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なぜ小学校でプログラミング教育?導入の背景とねらい・実践事例!

2020年度から小学校でプログラミング教育が実施されています。ただ、プログラミング教育を導入することで、学校でプログラミング言語をマスターしたり、アプリを作ったりできるようになるわけではありません。では、どのようねらいがあってプログラミング教育は導入されたのでしょうか?今回の記事では、プログラミング教育が導入された背景ねらいをご紹介します。また、教室でどのような実践がされているかもご紹介します。2020年度から始まっているプログラミング教育や学校教育への理解が深まるきっかけになれば幸いです。

プログラミング教育導入の背景とは?

プログラミング教育導入の背景は、グローバル化、情報化などによって予測が困難な時代を、子どもたちが幸せに生きていくためと言えます。まずは、2020年度から施行されている学習指導要領改訂の背景を解説します。そこから、プログラミング教育導入に至った流れが見えてきます。

学習指導要領改訂の背景は?

2020年度から小学校で施行されている学習指導要領の改訂の背景には、情報技術の革新があります。オックスフォード大学のマイケル・オズボーン氏が発表した報告では、10年~20年の間に日本の労働人口の約49%の仕事が機械に代替可能という結果が出ています。また、ニューヨーク市立大学大学院センター教授のキャシー・デビットソン氏は、2011年にアメリカの小学校に入学した子供たちの65%は、大学卒業後、今は存在していない職業に就くだろうと予測しています。さらに、発明家のレイ・カーツワイル氏によると、2045年には人工知能が人類を越える「シンギュラリティ」に到達すると言われています。

それにより、「人工知能などのテクノロジーの進化で、職業がなくなるのではないか」「いま学校で教えていることが将来、社会に出たときに通用しないのではないか」という不安の声が上がっています。

このような情報化やグローバル化という社会変化の激しい時代を生きていく必要な力として、平成28年12月21日中央教育審議会の答申では下記のことを述べています。

子供たち一人一人が、予測できない変化に受け身で対処するのではなく、主体的に向き合って関わり合い、その過程を通して、自らの可能性を発揮し、よりよい社会と幸福な人生の創り手となっていけるようにすることが重要である。

(引用元:新しい学習指導要領の考え方|文部科学省,P10

コンピュータを動かしているプログラムを理解し活用するため!

いまの私たちの周囲を眺めてみると、自動車や家電製品、スマートフォンなど、多くのものにコンピュータが内蔵されています。このコンピュータを、より適切に、より効果的に活用するためには、コンピュータを動かしている「プログラム」を知ることが大切です。そして、コンピュータに命令を与える「プログラミング」を知ることは、より主体的にコンピュータを活用することにつながります。

文部科学省は、子どもたちが将来どのような仕事に就くとしても、コンピュータを理解し、活用する力が極めて重要になると考えているのです。予測が困難な時代を主体的に生きていくための1つのカギが、コンピュータを理解することであり、それがプログラミング教育導入へとつながっています。

プログラミング教育の3つのねらい!

プログラミング教育のねらいは、プログラミング言語の習得やエンジニアになるためのスキルを身に付けることではありません。将来どんな職業に就いても、幸せになるための力をつけることがねらいです。

「プログラミング的思考」の育成

プログラミング的思考は、課題解決のために、試行錯誤を繰り返しながら、修正や改善をすることができる論理的な思考力です。プログラミング的思考を育むことは、小学校段階で最も核となるねらいです。プログラミング的思考の文部科学省による定義は下記の通りです。

自分が意図する一連の活動を実現するために、どのような動きの組合せが必要であり、一つ一つの動きに対応した記号を、どのように組み合わせたらいいのか記号の組合せをどのように改善していけば、より意図した活動に近づくのか、といったことを論理的に考えていく力

(引用元:新しい学習指導要領の考え方|文部科学省,P13) ※太文字は作者による

(参照元:新しい学習指導要領の考え方|文部科学省,P15

プログラムや情報社会の仕組みに気付き、活用する

2つ目のねらいは、プログラムがどのように動いているのかや情報社会が情報技術によって支えられていることに気付き、コンピュータなどを活用してより良い社会を築いていく態度を育むことです。

教科等で学びをより確実なものとする

算数や理科、体育などの教科で学び取りたいものを、プログラミングを使うことでより確実にすることもねらいの1つです。例えば、算数の時間に二等辺三角形を作図するとします。このときに、プログラミングを用いることで、より確実に二等辺三角形の性質を理解できることを意図しています。

自分の手を動かして書く場合は、先生や周りの友達の書き方をマネして何となく書くこともできます。しかし、プログラミングを使って二等辺三角形を書く場合は、二等辺三角形の性質を理解し、言語化できないと難しいです。より確実にというところが、プログラミング教育を行う上で重要なポイントです。

プログラミング教育で育む資質・能力

プログラミング教育が導入されることで、育まれる資質・能力を「知識及び技能」「思考力・判断力・表現力等」「学びに向かう力・人間性等」の3つの観点から解説していきます。

知識及び技能

今を生きる子どもたちは、インターネットやSNSを活用して簡単に情報にアクセスし、情報を発信することができます。それと同時に、情報のやり取りをしているコンピュータが「魔法の箱」と化しています。そのため、小学校段階では、身近な生活の中でコンピュータが活用されていると気付くことが重要だと考えられています。

また、プログラミング的思考を重視してるように、問題解決には必要な手順があると気付くことも重要です。プログラミングを体験することで、下記の6つのようなことに気付かせる必要があるとしています。

  • コンピュータはプログラムで動いていること
  • プログラムは人が作成していること
  • コンピュータには得意なこととなかなかできないこととがあること
  • コンピュータが日常生活の様々な場面で使われていること
  • 生活を便利にしていること
  • コンピュータに意図した処理を行わせるためには必要な手順があること

参考
新しい学習指導要領の考え方|文部科学省,P12

思考力・判断力・表現力等

思考力・判断力・表現力等は、段階に即したプログラミング的思考を育成することにつながっています。例えば、コンピュータに正三角形を書かせる際、どのような指示をどのような手順ですればいいかを考えるとします。具体的には、下記のような指示が順番通りに必要になります。

  1. スタートボタンがクリックされたとき
  2. ペンを下す
  3. 長さ100進む(底辺を書くことに当たる)
  4. 左に120度曲がる(正三角形の角度を理解していないとできない)
  5. 長さ100進む(3の長さと同じでないと正三角形にはならない)
  6. 左に120度曲がる(正三角形の角度を理解していないとできない)
  7. 長さ100進む(5と同様)
  8. 左に120度曲がる

まず、構成要素を分解し、分解した要素を組み合わせます。要素が足りなかったり、順番通りに組み合わせられていないと、正三角形は書けません。間違いがあれば、原因を突き止めて改善できることが求められます。このように、論理的に思考し、判断を繰り返し、表現する力を育みます。

学びに向かう力・人間性等

学びに向かう力は、コンピュータを身近な問題の解決に生かしたり、コンピュータを活用してより良い社会を築こうとしたりする主体的な態度を示しています。

人間性は、他者と協働しながら試行錯誤を繰り返すことで、粘り強くやり抜く力を育成します。また、プログラムを作成する際に使うイラストや写真の著作権を考えるといった情報モラルの育成につながります。

プログラミング教育の実践例

最後は、教室で実際にどのような学習が行われているかを、未来の学びコロソーシアムと岡山県の実践事例集からご紹介します。なお、プログラミングの学習活動は、教育課程内と教育課程外で6つに分類されていますが、ここでは「学習指導要領に例示されている単元等で実施するもの」をご紹介します。

未来の学びコロソーシアム

未来の学びコロソーシアムは、文部科学省・総務省・経済産業省が連携し、教育・IT関連の企業と共に立ち上げた、デジタル教材の開発や学校の指導をサポートする組織です。プログラミング教育に関するさまざまな情報が詰まっているサイトです。

例えば、小学校6年生の理科の授業で「電気を効率よく使うにはどのようにしたらよいのか考えよう」というテーマで学習が行われています。その中で、つくって蓄えた電気を効率よく使うために、「ボタン」「人感」「明るさ」を実際にプログラムして電気の働きをどう制御するか体験しています。

また、小型扇風機を効率よく利用するためのプログラムを、人感センサーや温度センサーと取り入れて、電気の働きを制御する方法を考え、動作させ、発表する活動も行っています。

参考(2023年5月10日時点で閲覧不可)
電気を効率よく使うにはどうしたらよいかを考えよう(あきる野市立西秋留小学校)|未来の学びコロソーシアム

岡山県 2019年実践事例集

岡山県総合教育センターが、13の実践事例を有識者のコメントと共にまとめています。プログラミング的思考を育成する授業づくりのポイントもまとめられているます。

例えば、小学校5年生の算数では、「コンピュータで正多角形を作図!」というテーマでタブレットを一人1台使って、プログラミング的思考を育む実践が行われています。正三角形・正方形・正五角形・正六角形の性質を確認しながら、プログラムを考えます。それから、考えたプログラムを電子黒板に映し出して、実際に動作させながら発表する活動を行っています。

他にも、理科・社会・音楽・外国語・総合などの教科での実践が収録されています。利用したプログラミング教材も明記されているので、学校現場での実践に生かしやすいです。

参考
岡山県小学校プログラミング教育実践事例集2020

まとめ

子どもを取り巻く環境は、凄まじいスピードで変化しています。身近にあるコンピュータの仕組みを知ることは、これからの未来を生きていく子どもたちにとって必要な力の1つです。だからこそ、教員だけでなく、子どもに接する大人は、プログラミング教育の本質をきちんと理解して、子どもたちが未来を切り拓いていけるようにサポートする責任があるのではないでしょうか。

TFJは、世界60ヵ国以上に広がるTeach For Allというグローバルネットワークの一員で、「すべての子どもが、素晴らしい教育を受けることができる世界の実現」をビジョンに活動する認定NPO法人です。
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参考
小学校プログラミング教育の手引(第二版)|文部科学省
小学校プログラミング教育に関する指導案集|文部科学省
小学校を中心としたプログラミング教育ポータル|文部科学省・総務省・経済産業省
プログラミング教育指導実践集2018|石狩市教育委員会
小学校プログラミング教育の概要 1|YouTube
小学校プログラミング教育の概要 2|YouTube
10年後、 20年後、 生徒たちはどのような社会を …|ベネッセ教育総合研究所

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