SDGs4「質の高い教育をみんなに」外国人児童生徒を取り巻く課題&支援の実態と今後
- コラム
2019年に10万人を超えた公立学校に在籍する外国人児童生徒。近年、日本の学校には外国人に限らず、移民・移住の背景のある家庭の子どもも数多く在籍しています。今後も増加すると見込まれる日本において、外国人児童生徒の教育の保障は、緊急度の高い教育テーマと言えます。1990年代よりさまざまな政策を打ってきた一方、外国人児童生徒等を取り巻く教育課題は複数挙げられます。今回は、外国人児童生徒に関する課題・支援の実態、今後期待される施策をまとめてご紹介いたします!
外国人児童生徒を取り巻く課題
近年、外国人児童生徒を取り巻く課題の緊急性は高まっており、新聞メディア等で取り上げられることも増えてきました。就学・進学をはじめ、就職、日本語指導不足など様々な課題があります。
就学・進学・就職への影響
日本では、外国人児童生徒の義務教育諸学校への受け入れを実施している一方で、外国人の子どもに就学義務はなく、就学状況は一貫していません。文部科学省が2019年に初めて調査し発表した、全国の小学校・中学校の学齢期の外国人の子どもの就学状況は次のとおりです。
(参考:外国人の子供の就学状況等調査結果(確定値)について|文部科学省)
義務教育期間の就学状況に加え、外国人生徒には高校・大学受験の壁などもあり、進学状況は様々です。外国人生徒等のうち、「日本語指導を必要とする生徒」の進学・就職状況は次のとおりです。
(参考:「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査(平成30年度)」|文部科学省)
全国的な割合と比較すると、日本語指導が必要な生徒の方が高校中退率や大学への進学・就職をしていない者の率が高いことがわかります。このデータはあくまで「日本語指導が必要な生徒等」と限定的であり、外国人生徒全体の進学状況や就職の現状を把握できるデータはありません。しかしながら、これだけの差が生まれている現状を重く受け止める必要があります。
国際指標からみるレジリエンス
OECDは移民背景のある子どものレジリエンス(粘り強さ)に着目した分析を発表しました。PISAの習熟度や、学校への帰属意識、生活満足度やテストへの不安などの要因から、移民背景のある生徒の粘り強さを分析した結果は次のとおりです。
OECD諸国における移民背景のある生徒のレジリエンスと比較すると大半の項目で数値的有意差はなく、やる気の粘り強さのみ、OECD平均より非常に低いと報告されました。
日本語支援の不足
日本では日本語指導の充実を図ってきたものの、未だ指導を必要としている全員に行き届いていないという課題があります。ここで留意したいのが、日本語指導を必要とする児童生徒のうちに、日本国籍の子どもも含まれる点です。日本生まれ、日本国籍でありながら、外国にルーツを持つ親の子どもや、帰国子女などで、日本語指導を必要とする子どもが多くいるのが現状です。外国籍・日本国籍両方の児童生徒において、日本語指導を必要とする児童生徒の実態は次のとおりです。
(参考:「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査(平成30年度)」|文部科学省)
このデータから、指導を必要としながら、日本語指導を受けられずにいる子どもが、外国籍・日本国籍の合計で約1万人に登ることがわかります。
その他の課題
ここまでご紹介した数値的に確認することができる課題以外にも、外国人児童生徒を取り巻く課題はさまざまあります。
北陸学院大学の俵希實教授は、相談相手の不在という課題があると次のように報告します。
日本で生まれ育った子どもは、両親との会話の言語が定まらない。加えて、両親が日本社会について知らないことが多いため話してもわかってもらえないことから、両親と深い話ができない。友人にも話せないことが多く、結局日本語支援員だけが理解してくれるということになっている。
(引用元:グローバライゼーションに伴うブラジル人児童生徒に対する教育課題の変容-石川県小松市での聞き取り調査から-|俵希實(2019)北陸学院大学・北陸学院大学短期大学部研究紀要 , p.73)
同様に、親・家庭と子ども本人の認識にずれが生じることも多いといいます。日本語での読み書きの力やコミュニケーション力を育むために活動するボランティア団体「りてらこや新潟」の代表の佐々木香織氏は、子どもの方が日本社会・日本文化・日本語に慣れるのが早く、親子間で認識の違いが生まれるといいます。例えば、定期試験や修学旅行の意義への理解や、進学・勉強に対する考えの違いが挙げられます。
これらの課題を踏まえ、家庭との連携の強化や、保護者への支援の重要性も唱えられています。
そして、外国人児童生徒に対するいじめも重要な課題です。外国にルーツを持つ子どもたちは、見た目が違う、名前が違う、などの理由から同級生からのいじめを経験する子が多いといいます。外国にルーツを持つ子どもたちも支援する、東京・福生市のNPO法人「青少年自立援助センター」の職員は次のように語ります。
私たちのところには、年間100人以上、外国にルーツを持つ子どもたちが来ますが、いじめを経験していない子どもを探す方が難しいんです。いじめにはいくつかのパターンがあります。まず、親が外国人、名前がカタカナ、見た目が日本人と違う。ルーツが外国にあるということ、日本人と違うことでいじめの対象となることがあります。これはルーツが違うということに対する寛容度の低さを表しています。
外国人が日本語ができるようになっても「3年たっても日本語が完璧にできないのか。バカじゃないか」と言われるケースもあります。こうした経験から、学校でひと言もしゃべることができなくなってしまった子もいます。 学校で安心して話すことができないというこれらの例は、ことばに対する寛容度の低さを示しています。
(引用元:「日本の学校ではいじめられる」が定説!?|NHK)
このような差別的ないじめを防ぐためにも、学校での異文化教育は不可欠とされています。
施策・支援の実態
日本では、1990年代より外国人児童生徒の就学・進学を支援するべく、調査の実施、支援・施策を導入してきました。
特別の教育課程
外国人児童生徒の学習を支援する取り組みの一つが「特別の教育課程」です。この制度により、日本語指導が必要な小中学校の児童生徒は、授業からの取り出し指導等により日本語を学ぶことができ、年間280単位時間まで正規の教育課程の単位として認められます。2018年時点での実施状況は次のとおりです。
(参考:「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査(平成30年度)」|文部科学省)
日本語支援を必要とする子供の半数以上が「特別の教育課程」による日本語指導を受けていないことがわかります。「特別の教育課程」を実施しない背景には、次のような理由が挙げられています。
・日本語と教科の統合的指導を行う担当教員がいないため。
(引用元:「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査(平成30年度)」|文部科学省)
・「特別の教育課程」で行うための教育課程の編制が困難であるため。
・個別の指導計画の策定や学習評価が困難なため。
・拠点校への通学などのための学校間の連携体制が整っていないため
・該当する児童瀬音本人、または保護者が希望しないため、
・校内に「特別の教育課程」の対象児童生徒がいないと判断するため。
日本語指導が必要な児童生徒に行き届くためには、日本語教員の拡充が必要となります。日本政府は2017年に「公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律」を一部改正し、日本語能力に課題のある児童生徒への指導のための基礎定数を新設しました。2026年(令和8年)までの10年間をかけ計画的に措置することを目指します。
日本語指導・外国人児童生徒支援を取り巻く教師への支援
日本語指導はじめ、外国人児童生徒の受け入れに際する教師への支援とし、「CLARINET」や「かすたねっと」、「KNiT-knot Net」のサイトが整備されています。情報や教材の量が多い一方で、初めて使う教員にとっては情報が多すぎて使いにくいという課題も挙げられています。
今後期待される施策・支援
今後は、既存の施策の充実に加え、外国人児童生徒等の多様性を認め、アイデンティティーの形成を手助けするような、異文化理解の理念に基づいた教育が重要とされています。子どもたちの母語教育の支援や、日本国籍の子どもも一緒に異文化リテラシーを強化することが期待されており、兵庫教育大学の岡崎渉助教は次のように呼び掛けます。
学校は、言語的・文化的背景が多様な子どもたちが、同じ学校という緊密な共同体に属しているからこそ、社会に変革を促す発信源となる可能性を秘めている。
(引用元:外国人の子どもに対する教育の現状と課題―子どもの権利保障の観点から―|岡崎渉 兵庫教育大学研究紀要, p.74)
そして、施策の有効性を高めていくためにも、データの累積が重要とされています。国士舘大学の小池亜子教授は、データに基づいた施策の立案・効果の評価を行うために、就学状況、進学状況や就職状況の詳細な把握の必要性を強調しています。
学校に加え地域・企業の参画
また、日本語指導以外の多様な支援を実施していくためには、これまで以上に学校とその他の立場からの働きかけが重要となります。明治大学の佐藤郡衛特任教授は次のように呼び掛けます。
これまで外国人児童生徒教育への支援においてNPO団体が大きな役割を担ってきたが、日本に人材を呼び込むための戦略やSDGs(持続可能な開発目標)の目標4「質の高い教育をみんなに」の達成、多様な人材の育成という観点から、企業にも外国人児童生徒教育を支援してほしい。
(引用元:「外国人児童生徒に対する教育のあり方」|週刊 経団連タイムス)
我々Teach For Japanは、外国籍児童生徒が多く在籍する東京都港区とも連携をしており、多くのフェローを教師として学校現場に送り出してきました。
港区は、公立小・中学校において多くの外国籍児童・生徒が学んでおり、 国際社会に対応する教育を推進しています。このような中、現在、本区と TFJは、教育の機会の多様化を図るために「イングリッシュサポートコース 、 」 (外国籍児童に英語による日本の教育を提供する港区独自の取組)で連携をしています。具体的には、イングリッシュサポートコースにおいて、通訳や 取り出し授業を行う区費の講師(イングリッシュサポートティーチャー)として、英語力が高く、外国人児童を地域の学校で受け入れるための支援 に意欲のある方に御勤務いただき、協働しています。
(引用元:東京都港区教育委員会 事務局学校教育部 教育人事企画課 指導主事 富樫学様|Teach For Japan 2020年年次報告書)
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まとめ
今回は、注目度が高まる外国人児童生徒を取り巻く教育課題、施策・支援についてまとめてみました。日本語指導に関わる課題をはじめ、就学・進学や就職における課題があることがわかりました。外国人児童生徒の教育の保障、質の高い教育の提供は、持続可能でよりよい世界を目指す国際目標SDGsの考え方である「誰一人取り残さない」社会の実現、SDGs4の「質の高い教育をみんなに」の達成に向け不可欠です。SDGsの達成に向け、外国籍であるがために、教育機会や進学状況・就職状況に差が生まれている現状を打破していく必要があります。外国人児童生徒を取り巻く教育課題がどのように解決されていくのか、引き続き注目していきましょう。
外国人児童生徒とはどの様な子どもをさすのか、これまで日本ではどの様に彼らの教育機会が保障されてきたのかについてまとめた記事も是非ご一読ください▼
SDGs4「質の高い教育をみんなに」外国人児童生徒の教育を受ける権利とは
参考:
OECD, PISA 2018 Volume II
SDGsとは?|外務省
The Resilience of Students with an Immigrant Background: Factors that shape well-being|OECD
キャリア形成を見据えた外国人児童生徒教育の必要性-TEM 分析を使って- |奥山和子 大学教育研究
外国人の子どもに対する教育の現状と課題―子どもの権利保障の観点から―|岡崎渉 兵庫教育大学研究紀要
外国人の子どもの教育を受ける権利と修学の保障 ―公立高校の「入口」から「出口」までー|日本学術会議
外国人児童生徒の教育等に関する 国際比較研究 報告書|国立教育政策研究(2015)
外国人児童生徒への対応 世界の公立校を経験した女性が見る日本の教育|教育新聞
外国人児童生徒等の実態と行政としての理想の支援~新たな国際都市神戸をめざして~|仁ノ内 智 日本教育学会第79回大会
外国人児童生徒等教育の現状と課題|文部科学省
外国人生徒に日本語指導、高校で正式単位に 文科省|日本経済新聞
外国籍の子どもの不就学ゼロに向けた教育支援の在り方─「誰ひとり取り残さない」ために自治体ができる教育施策の提案─|小島祥美(2021)外国人児童・青少年の教育支援への対応
在日外国人の子どもの教育―不就学について―|国立国会図書館調査及び立法考査局
児童の権利に関する国際条約|三重こどもわかもの育成財団
大阪市・豊中市における外国人児童生徒に対する教育支援 : 母語教育に焦点を当てて|范文玲(2021)東京学芸大学紀要. 人文社会科学系
長崎県における外国につながる子どもの教育–現状と課題|桑戸孝子ら(2020)|長崎総合科学大学紀要
特別の教育課程導入と外国人児童生徒の教育|小島 祥美
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