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コラム column

教員不足と対策ー日本と世界における現状と諸策からの学び

日本では、昨今、教員不足の深刻化が問題視されています。例年、年度始めには、教員不足のニュースが取り上げられます。悲観的なニュアンスが強い内容が多いですが、今回は、少しステップバックし、そもそも教員不足とは何なのか、そして多くの先進諸国も直面している状況をまとめ、記事後半では、教員不足の対策をいくつかまとめて紹介いたします。

教員不足とは

そもそも教員不足とは、どのような状態を指すのか、見てみましょう。文部科学省(以下、文科省)は次のように定義しています。

臨時的任用教員等の講師の確保ができず、実際に学校に配置されている教員の数が、各都道府県・指定都市等の教育委員会において学校に配置することとしている教員の数(配当数)を満たしておらず欠員が生じる状態を指す。

(引用元;教員不足に関する実態調査 令和4年1月|文部科学省(p.3), 太字筆者追加)

ここで留意したい点が、各教育委員会が配置を指定する教員の数は、国の義務標準法等に基づき算定される教職員定数の標準ではないという点です。多くの自治体が、標準を軸に上乗せする傾向があります。

また、教員不足とは、少し掘り下げ、質的不足の観点から考えられることもあります。質的不足とは、例えば、教員が専門性が十分でない教科の授業を担う状況などを指します。質的不足にも注視する国もあり、日本でも、教育予算が議論される財政制度等審議会において、財務省は量の確保より質の確保が優先という見解を提起しました。昨今の日本の場合、上述の定義からもわかるよう、量的不足に重視した議論が行われていると言えます。

日本の教員不足の現状

上述の、教員不足の定義を踏まえ、近年の教員不足の状況を、少しまとめてみました。

文科省は令和3年度(2021/4〜2022/3)に初めて、教員不足の実態を調査しました。2021年4月の始業式時点で、1,586の小中学校において、2,086人の教員が不足していたと発表しました。同年5月には、少し改善したものの、1,350校において、1,701人の教員が不足していました。

令和5年度における調査の実施の有無や結果報告は未だ公開されてませんが、2023年の春には、各自治体において教員採用試験の倍率が低迷しているというニュースは頻繁に取り上げられました。ここで留意したい点が、倍率の低迷=教員不足ではないという事です。

記事の冒頭でまとめたとおり、教員不足とは、欠員が生じている状況のことを指します。採用定数に対する受験者の母数の減少が、必ずしも教員不足の悪化を示すわけではありません。教員不足は把握しにくいという難点がありますが、教員不足という表現を使う際には、実際の欠員の状況を指すように心がける必要があります。

関連記事・資料:
TFJは、福岡県教育委員会と「学校の教員不足」をテーマとしたセミナーを行いました。セミナーでのパネルディスカッションをぜひこちらからご覧ください。

世界的な教員不足危機について

前半では、教員不足が何なのか、日本における現状を把握をしました。日本では、年度始めにとても注目される課題ですが、教員不足は、実は、世界的な課題です。ここでは、少しステップバックし、世界的な傾向をみてみたいと思います。

教員不足は世界的課題

国際連合教育科学文化機関(以下、ユネスコ)は2016年に初めて、発展途上国に限らず世界レベルで教員不足に直面していると言及しました。そして、2022年10月の教師の日には、世界的危機であると警鐘を鳴らしました。

同年10月にユネスコが公表した研究結果によると、2030年までにSDG4である全ての子どもへの質の高い無料の公教育(小学校及び中学校)の提供を達成するためには、世界で6千9百万人の教員が必要であるという計算結果を発表しました。サブサハラ地域、南アジア地域で最も不足していると留意した上で、先進諸国における教員不足の深刻化も強調しました。

先進諸国が直面する教員不足

世界的危機であるという表現からも読み取れるよう、日本以外の先進諸国も、教員不足の課題に直面しています。例えば、2022年の時点で、オランダで9,100人の小学校教員、フランスで4,000人の教員が不足していると報告されました。他にも、オーストラリア、イギリス、マレーシア、エストニア、アメリカも直面しています。

少し古いデータになりますが、PISA2018は、OECD加盟国(38の先進諸国)における、教員不足の状況を報告しました。具体的には、調査対象の子どもたちが通う学校の校長先生のうち「教員不足が授業の妨げとなっている」と報告した割合をまとめました。平均で27.1%の子どもが通う学校の校長が教員不足で悩んでいるという結果でした。校長の主観的感覚であるため、配置予定より不足しているか否か不明確ですが、先進諸国の多くの校長先生が教員不足を経験していることが示唆されます。

世界各地での教員不足は、給与や労働環境の悪化や、立て続く教育改革などが挙げられることが多いですが、最近は新型コロナウイルスが追い討ちとなったと報告されています。

欧米の学校で教師不足が問題化している。新型コロナウイルス禍で離職した人が別の職に就くなどし、雇用が難しくなっていることが一因だ。歴史的な高インフレで、より高給の職に流れやすい状況でもある。

(引用元:欧米、教員不足が深刻化 コロナで離職、インフレも影|日本経済新聞 2023年4月29日

参考:PISA2018 Vol. 5 – Ch4. Shortages of Teachers and Supporting Staff | OECD 

教員不足への対策

最後に、日本と世界における、教員不足への対策をいくつか紹介します。まず、教員不足への対策には、2つの異なる焦点があると言えます。新しい教員の採用に注力した施策と、現職の教員の保持に向けた施策です。

より多くの教員を採用し十分な教員数を確保するための施策と、現職教員の離職率を下げるための施策は内容が変わってきます。この点を意識しながら、現行の対策をいくつかみてみましょう。

日本での対策

日本では文科省が2022年に教員不足の現状を発表してから、多くの施策が試されています。ここでは、「令和の日本型学校教育」を担う教師の養成・採用・研修等のあり方について〜「新たな教師の学びの姿」の実現と、多様な専門性を有する質の高い教職員集団の形成〜(答申)」に示された数々の施策を、分類してみましょう。

採用フォーカス

  • 採用時期の早期化
  • 社会人経験者の採用への注力(入職のあり方を模索/特別免許状に関する試み)
  • 教師という職の魅力向上 等

保持フォーカス

  • 働き方改革
  • 学校DXによる業務軽減
  • 管理職のリーダーシップ育成
  • 研修制度の改善・充実
  • 待遇の在り方の検討 等

2023年4月末には、勤務実態調査が発表され、残業の実態が報告されました。調査の結果を踏まえ、永岡文部科学大臣は、給与の法的な枠組みを見直し、待遇の改善の議論が本格化する意向を示しました。

関連記事:
教師必見!「令和の日本型学校教育」を担う教師に関する今後の3つの方向性 
「令和の日本型学校教育」を担う教師に求められる資質能力と53の改革具体策

世界での対策

次に、世界での対策をみてみましょう。

教員不足に悩むベルギーのフランデレン地域では、採用に注力した施策が少しずつ結果を出しています。具体的には、10年の社会人経験がある者は、学校に転職した際の役職に年功が反映されるといいます。他にも、新任教員に、週3時間の有給を与えるボーナス制度を作り、研修に参加できる時間を確保しています。また、副業として学校で働けるよう雇用形態の柔軟性も高めたといいます。特徴的なのが、社会人経験者が教職に転職するケースが増えている点です。2021-22年には、約4,400人の社会人が教員に転職し、前年度と比較し小学校で45%、中学校で66%の上昇したと報告されています。

イギリスでは、現職の教員の保持を注視した議論が行われています。イギリスの教育ニュースが多く取り上げ議論されるTesは、次のように呼びかけています。

シンプルで効果的な方法のひとつは、すでに築き上げた優秀なチームが、学校内でキャリアを積めるようにすることです。つまり、育成的で協力的な環境を提供し、スタッフが学校にいる間にキャリアの次のステップに進むために必要な研修を提供することです。キャリアアップとは、管理職への昇進や転職を意味するのではなく、教員が専門的な知識と教室での自信を養うための研修です。 

(引用元:Global teacher shortage: the rise in job vacancies|Tes Institute、筆者訳)

スタンフォード教育大学院のダーリング・ハモンド名誉教授らは、教員不足を克服した国・地域1の政策の共通点を6項にまとめています。

  1. 学校への公平な資金提供
  2. 大卒者が就く他の職業の水準以上の報酬
  3. 新任教員がほとんど費用をかけずに利用できる質の高い準備研修
  4. 学歴だけでなく、教職へのコミットメントと気質を備えた候補者の注意深い採用
  5. 研修済みのメンターによる新任教員へのサポート
  6. 専門的な学習と協力のための継続的な時間確保と支援
    (引用元:Breaking the Cycle of Teacher Shortages: What Kind of Policies Can Make a Difference? |Darling-Hammond & Podolsky (2019), p.9 筆者訳

このリストや、上述の対策の多様性からもわかるよう、日本だけでなく世界各地で、多角的なアプローチがとられています。

1) オーストラリア(ニューサウスウェールズ州&ビクトリア州)、カナダ(アルバータ州&オンタリオ州)、中国(上海)、フィンランド、シンガポールの5カ国。

まとめ

今回、教員不足とは何か、日本と世界における現状と対策をまとめて紹介しました。教員不足は、日本に限らず、多くの先進諸国が直面している世界的な課題です。この状況から汲み取れる利点としては、諸外国も試行錯誤し対策しているため、学びの機会があるということです。教育政策は国際比較し得られる知恵があります。国の状況が異なるため、政策をそのまま真似して導入とはいきませんが、各国が対策の有効性を示すデータを共有することで、相乗効果が期待できます。教育課題に対する対策の効果を実感するのには、とても時間がかかります。効果がすぐに確認できないからといい、国や教育委員会、他の教育関係者が試行錯誤していないわけではありません。批判など、議論が行われることは健全な社会には大事ですが、数年で結果が出ないからといい見切りをつけたり、否定に走る必要はないと思います。教員不足の課題が、今後どのように、着実に改善されていくのか、引き続き、長期的に注目していきましょう。

最後に、TFJは、教育をより良くしたいと考える多様な人材を、選考・研修を通して育み、自治体との連携により、2年間「教室」に教師として送り出すフェローシップ・プログラムの実施しています。応募の時点で教員免許状の有無は問わず、選考や赴任前の研修プロセスを経て、臨時免許状や特別免許状を活用し教員になることができます。 文科省が模索する多様な入職や社会人経験者の入職ルートになったりと、昨今の教員不足への対策と親和性の高い活動です。

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参考:
教員採用、曲がり角に 試験の「倍率頼み」限界〜|日本経済新聞
教員「残業代」増や新手当を検討 文科省、人材確保狙う|日本経済新聞
教員不足の解決策となるのか 採用倍率増へ教育委員会の取り組み|NHK
教員人気を上げるには?大学生の調査に見る「最も現実的な方法」は何か|東洋経済 education * ICT
財務省vs文科省、財政制度等審議会「教員の量と質」を問う教育予算の行方|東洋経済 education * ICT
学校崩壊の危機― “ブラック職場” で志望者も減少、深刻化する教員不足|nippon.com (板倉)
教員不足問題とは? 人手不足が教育現場に与える影響|日経ビジネス
ドイツの初等教育における教員不足問題―量的側面と質的側面―|榊原&清水(2021)
教員不足6つの処方箋|論座(佐久間教授)
Understanding Teacher Attraction and Retention Drivers: Addressing Teacher Shortages|Ashiedu & Scott-Ladd (2012)
Are we at a crisis point with the public teacher workforce? Education scholars share their perspectives|Brookings
Solving the teacher shortage crisis: how some countries are working to it|Aristorenas(2018)NCEE
Teacher employment|OECD
Teacher Shortages: What Are We Short Of?|Craig et al. (2023)
Education Committee launches new inquiry into teacher recruitment, training, and retention|UK Parliament 
Efforts to combat teacher shortages in Flanders starting to bear fruits|belga news
World Teachers’ Day: UNESCO sounds the alarm on the global teacher shortage crisis|UNESCO
The shortage of teachers is a global crisis: How can we curb it?|Global Partnership for Education
Weekly round-up: Teacher shortage, the pay battle and Ofsted|tes
How might teacher shortages be reduced?|Economic observertory 
What do teacher shortages look like, and what do they mean for pupils’ learning?|NEFR
Global teacher shortage: the rise in job vacancies|Tes Institute

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