5分でわかる小学校学習指導要領の変遷!改訂のポイントと流れを解説!(前半)
- コラム
学習指導要領は、日本の教育の方向性を示すものです。しかし、いつの時代でも汎用性のある完璧な学習指導要領は存在しません。だからこそ、社会の変化を反映して約10年に1度、学習指導要領は改訂されます。今回の記事では、戦後1947年にできた学習指導要領の試案から歴代で一番学習量が多かった1968年の改訂までをわかりやすく解説します。
そもそも学習指導要領とは?
学習指導要領とは、日本中どの地域で教育を受けても、一定の水準の教育を受けられるようにするための各学校での教育課程(カリキュラム)を編成する際の基準です。学校教育法に基づき、文部科学大臣が告示するかたちで、時代の変化や子どもたちの状況、社会の要請などを反映させるためにほぼ10年毎に改訂されています。なお、2017年の改訂で8回目の改訂となります。
また、学習指導要領は、幼稚園・小学校・中学校・高等学校・特別支援学校ごと、各教科ごとに出版されており、目標やおおまかな教育内容を定めています。
5分でわかる!小学校学習指導要領改訂のポイント(前半)
はじめに、小学校学習指導要領の授業時間数の変化を確認してみましょう。まず、高度経済成長期の入り口になる1958年と、高度経済成長期真っただ中の1968年に告示された学習指導要領の授業時間数が、一番多いことがわかります。これが「詰め込み教育」や「教育内容の消化不良」と言われるゆえんです。
また、1998年(平成元年)に告示された学習指導要領は、ゆとりの中で「生きる力」を育むことを目指した改訂で、授業時間数では一番少なくなっています。
【授業時数の一覧】
(各学習指導要領より筆者作成)
授業時間が増減しているように、学習指導要領の方針や内容も時代によって変化しています。この記事では、戦後の児童中心主義から高度経済成長の時代の知識中心主義までの学習指導要領改訂のポイントを解説してきます。
1947年 児童中心主義の経験主義教育観
戦後、学校教育法制定にあたり、教科課程の基準として作成された最初の学習指導要領です。まだ未完成という意味で、告示ではなく試案としています。
この学習指導要領は、アメリカの哲学者ジョン・デューイの経験主義(為すことによって学ぶ学習者中心の考え方)に大きな影響を受けており、児童中心主義の教育観が特徴です。児童がそれぞれの興味と能力に応じて、教科の発展として行う活動や、学年を超えた同好者が集まって行うクラブ活動などを行う「自由研究」の時間が児童中心の象徴的な活動と言えます。
【主なポイント】
・修身、日本歴史及び地理が統合され、社会科が新設
・女子だけが学習していた家事科が廃止され、家庭科を新設(男女ともに)
・自由研究(クラブ活動)を新設
・各教科とも、年間で幅のある総時数を示す(1単位時間を特に固定せず、変化のある学習が可能)
現在では当たり前の社会科や家庭科は、戦後の学習指導要領で新設されたことがわかります。また、「夏休みにするもの」となっている自由研究がクラブ活動などの授業時間に行われていたのも意外なポイントです。
1951年 初版の不十分な点を整備
1947年の学習指導要領は、短期間で作ったものであったため、教科間の関連が不十分、授業時数の定め方に幅がありすぎるなどの課題ありました。そこで、初版では不十分だった点を整備する形で改訂が進められます。
【主な改訂のポイント】
・教科を4つに分類し、時間配当の比率を決める
・教科学習の基礎→国語科、算数科
・社会や自然に関しての問題解決→社会科、理科
・創造的な表現活動→音楽科、図画工作科、家庭科
・健康の保持増進→体育科
・家庭科の内容を改善
・毛筆習字を4年生から実施とする
・自由研究を教科外の活動へと発展的に解消する
・道徳教育の役割を各教科で明確化
・教科課程から現在でも使われている教育課程に変更
・総授業時数の改正
教科ごとの役割を明確にする中で、授業時間数も定まっていきます。また、1947年に新設された家庭科を引き続き教科とすることや毛筆習字を実施するなどの整備が行われます。
1958年 知識中心の系統主義教育観
戦後の学力テストが示す学力低下から、経験主義に疑問が呈されるようになり、「学力とは何なのか? 」「各教科の持つ系統性を重視するべきでは? 」という議論から改訂が進められます。そのため、系統主義(継承・発達されるべき文化を、教科ごとに系統立った知識や技能に沿って学ぶ教科書中心の考え方)の色合いが濃くなります。また、今回の改定では、試案ではなく告示となり、法的拘束力を持つようになります。
【主な改訂のポイント】
・児童中心から教科中心の系統主義にシフト
・基礎学力の重視と科学技術教育の向上
・授業時数の増加
・法体系を整備して教育課程の基準としての性格を一層明確に(法的拘束力を持つ)
・各教科及び道徳の年間最低授業時数を明示
・道徳の時間を特設して、道徳教育を徹底
その他にも、小・中学校の教育の内容の一貫性を図ったことや各教科の目標・内容を精選し、基本的事項の学習に重点を置いたことなどが改訂のポイントです。
1968年 教育内容の現代化(高度経済成長に対応)
1964年に東京オリンピックが開催され、新幹線が開通するなど、高度経済成長期の真っただ中の時代背景。その中で、教育内容をより現代社会を反映させたものにするべきであるという声が大きくなります。特に、重要課題として認識されていたのは工業化していく日本に必要不可欠な科学技術教育の充実です。
【主な改訂のポイント】
・教育課程:国語・社会・算数・理科・音楽・図画工作・家庭・体育、道徳、特別活動で編成
・各教科と道徳の授業時数を、最低時数から標準時数へ
現代を反映させた結果、歴代で一番学習量が多い学習指導要領となり、結果的に詰め込み教育、教育内容の消化不良という批判が起こります。学習内容を理解している子どもは、小学校で7割、中学校で5割、高等学校で3割ではないかということから、「七五三(シチゴサン)」という言葉もこの時代に生まれます。
児童中心主義から知識中心主義への変遷
前半では、1947年の学習指導要領の試案から、高度計成長期の1968年の歴代で最も学習量が多くなった学習指導要領の時代の変遷を確認してきました。時代の変化に沿って、学習指導要領が作り変えられていることがよくわかります。
後半では、知識中心主義に偏った結果起こった「おちこぼれ」や「受験戦争」などの課題に対応するため、ゆとりある充実した学校生活や、平成を迎えるタイミングの新しい学力観、生きる力などが出てきます。ぜひ、引き続き後半もご覧ください!
後半はこちらからどうぞ↓
5分でわかる小学校学習指導要領の変遷!改訂のポイントと流れを解説!(後半)
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参考
学習指導要領データベース|国立教育政策研究所
学 習 指 導 要 領 の 変 遷|明治大学学術成果リポジトリ
意外と知らない”学習指導要領の改訂”(vol.1)|内田洋行教育総合研究所
意外と知らない”学習指導要領の改訂”(vol.2)|内田洋行教育総合研究所
意外と知らない”学習指導要領の改訂”(vol.3)|内田洋行教育総合研究所
意外と知らない”学習指導要領の改訂”(vol.4)|内田洋行教育総合研究所
学習指導要領とは何か?|文部科学省
教育課程の時数の歴史|東京学芸大学
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