文部科学省)
過去10年で保有状況は改善傾向ににあるものの、文科省は、保有率100%を目指す方針を掲げています。
コアカリキュラムの課題と今後の展望
保有率の他にも、特別支援学校教諭の認定課程にコアカリキュラムが存在しないとい課題がありました。
実際の大学現場では、教育職員免許法において定める法定単位数は満たしているものの、各領域に関連する授業科目の開設数の偏りや担当教員による教授内容の取り上げ方にばらつきがあることに伴い、カリキュラムの質の確保に関する課題が挙げられており、答申や報告においても、教職課程の内容や水準を全国的に担保するため、小学校等の教職課程同様、共通的に修得すべき資質能力を示したコアカリキュラムを作成することが必要と提言されている。
(引用元:特別支援教育を担う教師の養成の在り方等に関する検討会議|文部科学省, p.4)
コアカリキュラムの作成に向け、令和3年度より、特別支援教育を担う教師の養成の在り方等に関する検討会議(有識者会議)において、議論が重ねられ、令和4年3月には特別支援学校教諭免許状コアカリキュラム(案)が発表されました。同年7月には大学等に策定が周知され、令和5年又は6年の4月より、コアカリキュラムに基づいた教職課程が開始されるべきとされています。
コアカリキュラムは、各科目の「全体目標」「一般目標」「到達目標」を細かく整理し、教職課程の質の保証に試みます。
特別支援教育の専門性の必要性
特別支援教育の専門性は、特別支援学校以外でも重要とされています。記事後半では、少し幅広く、令和型学校教育における特別支援教育の専門性の必要性について見てみましょう。
令和の日本型学校教育における教師の専門性
近年日本の学校教育では、個別最適な学びの実現が重視されています。そして、文科省が令和4年に改正した教師に求める資質・能力の5つの柱の指標に、「特別な配慮や支援を必要とする子供への対応」が含められました。具体的な内容は次のとおりです。
特別な配慮や支援を必要とする子供の特性等を理解し、組織的に対応するために必要となる知識や支援方法を身に付けるとともに、学習上・生活上の支援の工夫を行うことができる。
(引用元:公立の小学校等の校長及び教員としての資質の向上に関する指標の策定に関する指針 に基づく教師に共通的に求められる資質の具体的内容|文部科学省)
このように、個別最適な学びの実現のために、特別支援学校、特別支援学級や通級に携わる教員だけでなく、全ての教師に求める資質・能力として方針として固められました。
参考:
教師の資質向上に関する指針・ガイドライン|文部科学省
教師に求められる資質能力の再整理|文部科学省
関連記事:
「令和の日本型学校教育」を担う教師に求められる資質能力と53の改革具体策
特別支援学級等における専門性の課題
この特別支援の知識や専門性を求める文脈の中で、特別支援学校教諭免許状は、特別支援学級等の場でも、「専門性の観点から保有が望ましい」とされています。現に、教員採用試験において、特別支援学校免許状を保有を加点対象としている自治体も多くあります。
令和3年度の、特別支援学級における特別支援学校教諭免許状の保有率は31.1%でした。文科省は、幼小中高の普通免許を保有する教師における、特別支援学校教諭免許状の保有率を向上したいと掲げおり、具体的に二つの方針を推奨しています。
- 小学校等教職課程において特別支援学校教職課程の一部単位の修得を推奨
- 特別支援学校教諭免許取得に向けた免許法認定講習等の活用
Teach For Japanが運営しているフェローシップ・プログラムでは、教育をより良くしたいと考える多様な人材を、選考・研修を通して育み、2年間教師として学校現場に送り出しています。研修段階では、教師の求められる資質・能力の1つの柱である「特別な配慮や支援を必要とする子供への対応」にも注視し、研修設計をしています。現に、特別支援学級の担任として赴任しているフェロー、過去に赴任したアラムナイもいます。
研修の特徴や、経験者の振り返り、プログラムの詳細はこちらからご覧ください。
参照:
令和の日本型学校教育」の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現~(答申)(中教審第228号)|文部科学省)
試験免除・特別の選考等(加点制度)|文部科学省
まとめ
今回は、特別支援学校と特別支援学校教諭免許状に注目し、特別支援の専門性が令和の日本型学校教育で求められている現状をまとめて紹介しました。個別最適な学びが重視される背景、そして特別な支援を必要とする児童生徒が増加傾向にある昨今、様々な子どもに対応した学びの場を提供し、彼らの学習を支えていくことは不可欠です。時代の変化に合わせて変わっていく学校のあり方、教師に求められる資質・能力が定期的に議論されている現状は、ポジティブな動向です。文科省が整備する施策・方針と教育現場での導入がいかに足並みをそろえて、改善へと向かっていくのか、引き続き注目しましょう。
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