【教育×ジェンダー】学校で男女混合名簿を使うメリットとは?
- コラム
ジェンダーギャップの是正は世界各地において重要な社会課題であり、日本も例外ではありません。学力の男女差は世界トップレベルまで縮めることに成功している一方で、その他の男女差を示すデータの数々は日本にジェンダーギャプが根強く潜在している事実を示しています。男女平等そして人権の観点から推奨されてきた学校での男女混合名簿(性別によらない名簿)。近年、男女混合名簿を使用する学校が増えていますが、未だ100%導入に至りません。ジェンダー平等が謳われる昨今、なぜ男女混合名簿が重要なのか、そして何が導入を妨げているのか、まとめてご紹介します!
男女混合名簿と採用への動き
男女混合名簿の重要性を理解するために、まず男女混合名簿とは何なのかみてみましょう!
男女混合名簿とは?
全国の学校では、男女混合名簿を導入している学校、従来の男女別名簿を使っている学校と様々です。まず、男女混合名簿とは何か、男女別名簿と一緒に説明を見てみましょう。(近年、男女混合名簿は「性別によらなう名簿」とも呼ばれています。)
(男女混合名簿Q&A|東京都公立学校教職員組合を参考に筆者作成)
男女混合名簿が性別により生徒児童を区別しないのに対し、男女別名簿は性別により区別し、かつ男子→女子の順に並べます。学校で名簿は頻繁に使われるため、名簿が男女を区別するか否かでは大きな違いをもたらします。例えば、テストやプリントを出席番号順に返却するとき、男女別名簿の場合、女子は男子の順番が終わるのを待ちます。他にも、出席番号順に整列する際、男子は前・女子は後ろに並びます。さらに、日常的な男女の区別は「男子は男子」「女子は女子」と分類を強調してしまうリスクもあります。
男女混合名簿の採用への動き
日本では男女別名簿が根強く使われてきました。しかし、1985年にナイロビで行われた第3回世界女性会議にて、学校で男女別名簿を使っている国は18カ国中、日本とインドのみだということが分かりました。その後、1999年の男女共同参画社会基本法の制定以来、徐々に教育分野での男女混合名簿への移行が推奨されるようになったと言います。
2000年代以前より、男女混合名簿を採用していた学校はありましたが、日本では男女別名簿が主導で使われてきた過去があります。20代以上の方々にとって、男女別名簿で学生時代を過ごした方が多いのではないでしょうか。
男女混合名簿の採用状況
近年、男女混合名簿が全国的に普及しており、未だ実施に至らない地域でも導入に向け準備が進められています。現在の男女混合名簿の実施率は地域によりさまざまです。データの集計年次が古い地域もありますが、令和2年度での男女混合名簿の公立学校での採用率データをまとめてみました。
(参照資料1~8をもとに筆者作成)
高知市の小中学校、福岡市の小学校のように、100%導入されている地域がある一方、50%に満たない地域もあることが読み取れます。文部科学省などによる一括した調査や全ての自治体による調査が実施されていないため、全国の状況を把握することはできませんが、混合名簿の採用にばらつきがあることがわかります。
男女混合名簿が着々と採用されている現状を踏まえ、記事後半では男女混合名簿を使うメリット、そして地域により導入を妨げている壁をご紹介します。
参照資料:
1) 公立学校の男女混合名簿の使用状況について|岩手県
2)市議会レポートVol.3|民主改革さいたま市議団
3)第6次江東区男女共同参画行動計画の令和元年度進捗状況調査報告について|江東区
4)高知市の男女共同参画行政 令和元年度|高知市市民協働部
5)第7期 福岡市男女共同参画審議会(第2回)議事録
6)第1章 熊本県における男女共同参画社会づくりの状況|熊本県
7)男女混合名簿ー小学校は146校活用|宮崎県夕刊デイリー(2018)
8)男女混合名簿の導入進む 小学90%、中学88% 沖縄県教育庁調べ|琉球新聞デジタル
男女混合名簿を使うメリット
男女混合名簿の採用は、男女共同参画や人権の観点から推奨されています。
ジェンダー意識、男女平等意識の育成
男女関係なく五十音順に並べる男女混合名簿は男女平等、男女共同参画の観点から推奨されています。男女別名簿の男子が先、女子が後という序列は、子どもたちに男子が優位という意識を抱かせてしまうリスクがあります。現に男女混合名簿を推奨する自治体は、次のように懸念の声を挙げられています。
仮に、義務教育と高等学校の12年間、この序列に浸れば「男が主、女は従」、「男は正、女は副」という序列が身にしみてしまうのではないでしょうか。
(引用元:混合名簿はなぜ必要なのでしょう?|島根県立男女共同参画センター)
我が国の教育現場では、長期わたって、男が先の男女別名簿が使用され続け、社会における「男が優位」の価値観を生徒に意識的・無意識的に抱かせる効果に繋がり、また、教師や保護者にも同価値観が醸成される背景となったことは否定できない。
(引用元:意見表明書|豊島区(2017))
この様に、男女別名簿における男性優位の価値観を無意識に抱かせてしまう点を考慮し、各自治体では男女混合名簿の実施の重要性を強調しています。
子どもたちのジェンダー意識は、家庭や学校、近所での家族・先生・友人などとの関わり合いの中で形成されます。学校は「男はこうあるべき、女はこうあるべき」などのジェンダー規範を内面化する重要な場の一つです。そのため、日常的に使われる名簿は子どもたちのジェンダー観に影響を及ぼすであると注視されています。
男女混合名簿の中学生のジェンダー意識への影響を調査した研究によると、男女混合名簿は男女平等に扱っていると捉えた生徒が男女ともに80%を超えていたことが示されています(伊藤, 2007)。この点から、男女混合名簿の使用は、生徒がジェンダー平等意識を抱くのに有効であると考察されています。他にも、混合名簿の採用校・未採用校のジェンダー平等意識を比較調査した研究では、混合名簿採用校の児童の方がより男女平等という意識により「敏感」であることが示されました(梛野・日景, 2008)。
ニュートラルな性の児童生徒のインクルージョン
性別により区別しない男女混合名簿は人権の観点からも推奨されています。学校には、身体的な性別が判断しずらい半陰陽などの子どもや、生まれ持った性と自分の心の性が異なるトランスジェンダーの生徒児童もいます。
(筆者作成 基礎用語|NPO法人 LGBTの家族と友人をつなぐ会より引用)
このような生徒児童にとって、日頃から自分のアイデンティティと異なる性で区別されることは人権の損害になりかねないとの懸念があります。兵庫県西宮市の男女行動参画推進委員会では次のような声が挙げられています。
子どもたちを男女別に扱うということは、性同一性障害を無視しているということになり、人権問題 にもかかわってきます。性自認が違う子どもは大変苦しいと思います。
(引用元:西宮市男女共同参画推進委員会 平成28年度 第2回会議録|西宮市)
同様に沖縄県那覇市では、性の多様性の観点から、男女混合名簿の導入する重要性を訴えています。
自らの「性」に悩み、それを声に出して言えない辛さを感じている子ども達への対応が必要だと考えております。
出席簿における「男女混合名簿」の導入によって、児童生徒が「性の多様性」を自然に受け入れ、性別を超えて誰に対しても男女区別なく接することができる、また、互いに一人の人間として、他を尊重できる態度が育てられるようになると考えます。
(引用元:学校にけるLGBT等への配慮に関する指針|那覇市教育委員会)
さらに、性別違和を覚える高校生が東京都江戸川区に寄せた陳情には、男女別名簿の使用に対し次のような意見が述べられています。
LGBT含む性的マイノリティのなかでも、とりわけ性別違和をもつ生徒やトランスジェンダーの生徒にとっては大きな精神的苦痛を伴うものであると同時に、江戸川区男女共同参画推進計画や、江戸川区で推進しているSDGsが掲げる目標5のジェンダー平等の実現にもそぐわないものと考えます。
(引用元:江戸川区立小中学校における名簿を男女混合名簿にするよう求める陳情|江戸川区議会)
性の多様性を理解し、全ての子どもを尊重するためにも男女混合名簿を使うことが重要だということがわかります。
男女混合名簿導入への壁
男女平等意識の育成や多様な性の個人を尊重するために重要とされている男女混合名簿ですが、2021年現在も全国100%実施には至っていません。20年近く推奨され続けている男女混合名簿の実施が達成されない背景を調べたところ、2点の壁が出てきました。
学校判断での採用
男女混合名簿の採用は、文部科学省や教育委員会などが決定を下すことなく、各学校の判断に委ねられています。各自治体での大まかなスタンスは確立されているものの、最終的な判断は学校が行います。
そのため、同じ地区でも男女混合名簿の採用率にばらつきがあり、かつ、小学校では混合名簿、中学に上がると男女別名簿に逆戻りという地区もあります。男女混合名簿の足並みを揃えた導入に向け、各自治体では地域全体としての方針が定期的に話し合われています。
教職員にとっての利便性
学校が不採用を選ぶ背景に、男女混合名簿が教職員の手間を煩わせるという声が幾度と挙げられていることがわかりました。
1番多く目にしたのが、男女別で行う保健体育の授業や健康診断の際に不便という点でした。他にも、緊急時の避難における安否確認においても、男女別名簿の方が良いという声も挙げられています。
大規模災害等の緊急時の 安否確認は必ずしも担任が行うとは限らず、近年名前から男 女を判断することが困難な場合もある。そのため、男女別名 簿の方が素早く、適切に児童・生徒の人数や安否を把握でき ることから、緊急時の安否確認をも視野に入れると男女別名 簿が適当と考えているとのことであった。
(引用元:男女共同参画に関する苦情処理報告書について|所沢市)
同様の理由で男女混合名簿導入に切り出せていない自治体・学校でも、最近の校務システムの発達により、簡単に用途別に名簿作成できるようになったため、前向きな姿勢がとられています。
また、各自治体内で足並みを揃えた実施を実現させるために、導入校は、男女混合名簿を使用しても支障がないことを伝えていく必要があると呼びかけられています。他にも、男女混合名簿を採用した際の生徒児童への利点を検証し示していくことも有効と言われています。
まとめ
今回、学校で日頃から使われる名簿に注目し、男女混合名簿についてご紹介しました。男女を区別せず、序列をつけない男女混合名簿は、子どもたちの男女平等意識の育成、そしてニュートラルな性の生徒児童の尊重のために重要だということがわかりました。現時点での採用率にばらつきはありますが、各自治体が足並みを揃えた導入に向けて模索し話し合われていることもわかりました。男女混合名簿は学校現場から男女平等の意識を推奨する一つの方法です。子どもたちが無意識のうちに内面化していくジェンダー観に少しでもバイアスがなくなるためにも、男女混合名簿は必要とされています。この記事が、毎日使われる名簿に潜むジェンダー概念について考えるきっかけになりましたら幸いです。
ジェンダーギャップと教育の関係性について注目した記事も是非ご一緒にご一読ください▼
【教育×SDGs】日本のジェンダーギャップ是正に向け教育ができることとは?
参考:
(5)男女共同参画社会づくりについて|岐阜市
(令和2年8月28日開催)令和2年度第1回長久手市男女共同参画審議会|長久手市
令和2年度 男女混合名簿の使用状況について|岩手県
令和元年度第2回福島県男女共同参画審議会議事録|福島県
会議結果 平成28年度みよし市男女共同参画審議会|みよし市
公立学校の男女混合名簿の使用状況について|岩手県
報告書(6)男女混合名簿に関する件|名古屋市
学校における名簿作成について|あきる野市
学業的自己概念の形成におけるジェンダーと学校環境の影響|教育学研究
市議会レポートVol.3|民主改革さいたま市議団
平成20年度の苦情及び相談の申出の処理の概要|岩手県庁
意見表明書|豊島区(2017)
混合名簿はなぜ必要なのでしょう?|島根県立男女共同参画センター
渋谷区 男女平等・多様性社会推進行動計画 進捗状況報告書 2017年度|渋谷区
男女共同参画に関する苦情処理報告書について|所沢市
男女共同参画の形成の促進に関する施策についての苦情内容の把握について|内閣府男女共同参画局
男女混合名簿ー小学校は146校活用|宮崎県夕刊デイリー(2018)
男女混合名簿Q&A|東京都公立学校教職員組合
男女混合名簿からみる中学生のジェンダー意識|伊藤倫子
男女混合名簿にまつわるエトセトラ|公益財団法人おきなわ女性財団
男女混合名簿の導入進む 小学90%、中学88% 沖縄県教育庁調べ|琉球新聞デジタル
男女混合名簿を実践して|川治島 国際女性フォーラムin彩の国(1996)
男女混合名簿採用校と未採用校における学校生活に対する児童と保護者のジェンダー平等意識|弘前大学教育学部紀要
第1章 熊本県における男女共同参画社会づくりの状況|熊本県
第6次江東区男女共同参画行動計画の令和元年度進捗状況調査報告について|江東区
第7期 福岡市男女共同参画審議会(第2回)議事録
西宮市男女共同参画推進委員会 平成28年度 第2回会議録|西宮市
高知市の男女共同参画行政 令和元年度|高知市市民協働部
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