
教員不足 教員養成課程との関係性と海外の取組事例
- コラム
教員不足が深刻化する昨今、文部科学省は、2024年12月、中央教育審議会に、教職への門戸を広げるべく、免許制度の見直しや教員養成の検討を諮問しました。今回は、改めて教員不足の実態を紹介するとともに、近年の対策の取り組みのまとめ、そして、免許制度、養成課程における海外での取り組みを紹介します。
教員不足の実態
教員不足とは、本来学校に配置する予定だった教員数を満たせず欠員が生じている状態を指します。文部科学省(以下、文科省)は令和4年度に、実態調査を実施し、令和3年(2021年)4月の始業式時点で、1,586の小中学校において、2,086人の教員が不足していたと発表しました。
(データ:「教師不足」に関する実態調査|文部科学省)
以後、全国の実態は公表されていませんが、自治体レベルで調査報告が公表されている地域もあります。例えば、日本共産党東京都議会議員団は東京都内60自治体からの回答を元に調査を行い、令和5年4月時点で、小学校で238 人、中学校で72人の教員不足が生じている状況を公表しました。他にも、熊本県教育委員会は、令和5年5月時点で、小中高そして特別支援学校において計110人の教員が未配置であった状況を報告しました。
また、2024年10月時点に全日本教職員組合が行なった教職員未配置数の調査では、34都道府県11政令市において、計4,739人の教職員が未配置であるとわかりました。未配置のうち、4割弱が、未配置のまま「校内の教職員でやり繰り、少人数授業とりやめなど」で対応していることが報告されました。残り6割は、非常勤等で授業などは対応できているものの、校務分掌などの業務は対応できていないという結果でした。
文科省は、各教育委員会で「依然として厳しい教師不足の状況」であることを把握しており、教員不足の解消に向け一層の取組を呼びかけています。
参照:
「教育に穴があく(教職員未配置)」実態調査結果(10 月)|全日本教職員組合
教員不足の解消に向けて|熊本県教育庁教育総務局学校人事課
小中学校の教員不足状況の調査結果について|日本共産党東京都議会議員団
「教師不足」に関する実態調査|文部科学省
近年の日本の取組事例
取組の方向性
文科省は、教員不足の対策の方針を短期的と長期的な対策に整理しています。短期的な対応策の軸は、教員免許保持者の入職促進です。一方、長期的対策としては、免許取得者・教職志望者の増加を目指すとしてます。
例えば、短期的な対策とし、免許保持者の入職を促すために、ペーパーティーチャー(免許状を有しているが教職についていない者)向けにセミナーを積極的に行なっている自治体は多くあります。他にも、大阪府は学校で働くための心構えや授業作り、今の学校の様子が学べる「教員スタートアッププログラム」を実施しています。また、我々Teach For Japanも福岡県と連携し、教員を目指す方向けのトークイベントも行いました。また、社会人の教職への入職を促進するために、令和4年度では68自治体中59自治体が社会人向け特別選考を実施していました。
参照:多様な専門性を有する質の高い教職員集団の形成を加速するための方策について(諮問)(参考資料)|文部科学省
特別免許状・臨時免許状の活用依頼と実態
長期的な対策である免許取得者の増加に向け期待されるのが、特別免許状、そして臨時免許状の活用です。文科省は、令和4年に公表した教師不足の実態調査に併せ、各自治体で特別免許状・臨時免許状の活用を促す依頼を出しました。
特別免許状は、「教員免許状を持っていないものの優れた知識経験等を有する社会人を教師として学校現場に迎え入れることにより、学校教育の多様化への対応や、その活性化を図るために授与することができる免許状」であり、基本的に多様な人材の入職を促すために活用が期待されています。
臨時免許状は、「他に有効な普通免許状を有する者を合理的な範囲の努力により採用することができず、都道府県教育委員会が必要と判断した場合」に授与される免許状とされており、あくまで普通免許状を有する者を採用できない場合に限り活用されるべきとされています。また臨時免許状は、基本的に発行から3年間、授与された自治体のみで有効とされています。
過去10年の、特別免許状と臨時免許状の授与状況を見てみましょう。
(データ:教員免許状授与件数等調査について|文部科学省)
2つの図から、授与件数は徐々に増加しているものの、授与件数全体を占める割合はほぼ横ばいであることがわかります。特に多様な経験を有する社会人の教職への入職において活用が期待される特別免許状は有効に活用されていない状況が伺えます。
現に、教員採用者のうち民間企業等の勤務経験者の割合の経年変化を見てみると、増加していない現状が読み取れます。

(データ:公立学校教員採用選考試験の実施状況|文部科学省)
参照:教師不足に対応するための教員免許状等に係る留意事項について(依頼)|文部科学省
教員不足と教員養成の関係性
教員不足と教員養成課程はとても関連性が強く、文科省は、教員不足の対策とし「教職課程の弾力化」も検討しています。近年日本では、教育実習時期や履修単位の見直し、4年制大学における二種免許状の取得を可能にする特例の改正などが行われてきました。
日本と同様に教員不足に直面する諸外国は、教員養成課程の環境整備に注力してきました。記事後半では、教員養成及び教職入職ルートに関する海外の事例をみてみましょう。
関連記事>教員不足と対策ー日本と世界における現状と諸策からの学び
海外の教員養成課程の取組事例
教員不足は日本に限らず、多くの先進諸国が直面している国際的教育課題です。海外では、成り手を増やすために、教員養成課程の多様化が進んでいます。どのような取り組みがあるのか紹介します。
イギリス(イングランド)
イギリスでは、従来、大学が提供する教職課程を経て教員資格を取得するルートが主流でしたが、教員不足に直面した教育省は、入職ルートの多軸化に尽力してきました。今では、大学に限らず、学校での実習を主導とした養成課程が複数整備されています。現に、2023/4年度には、養成課程に在籍する半分以上が、学校主導のプログラムに在籍していました。
Teach For JapanのグローバルパートナーでもあるTeach Firstは、イギリスの教員養成において大きな役割を果たしており、特に新卒者の教職への誘致に成功しています。従来、学士卒業後、大学における教職課程で学費を払い教員免許を取得するところ、Teach Firstの独自の選考を通過した人は、1年目から無資格の教員(Unqualified Teacher)として学校で働き始め、給料をもらいながら研修を受けることができます。1年目の終わりには教員資格を取得することができ、2年目からは有資格の教員の給料に変わります。プログラム参加者は、現場で経験を積むだけでなく、包括的な研修やコーチングも受けらるのが特徴です。
(参考資料:What Happens on the training programme|Teach First)
オランダ&ヨーロッパ
オランダでは、2000年より短期養成課程が試験的に導入され、教職に就くことを希望する社会人が、学校で臨時的契約で教員として働きながら研修や講義を受け、2年間学校で働いた後に教員免許を取得できる仕組みを導入しました。
ヨーロッパではオランダ以外でも短期養成課程や、実践重視の就業型養成課程等が整備されています。
(参考資料:Teachers in Europe: Careers, Development and Well-being Eurydice Report|European Commission)
その他
その他にも、アメリカ、オーストラリアやニュージーランドでも、従来の大学における教職課程以外でも、教員資格を取得できるモデルが整備されています。これらの教育システムに共通しているのが、特別・短期教員養成課程を開拓し始めた理由に、教員不足という課題がある点です。従来の教職課程に進学する教員の成り手の減少への対策として、教員養成の短期化や、そして社会人等も大学に戻ることなくお給料をもらい続けながら教員資格が取れる就業型の課程が構築されてきました。2000年以降に徐々に増えているのが現状であり、国によっては、今も試験的導入として有効性を測定し、慎重にシステム構築に取り組んでいます。
参考文献:
Solomon, M. 2019. School based pre-service (initial) teacher training programs in the USA and the UK.
Hofmeyr, J. 2016. International Literature Review on Alternative Initial Teacher Education Pathways.
Grow Your Own – Local Teacher Pipeline|NSW Government
Teach For Australia|Australian Catholic University
Teach For Japanが運営しているフェローシップ・プログラムでは、教育を通して社会をより良くしたいと考える多様な人材を、選考・研修を通して育み、2年間教師として学校現場に送り出しています。選考段階で、免許の有無は審査されず、無免許のプログラム参加者は連携自治体が発行する臨時免許を活用して1年目から学校で教員として働くことができます。プログラムの修了時点で、普通免許が発行されるモデルは構築されていませんが、プログラム中に、教員資格認定試験や通信制の教職課程を経て普通免許を取得する参加者は複数います。
まとめ
今回、教員不足に注目し、近年の日本の対策、海外での教員養成課程の多様化による取り組みをまとめて紹介しました。日本では、教員養成課程の多様化はあまり進んでませんが、中央教育審議会にて多様な専門性を有する質の高い教職員集団の形成を加速するための方策として、教員養成課程、入職ルートについて活発に議論され始めています。教員不足は、現職教員の方々の勤務環境、そして子ども達の学習・成長にも影響を及ぼす深刻な課題です。すぐに解決できる課題ではありませんが、国際的な課題でもあるため、諸外国の先行事例から学ぶこともできます。今後、どのように資質・能力の担保をしながら教員の成り手の増加、社会人の教職への誘致が進んでいくのか引き続き注目しましょう。
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