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【中学校】次期学習指導要領に向けた議論まとめ​​〜2024年最新版〜

2017・2018年の学習指導要領の改訂から7年が経ちました。すでに次期学習指導要領の改訂の議論が始まっています。では、学習指導要領の次期改訂に向けて、現在どのような議論が行われているのでしょうか?

2023年6月、第4期教育振興基本計画(以下、第4期計画)が新たに閣議決定されました。この計画では、Society5.0時代を見据え、現代社会の問題を踏まえて、新たな基本理念を掲げています。果たしてこの新計画はどのような教育施策を掲げ、次期学習指導要領にはどのような変更が求められるのでしょうか。

学習指導要領の改訂は、日本の教育の未来に大きな影響を与える重要な論点です。そこで、本コラムでは、第4期計画の内容を整理し、次期学習指導要領改訂の方向性についてご紹介します!

学習指導要領改訂へ向けてのスケジュール

学習指導要領は、時代の変化や学習の定着状況に合わせて、おおむね10年ごとに改訂されてきました。最新の学習指導要領は、小中学校が2016年改訂・2017年告示、高等学校は2017年改訂・2018年に告示され、小学校は2020年度から、中学校は2021年度から、全校種で全面実施となっています。

従来は、高校で新学習指導要領の全面実施後に、次の改訂の議論が持ち上がるのが通例でした。しかし、内閣府の総合科学技術・イノベーション会議が2021年に設置した、「教育・人材育成ワーキンググループ」​​が、高校の全面実施前から学習指導要領の「次期改訂」を打ち出しました。その理由は、教科書の編集からサイクルを回すのに8年かかること、学校現場での準備期間が必要なことなどから、10年周期が適切だと考えられているためです。

具体的なスケジュールとしては、2022年から2024年にかけて中央教育審議会の特別部会で基本的な検討を行い、2025年から2026年に本格的な改定議論を経て、2027年に次期学習指導要領の改定を行う見込みとされています。今回の動きは従来より早いペースですが、時代の変化に合わせた対応だと言えるでしょう。

これまでの学習指導要領の変遷についてはこちらの記事も参考にしてください↓
5分でわかる小学校学習指導要領の変遷!改訂のポイントと流れを解説!(前半)
5分でわかる小学校学習指導要領の変遷!改訂のポイントと流れを解説!(後半)

教育振興基本計画とは

さて、次の学習指導要領の改訂に向けて注目するべきが、「教育振興基本計画」です。

教育振興基本計画とは、2006年に全面改正された教育基本法に基づき、政府が5年ごとに策定する教育に関する総合的な計画です。この計画は、今後5年間の国の教育政策全体の方向性や目標、具体的な施策などを定めています。また、教育振興基本計画は教育基本法に示された理念の実現と、日本の教育振興に関する施策の総合的・計画的な推進を図ることを目的に、同法第17条第1項に基づき政府が策定する計画となっています。

教育振興基本計画

第十七条 政府は、教育の振興に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、教育の振興に関する施策についての基本的な方針及び講ずべき施策その他必要な事項について、基本的な計画を定め、これを国会に報告するとともに、公表しなければならない。

(引用元:教育基本法|文部科学省 )

初めての教育振興基本計画が2008年7月に策定されて以降、第2期(2013-2017年度)、第3期(2018-2022年度)と5年おきに見直しが行われてきました。2023年6月16日に閣議決定された最新の計画は、第4期(2023-2027年度)にあたります。

第4期教育振興基本計画(以下、第4期計画)の策定に先立ち、2023年3月8日に文部科学省の中央教育審議会総会で「次期教育振興基本計画について(答申)」が取りまとめられました。この答申を受けて、政府が教育振興基本計画の原案を作成し、パブリックコメントを経て最終的に閣議決定に至りました。

第4期計画では、前期計画期間中の教育施策の成果と課題を踏まえ、2023年度から2027年度までの教育政策の基本的な方針や目標、実現に必要な基本施策、進捗状況を把握する指標等が示されています。また、地方公共団体においても、国の教育振興基本計画を参酌して、独自の教育振興基本計画や教育大綱を策定することとされており、国と地方が連携して教育施策を推進する仕組みになっています。

今後の教育政策の基本方針となる二つのコンセプト

新たな第4期計画では、前期計画(第3期教育振興基本計画:平成30年6月15日閣議決定)の成果と課題を踏まえ、2040年以降の社会を見据えた教育政策のコンセプトとして「持続可能な社会の創り手の育成」及び「日本社会に根差したウェルビーイングの向上」の二つを掲げています。


画像の出典:文部科学省(2023)「教育振興基本計画(リーフレット)」, p2

前期計画の主な成果としては、初等中等教育段階でGIGAスクール構想による ICT環境整備が進んだこと、高等教育段階で学習者本位の教育改革に向けた取り組みが推進されたことなどが挙げられます。

一方で、不登校・いじめ重大事態の増加、学校の長時間勤務や教師不足、地域の教育力低下、家庭環境の変化、高度人材不足など、様々な課題も指摘されています。また、コロナ禍で教育現場におけるグローバルな交流や体験活動が停滞したことも課題視されました。

このような現状を踏まえ、第4期計画では「持続可能な社会の創り手育成」を掲げ、未来に向け自らが社会の創り手となり課題解決に取り組む人材育成を目指します。また「ウェルビーイング向上」を掲げ、子どもはもちろん、教師や社会全体の活力向上を目指す姿勢が示されています。

加えて、第4期計画では5つの基本方針と16の教育政策目標、進捗把握の指標などが示されており、Society5.0で求められる資質・能力の育成など、具体的な方向性が示されているのが特徴です。

画像の出典:文部科学省(2023)「教育振興基本計画(リーフレット)」, p4

それでは第4期計画で提示された教育政策目標と、現行の中学校学習指導要領を比較することで、次の学習指導要領に向けてどのような変化があるのか、考えてみたいと思います。

第4期計画16の教育政策目標と現行の中学校学習指導要領

それでは、第4期計画16の教育政策目標で掲げられたいくつかの目標と、現行の中学校学習指導要領の内容を比較し、次の学習指導要領改定の方向性を考察していきます。

目標4 グローバル社会における人材育成

目標4ではグローバル人材の育成が重視されています。具体的には、日本人学生の海外留学促進、外国人留学生の受入れ推進、外国語教育の充実などの施策が掲げられており、外国語学習の到達度を測るために、新たに具体的な数値目標が設定されました。

現行の中学校学習指導要領では、CEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠)を参考に、「聞くこと」「読むこと」「話すこと」「書くこと」の4技能の目標が設定されています。しかし、具体的に中学校段階では、CEFRのどのレベルの語学力を習得するかは、明らかではありませんでした。今回の計画では英語力について、「中学校卒業段階で CEFR のA1レベル相当以上、高等学校卒業段階で CEFR の A2レベル相当以上を達成した中高生の割合の増加(5年後目標値:6割以上)」というふうに具体的な目標が設定されました。
(引用元:文部科学省|教育振興基本計画(本文)「目標4グローバル社会における人材育成」p. 49

第4期計画の方針を踏まえると、次期の中学校学習指導要領における英語科の改訂では、以下の点が重視されると考えられます。

・実践的コミュニケーション能力の育成
CEFRを参考にしながら、実際のコミュニケーションの場面で英語を運用できる実践的な能力育成を目指す内容となるでしょう。現在も重視されている「読む・書く・聞く・話す」の4技能に加え、プレゼンテーション力などを重視した目標設定となると考えられます。

・外国語交流・体験の機会の拡充
教育振興基本計画が掲げる海外留学や外国人留学生受入れの推進に対応して、オンラインも含めた海外との交流学習などのICTの活用により、中学生の外国語交流・体験の機会を増やす方向性となると推察されます。

目標6 主体的に社会の形成に参画する態度の育成・規範意識の醸成

第4期計画の目標6では、現行の学習指導要領にはみられない、新たな要素が盛り込まれています。特に注目に値するのが「子どもの主体性・意見表明の尊重」です。現行の学習指導要領では、2016年6月に日本で18歳選挙権が導入されたことで、主権者教育の推進が掲げられています。第4期計画では、そこからさらに進んで、実社会での「子どもの意見表明」を重視し、学校運営への子どもの参画や、課題解決への主体的関与を促す方針が打ち出されています。これは目標6だけでなく、目標16の「各ステークホルダーとの対話を通じた計画策定・フォローアップ」においても、国・地方公共団体の教育振興基本計画策定の際に、子どもからの意見聴取・対話をおこなうことが明記されており、子どもを市民社会の一員として認識していることがみてとれます。

このように、社会の一員として主体的に行動する資質・能力を育むため、教科の枠を超えた課題解決型の学習や、子どもの社会参加が一層重視され、学習指導要領の内容はより実践的で総合的なものへと発展していくでしょう。

目標14 NPO・企業・地域団体等との連携・協働

最後に、第4期計画の目標14は、NPOや企業、地域団体等との連携・協働を通じて、学びの多様化と地域との一体的な活動を推進することを掲げています。認定NPO法人Teach For Japan(以下TFJ)の活動はまさにこの目標の具現化につながるものと言えます。

TFJは、教育をより良くしたいと考える多様な人材を、選考・研修を通して育み、自治体との連携により、2年間「教室」に教師として送り出すフェローシップ・プログラムを実施しています。このプログラムを通して、将来の社会を創る人材育成に携わり、結果的によりよい社会の実現にも貢献することを意図し活動しています。

第4期計画が目指す「NPOとの連携」という基本施策に適うかたちで、TFJはNPOという立場から、学校と密接に連携し、質の高い教員を継続的に供給する役割を果たしています。また、フェローが地域に根差した活動を展開することで、計画が掲げる「地域と一体となった活動の推進」にも貢献しています。企業や地域社会と協働しながら、リアルな体験活動の機会を子どもたちに提供するなど、学びの場の多様化にも寄与しています。さらに、TFJの「すべての子どもが、素晴らしい教育を受けることができる世界の実現」というビジョンは、第4期計画の5つの方針である「誰一人取り残さない」という基本理念にも合致しています。

このように、TFJの活動は第4期計画の理念と方針を具体化するアクターのひとつです。今後NPOと教育現場との連携が深まることで、日本の教育課題の解決につながることが期待されます。

まとめ

第4期教育振興基本計画は、前期計画の成果と課題を踏まえ、「持続可能な社会の創り手の育成」と「日本社会に根差したウェルビーイングの向上」の2つを教育政策のコンセプトとして掲げています。これに基づき、16の教育政策目標と5つの基本方針が設定されました。

本コラムでは、政策目標のいくつかをピックアップして、次の中学校学習指導要領改訂に向けた、日本の教育政策の方向性を検討しました。この新たな計画の方針を反映して、次期の中学校学習指導要領改訂では、以下の5つの基本方針点を中心にして改訂されるでしょう。

・グローバル化する社会の持続的な発展に向けて学び続ける人材の育成
・誰一人取り残さず、全ての人の可能性を引き出す共生社会の実現に向けた教育の推進
・地域や家庭で共に学び支え合う社会の実現に向けた教育の推進
・教育デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進
・計画の実効性確保のための基盤整備・対話

TFJの活動は、第4期計画が掲げる「NPOとの協働」「地域と一体となった活動」に合致しています。TFJは子どもの学びを保障し、教員不足解消に寄与するとともに、民間企業や教員養成機関などと連携した実践的な活動も展開しています。

このように、次期学習指導要領では、第4期計画における理念と具体的な方針をもとに、社会の変化に対応した実践的な資質・能力の育成が一層重視されることが予想されます。NPOなど外部主体との協働により、一人一人の可能性を最大限引き出す多様な学びの実現が期待されています。

参考
教育振興基本計画(本文)| 文部科学省
教育振興基本計画(概要)| 文部科学省
教育振興基本計画(リーフレット)| 文部科学省
【外国語編】中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 | 文部科学省
【社会編】中学校学習指導要領(平成29年告示)解説| 文部科学省 
Society 5.0の実現に向けた教育・人材育成に関する政策パッケージ 概要| 内閣府
第4期教育振興基本計画を閣議決定,先端教育オンライン,2023年
鄭美沙「教育振興基本計画とは(1)~教育とウェルビーイング~」,第一生命経済研究所,2023年
鄭美沙「教育振興基本計画とは(3)~閣議決定版への追加事項と骨太方針2023との連動~」,第一生命経済研究所,2023年
渡辺敦司「高校で始まったばかりの新しい「学習指導要領」に、早くも改定論議…背景は?」,オトナンサー,2022年

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