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令和時代の教育課題と教員に求められる3つの資質能力とは?

2020年は教育改革の年と言われています。では、改革の背景となる「教育課題」にはどのようなものなのでしょうか?そして、学校教育で子どもたちに直接関わる教員に求められる資質や能力とは?今回の記事では、令和2年度の概算要請額(国の予算編成に先立って、政策を実施するのに必要な経費の見積)を参考にして、令和の教育課題とこれからの教員に求められる3つの資質能力をご紹介します。

令和時代の教育課題

新学習指導要領の導入、外国語教育の充実など、2020年には多くの改革が行われています。また、新型コロナウイルスにより、学校教育や社会全体が変化を求められています。

では、一体何が教育課題として存在しており、どのような取り組みが行われているのでしょうか? ここでは、令和2年度の概算要求額が大きい上位5つ(教科書の無償給与は除く)に着目して、何に教育予算が多く使われているかを確認するとともに、背景にある教育課題を解説していきます。なお、初等中等教育における要求額を参考にしているため、大学改革などは含まれていません。

項目概算要求額・要望額
新学習指導要領の円滑な実施と学校における働き方
改革のための指導・運営体制の構築
1兆5,361億6,300万円
高校生等への修学支援等3,985億5,470万円
新時代の学びを支える先端技術の活用推進394億2,200万円
幼児教育の振興347億3200万円
虐待、いじめ・不登校対応等の推進76億2,400万円

令和2年度 概算要求主要事項|文部科学省初等中等教育局,P1-6をもとに筆者作成)

上記の表以外にも、教育課程の充実や情報教育・外国語教育の充実、道徳教育の充実、キャリア教育・職業教育の充実、特別支援教育の充実などが概算要求額に含まれています。

新学習指導要領の円滑な実施と学校における働き方改革のための指導・運営体制の構築

これは公立義務教育諸学校の教職員の給与に関わる部分の予算となり、要求額の約74%を占めています。この項目から見える教育課題は、下記の3つです。

・子どもの新たなスキルや資質の育成
新学習指導要領では、小学校における外国語教育の教科化やプログラミング教育の実施など、グローバル化・IT化している社会に対応していく必要があるため

・学校機能を強化
障害を持つ児童生徒への指導の充実や外国人児童生徒に対する日本語指導教育の充実、いじめ・不登校の未然防止・早期対応、貧困による学力課題の解消など、複雑化・困難化する諸課題に対応できる指導・運営体制を構築するため

・教員の働き方改革
教員の長時間労働による過労死が起きていることや、精神疾患者が毎年約5,000人出ていることへの対応が急務であるため

これらのことから、教職員定数の改善や専門スタッフ・外部人材の配置拡充、業務の適正化などの推進が行われています。具体的には、小学校英語専科指導のための加配定数や補習、部活動指導のための指導員派遣、スクールカウンセラー・スクールソーシャルワーカー・特別支援教育専門家の配置などが挙げられます。

高校生等への修学支援等

全ての意志ある生徒が安心して教育を受けられることを実現するために、私立高等学校の授業料を実質無償化し、高校生への奨学給付金が支給が進められています。

私立高校に通う年収590万円未満の世帯の生徒を対象に、高等学校等就学支援金を私立高校の平均授業料の水準まで引き上げることで私立高校授業料の実質無料となります。また、非課税世帯への第1子の給付額が国公立・私立共に引き上げられます。

そうすることで、家庭の経済事情にかかわらず、希望する質の高い教育を受けられる社会の実現が成果として期待されています。

参考
令和2年度 概算要求主要事項|文部科学省初等中等教育局,P113

新時代の学びを支える先端技術の活用

Society5.0時代の「誰一人取り残すことのない、公正に個別最適化された学び」を実現するために、遠隔教育や先端技術を活用したGIGA(Global and Innovation Gateway for ALL)スクール構想が2019年に打ち出されています。

また、当初は2023年までに「1人1台端末」を実現する計画だったものが、新型コロナウイルスの影響で前倒しして進められています。「1人1台端末」の早期実現には、1,951億円が補正予算額で確保されており、1台4.5万円を上限に端末の整備が進められています。

さらに、学校ネットワーク環境の整備や緊急時における家庭でのオンライン学習環境の整備、学校における環境整備の初期対応を行うGIGAスクールサポーターの配置などの事業も並行して進められています。

GIGAスクール構想や学校のICTの現状に関してはこちらの記事で詳しく解説しています↓
学校のICT化とは?ICT活用状況とGIGAスクール構想の要点整理!

参考
令和2年度補正予算概要説明~GIGAスクール構想の実現~|文部科学省,P6

幼児教育の振興

幼児期の教育が生涯にわたる人格形成の基礎を培う重要なものであるという認識のもとに、幼児教育の振興が進められています。

2019年10月から幼児教育無償化措置が実施されており、3歳~5歳までの子どもと0歳~2歳までの住民税非課税世帯の子どもを対象に、認可外保育施設や預かり保育事業など市町村が認めた施設の利用料が支給されます。

また、幼児教育の質向上を図るために、新幼稚園教育要領の理解促進やOECDで計画されているECEC(Early Childhood Education and Care) Networkへの参加などが進められています。さらに、環境整備の充実を図るために、認定こども園への財政支援や耐震化・バリアフリー化などのための私立幼稚園施設整備などの環境面での補助も行われています。

参考
令和2年度 概算要求主要事項|文部科学省初等中等教育局,P52

虐待・いじめ・不登校対応等の推進

児童相談所における児童虐待相談対応件数は、1990年の時点では1,101件だったのに対して、2018年には159,850件にまで増加しています。また、いじめの認知件数や不登校も増え続けています。

いじめ防止対策推進法などの法整備を踏まえて、いじめの未然防止、早期発見・対応、教育相談体制の整備、インターネットやSNSを通じて行われるいじめへの対応など、支援体制の整備と専門スタッフの充実が図られています。

その中でも、スクールカウンセラーとスクールソーシャルワーカーの充実に予算の9割以上が充てられており、人的サポートを充実させる方針が読み取れます。それ以外にも、24時間子供SOSダイヤルやSNSを活用した相談体制の構築に対する支援、不登校児童生徒に対する支援推進、夜間中学の設置促進・充実などの取り組みなどがあります。

参考
平成30年度 児童相談所での児童虐待相談対応件数<速報値>|厚生労働省,P1
児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要|文部科学省
令和2年度 概算要求主要事項|文部科学省初等中等教育局,P52

これからの教員に求められる資質能力

使命感や責任感、教育的愛情、教科や教職に関する専門的知識、実践的指導力、総合的人間力、コミュニケーション能力など、教員が備えるべき資質能力はこれまでに繰り返し述べられてきました。

では、これからの変化が激しい時代において、教員に求められる資質能力はどのようなものなのでしょうか? ここでは2015年12月21日の中央教育審議会答申をもとに3つの資質能力をご紹介します。

自律的に学び続ける力

変化が激しい時代において、学び続ける教員像が強く求められます。さらに、自身のキャリアステージに応じて、求められる資質能力を高めていく力も必要であり、それは生涯にわたって高め続けていくものでもあります。

これまで教員として不易とされてきた資質能力に加え,自律的に学ぶ姿勢を持ち,時代の変化や自らのキャリアステージに応じて求められる資質能力を生涯にわたって高めていくことのできる力や,情報を適切に収集し,選択し,活用する能力や知識を有機的に結びつけ構造化する力などが必要である。

(引用元:教員に求められる資質能力等について(近年の提言等より抜粋)文部科学省,P4)

新たな課題に対応できる力

外国語教育の教科化やプログラミング教育の実施など、時代や社会の変化によって未来を切り拓いていく子どもに適した資質・能力は変化します。だからこそ教員は、探求心を持ち、適切な情報を得ることで、自身が新たな課題に対応できる力をつけるとともに、子どもにも課題に対応できる力をつけることが求められます。

アクティブ・ラーニングの視点からの授業改善,道徳教育の充実,小学校における外国語教育の早期化・教科化,ICTの活用,発達障害を含む特別な支援を必要とする児童生徒等への対応などの新たな課題に対応できる力量を高めることが必要である。

(引用元:教員に求められる資質能力等について(近年の提言等より抜粋)文部科学省,P4

組織的・協働的に課題解決できる力

子どもたち1人ひとりの力を伸ばしていき、将来の夢や目標を実現していくためには、1人の教員だけではなく「チーム学校」として、学校内外からの多様な人材との組織的・協働的な課題解決能力が求められます。

「チーム学校」の考えの下,多様な専門性を持つ人材と効果的に連携・分担し,組織的・協働的に諸課題の解決に取り組む力の醸成が必要である。

(引用元:教員に求められる資質能力等について(近年の提言等より抜粋)文部科学省,P4

Teach For Japanの取り組み

TFJは、世界60ヵ国以上に広がるTeach For Allというグローバルネットワークの一員で、「すべての子どもが、素晴らしい教育を受けることができる世界の実現」をビジョンに活動する認定NPO法人です。
主な事業は、教育をより良くしたいと考える多様な人材を、選考・研修を通して育み、自治体との連携により、2年間「教室」に教師として送り出すフェローシップ・プログラムの実施です。
応募の時点で教員免許状の有無は問わず、選考や赴任前の研修プロセスを経て、臨時免許状や特別免許状を活用し教員になることができます。

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まとめ

教育は常に変化するものであり、課題も変わり続けます。グローバル化やIT化、新型コロナウイルスの影響で、私たちは学び方や働き方、生き方を変える必要があります。だからこそ、今の学校教育、未来の学校教育に何が必要なのかを根本から問い直し、考え、行動していく必要があるのではないでしょうか。今回の記事が、教育課題や教員の資質について考えたり、TFJの活動に「参加したい! 」「応援したい! 」と思っていただくきっかけになれば幸いです。

参考
新しい時代の初等中等教育の在り方特別部会|文部科学省
令和2年度 概算要求主要事項 |文部科学省
教師の資質能力向上に関する参考資料 |文部科学省
教員に求められる資質能力に関する過去の答申の記述|文部科学省
教員に求められる資質能力等について(近年の提言等より抜粋)|文部科学省
「学校の働き方改革」公式プロモーション動画|YouTube
学校における働き方改革「先生が忙しすぎる」をあきらめない(文部科学省学校業務改善アドバイザー 妹尾昌俊):校内研修シリーズ№50|YouTube

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