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コラム column

主体的・対話的で深い学びとは|定義・授業改善と現場実践のポイント

学習指導要領が2017年(平成29年)に改訂されて以降、「主体的・対話的で深い学び」という言葉を目にする機会は増えました。一方で、「結局どういう学びなのか」「従来の授業と何が違うのかが分かりにくい」と感じている方も少なくありません。
本記事は全5章構成で、はじめに制度や考え方の整理を行い、その後、実際の教育実践や教師に求められる役割について段階的に解説していきます。
その中で本章では、文部科学省の一次資料をもとに、「主体的・対話的で深い学び」の定義と教育政策上の位置づけを整理し、従来の学びとの違いを明確にします。
ここで基本的な考え方を押さえておくことで、次章以降で扱う具体的な実践例や、これからの教師像についての議論を、より立体的に理解できるはずです。

参考:
・平成29・30・31年改訂学習指導要領
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/1384661.htm

文部科学省が示す「主体的・対話的で深い学び」とは何か

「主体的・対話的で深い学び」とは、学習者である子ども一人ひとりが学習の主体となり、他者との対話や協働を通じて、知識・技能を活用しながら思考を深めていく学びの在り方を指します。
この考え方は、文部科学省が学習指導要領を2017年(平成29年)に改訂するにあたって示した、授業改善のための基本的な視点として位置づけられています。

文部科学省は、「主体的・対話的で深い学び」を特定の指導方法や授業形態そのものを指す言葉ではなく、教師が授業を設計・改善していく際の方向性であると説明しています。
つまり、「グループワークを入れればよい」「ICTを使えばよい」といった形式的な対応ではなく、子どもがどのように考え、理解を深めているかが本質的なポイントになります。

文部科学省の整理では、3つの要素は以下のように捉えられています。

  • 主体的な学び:学習者が見通しをもって学習に取り組み、振り返りを通して次の学びにつなげること
  • 対話的な学び:他者との意見交換や協働を通じて、多様な考えに触れ、思考を広げ・深めること
  • 深い学び:習得した知識・技能を活用し、課題を発見・解決しながら本質的な理解に至ること

学習指導要領(平成29・30・31年改訂)との位置づけ

「主体的・対話的で深い学び」は、平成29年(小学校)、30年(中学校)、31年(高等学校)に公示された新学習指導要領の全体を貫く理念として明確に示されています。

新学習指導要領では、これからの社会を「予測困難な時代」と捉え、単なる知識量の多さではなく、知識を活用して課題に向き合う力を育成することが重視されています。そのため、「何を学ぶか(学習内容)」に加えて、「どのように学ぶか(学びの過程)」への注目が高まりました。

この「学びの過程」を改善する視点として提示されたのが、「主体的・対話的で深い学び」です。
また、学習指導要領では、育成を目指す資質・能力を次の3つの柱で整理しています。

  • 知識・技能
  • 思考力・判断力・表現力等
  • 学びに向かう力・人間性等

「主体的・対話的で深い学び」は、これらの資質・能力を総合的に育成するための共通の授業改善の視点として、すべての教科・領域に求められています。

(引用元:学習指導要領改訂の考え方|文部科学省

従来の学びとの違い(暗記中心 → 探究・対話中心)

従来の学校教育では、知識を効率よく習得させることを目的とした一斉指導・暗記中心の授業が中心でした。
基礎的な知識・技能の習得は今も重要ですが、それだけでは変化の激しい社会で必要とされる力を十分に育成できないという課題が指摘されてきました。

「主体的・対話的で深い学び」では、学びの重心が次のように移行します。

  • 教師が教える授業 → 学習者が問いをもって考える授業
  • 正解を覚える学習 → 根拠をもとに考え、説明する学習
  • 個人完結の学び → 他者との対話・協働を通じた学び

これは単なる指導方法の変更ではなく、学びをどう捉えるかという教育観そのものの転換を意味します。
教師の役割も、知識の「伝達者」から、学習者の思考や対話を支える学びのデザイン者・伴走者へと広がっていきます。

参考:
・学習指導要領改訂の基本的な考え方|文部科学省
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/1383986.htm
・主体的・対話的で深い学びの実現について|文部科学省
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/1384661.htm
・新しい時代に必要となる資質・能力の育成について|文部科学省
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/053/siryo/__icsFiles/afieldfile/2016/07/08/1373901_1.pdf

3つの要素を具体的に理解する【内容整理】

「主体的・対話的で深い学び」は、単一の授業方法を指す言葉ではなく、
学習の質を高めるための3つの視点(要素)として整理されています。

これら3要素は、それぞれ独立したものではなく、
相互に関係し合いながら学びを深化させていくことが前提です。

ここでは、文部科学省の一次資料に基づき、
それぞれの要素の意味と、学校現場で想定されている姿を整理します。

主体的な学びとは何か

主体的な学びとは、児童生徒が学習の意味や目的を理解し、自ら学びに向かおうとする姿勢をもって取り組むことを指します。

文部科学省は、主体的な学びを次のような観点で捉えています。

  • 学習の目標や内容を理解し、「なぜ学ぶのか」を意識している
  • 学習過程を振り返り、次の学びに生かそうとしている
  • 困難や失敗があっても、学習を調整しながら取り組もうとしている

重要なのは、
「主体的=常に自分で決めて進める」「積極的に発言する」ことではない
という点です。

教師の支援や問いかけのもとであっても、学習に意味を見出し、学びに向かう姿勢が育まれていれば、それは主体的な学びと位置づけられます。

参考:
・文部科学省「主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善」
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/1384661.htm

対話的な学びとは何か

対話的な学びとは、児童生徒が他者との関わりを通して、自分の考えを広げたり、深めたりしていく学習の在り方を指します。

ここでいう「対話」は、単なる話し合いや発言回数の多さを意味するものではありません。

文部科学省は、対話的な学びについて、

  • 他者の考えを聞き、自分の考えを見直す
  • 異なる視点に触れ、新たな気づきを得る
  • 考えを言語化・可視化することで理解を深める

といった学習プロセスを重視しています。

対話の相手は、クラスメートだけでなく、教師・地域の人・資料・ICTなども含まれます。
つまり、多様な「他者」との関わりを通じた学びが想定されています。

参考:
・文部科学省「学習指導要領解説 総論編」
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/1387014.htm

深い学びとは何か

深い学びとは、
習得した知識や技能を活用しながら、
思考を深め、概念的理解や問題解決につなげていく学習を指します。

暗記や手順の習得にとどまらず、

  • 知識同士の関連づけ
  • 学習内容の意味理解
  • 実生活や他教科への活用

といった学びの深化が重視されます。

文部科学省は、深い学びについて、
「見方・考え方を働かせること」を重要なキーワードとして示しています。

これは、
教科ごとに培われる思考の枠組みを用いて、
物事を多面的・多角的に捉える力を育むことを意味します。

参考:
・文部科学省「新学習指導要領の考え方」
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/1383986.htm

3つの要素はどう関係しているのか

この3要素は、
どれか一つだけを実現すればよいものではありません

  • 主体的に学びに向かい
  • 対話を通じて考えを広げ
  • 深い理解へとつなげていく

という循環の中で、学習の質が高まると考えられています。

授業改善で何をすべきか(現場の視点)

主体的・対話的で深い学びは、特別な授業方法を新しく追加することを意味するわけではありません。むしろ重要なのは、既存の授業を「どのような視点で再設計するか」です。

文部科学省は、授業改善の方向性として「学習過程全体の質を高めること」を重視しています。ここでは、現場の教員が実践レベルで意識すべき授業改善のポイントを3つの観点から整理します。

課題設定・見通し・振り返りの設計

主体的・対話的で深い学びを成立させるために、
文部科学省が一貫して重視しているのが
「学習の見通し」と「振り返り」を含めた学習過程の設計です。

具体的には、次の3点が重要とされています。

  • 課題設定
    子ども自身が「なぜ学ぶのか」「何を明らかにするのか」を意識できる問いになっているか
  • 見通し
    学習の進め方やゴールが、児童生徒に共有されているか
  • 振り返り
    学んだ内容や考え方を、次の学びにつなげる時間が確保されているか

これは「活動を行うこと」自体が目的になるのを防ぎ、
学びの意味づけを子ども自身が行うための土台となります。

文部科学省は、
主体的な学びを「学習に対する見通しをもって粘り強く取り組み、
学習を振り返って次につなげる姿」と定義しています。

参考:
・主体的・対話的で深い学びの実現について(文部科学省)
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/learning.htm

協働活動の設計と対話の質を高める工夫

対話的な学びにおいて重要なのは、
「話し合いをさせること」そのものではありません。

文部科学省は、対話的な学びを
「他者との協働を通じて、自分の考えを広げ深める学び」と位置づけています。
そのため、協働活動では次の点が重視されます。

  • 目的が明確な対話になっているか
  • 考えを比べたり、問い直したりする場面が設計されているか
  • 一部の児童生徒だけが発言する構造になっていないか

例えば、

  • 個人で考える → ペアで共有 → 全体で再構成する
  • 異なる考え方を意図的に提示し、理由を問い合う

といった段階的な対話構造をつくることで、
対話が「意見交換」で終わらず、思考を深めるプロセスとして機能します。

参考:
・学習指導要領解説 総則編(文部科学省)
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/1387014.htm

単元全体で学びを深める構成とその方法

主体的・対話的で深い学びは、
1時間完結の授業改善だけでは十分に実現しにくいとされています。

文部科学省は、
「単元など内容や時間のまとまりを見通した授業改善」を強調しています。
これは、学びを次のように段階的に深めていく考え方です。

  • 単元のはじめ:問いを立て、学習の方向性を共有する
  • 単元の途中:情報収集・対話・試行錯誤を繰り返す
  • 単元の終わり:考えを整理し、意味づけを行う

このように単元全体を設計することで、
知識の習得 → 活用 → 振り返りが有機的につながり、
**「深い理解」や「思考の定着」**が促されます。

参考:
・学習指導要領改訂の方向性について(文部科学省)
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/1384661.htm

授業での改善ステップ表

授業段階改善の視点具体例
導入課題の意味づけなぜこの学習が必要かを問いで示す
展開思考と対話の設計個→協働→全体で考えを再構成
振り返り学びの言語化学んだ考え方を次につなげる

教科別・学年別の実践事例

「主体的・対話的で深い学び」は、学習指導要領において授業改善の基本的な方向性として示されていますが、
その具体像は、各学校・自治体の実践の中で形づくられてきました。

本章では、文部科学省および自治体が公開している授業実践資料をもとに、
社会科・数学科・国語科の教科を例に、
実際の授業でどのように「主体的・対話的で深い学び」の実現に向かっているかを紹介します。

社会科における実践事例(多面的・多角的な考察)

社会科では、資料の読み取りと対話を通じて社会的事象を多面的に捉える学習が重視されています。

鳥取県が公表している授業実践例では、

  • 統計資料・地図・文章資料など複数の資料を提示
  • 生徒がそれぞれ異なる観点から課題を設定
  • グループで意見を交流し、考えを再構成する

といった学習過程が示されています。

例えば、
「少子高齢化は地域社会にどのような影響を与えているか」という問いに対し、
経済・福祉・地域づくりなどの視点から考察することで、
社会の仕組みを構造的に理解する学びへとつながっています。

参考:
・鳥取県教育委員会「主体的・対話的で深い学びを実現する授業づくり(社会科)」
https://www.pref.tottori.lg.jp/secure/1160314/tsuika03_jugyou.pdf

数学科における実践事例(思考の可視化と共有)

数学科では、考え方を説明し合う活動を通じて理解を深める授業が各地で実践されています。

香川県が示している小学校・中学校の実践事例では、

  • 解法や考え方を図や言葉で表現する
  • 複数の解き方を比較・検討する
  • 全体で考え方の共通点や違いを整理する

といった活動が取り入れられています。

こうした授業を通して、計算技能の習得にとどまらず、「なぜその方法で解けるのか」を説明する力や、他者の考えを踏まえて理解を深める力が育成されています。

参考:
・香川県教育委員会「主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業実践例(小学校編)」
https://www.pref.kagawa.lg.jp/documents/14668/syougakkou_4.pdf

国語科における実践事例(解釈の交流による理解の深化)

国語科では、文章の読み取りや表現について対話を重ねる学習が中心となります。
香川県教育委員会がまとめた実践事例では、児童が文章の解釈を交流しながら理解を深めていく授業が具体的に示されています。具体的には、

  • 文章を読んで捉えた内容や考えをまず個人で整理する
  •  自分の読みや感じ方を言葉にして共有する
  •  他者の解釈と比較し、「なぜそう考えたのか」を問い直す
  •  話合いを通して考えを再構成し、文章や発表として表現する
    といった学習活動が行われています。

これらの実践では、正解を一つに定めるのではなく、解釈の違いそのものを学びの資源として扱うことが重視されています。
その過程を通して、児童は文章理解を深めると同時に、他者の考えを受け止めながら自分の読みを更新していく力を身に付けていきます。

このような授業は、言語活動を通じて思考を深め、多様な見方・考え方を尊重する態度を育てる「主体的・対話的で深い学び」の具体的な実践例といえます。

参考:
・香川県教育委員会「主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業実践例(小学校編)」
https://www.pref.kagawa.lg.jp/documents/14668/syougakkou_4.pdf

これらの実践事例から分かるように、「主体的・対話的で深い学び」は理念にとどまらず、
各教科の特性に応じた具体的な授業デザインとして現場で取り組みが行われています

Teach For Japanとの関連

「主体的・対話的で深い学び」は、学習指導要領に明記された重要な考え方ですが、
それを実際の学校現場で継続的に実践することは決して簡単ではありません。

Teach For Japan(以下、TFJ)は、
この考え方を教室レベルで体現し続ける人材を育てることに正面から向き合っている教育NPOです。
本章では、TFJのフェローシップ・プログラムに焦点を当て、学校現場で「主体的・対話的で深い学び」を実践する力が、どのように育まれているのかを紹介します。

フェローシップ・プログラムが育む「学びの実践力」

フェローシップ・プログラムの特徴は、理論と実践を往還しながら学ぶ設計にあります。
フェローは、赴任前研修の中で、授業デザインや模擬授業などを通して、

  • 学習者一人ひとりの学習状況を捉える
  • 学習者の理解が深まったり広がったりするための問いや活動を設計する
  • 振り返りを通じて授業改善を重ねる

といったプロセスを経験します。

これはまさに、
教師自身が「主体的・対話的で深い学び」を体現する存在になる過程だと言えます。

また、フェロー同士や職員との対話を通して、
自分の実践を言語化・再構成する機会が用意されている点も、
学びの質を高める重要な要素です。

参考:
・Teach For Japan|Recruiting(フェローシップ・プログラム)
https://teachforjapan.org/recruiting/

フェローシップ・プログラムを通じて得られる教育実践経験の意義

TFJのフェローシップ・プログラムで得られる経験は、
単に「授業を実施する力」を身につけることにとどまりません。

  • 子どもの背景や多様性を踏まえた支援/伴走
  • 正解のない問いに向き合う姿勢
  • 教育を通じて社会をどうより良くしていくかという視点

将来、教師を続ける人にとっても、
教育行政・NPO・企業など別の立場で教育に関わる人にとっても、
TFJでの経験は、学びの質を問い続ける原点となり得ます。

まとめ:学びの質とこれからの教育

本記事では、「主体的・対話的で深い学び」について、
定義・背景・授業改善・教科実践・Teach For Japanとの関係までを整理してきました。

最後に、全体を振り返りながら、
これからの教育において、この考え方が持つ意味を再確認します。

これまでの整理

  • 「主体的・対話的で深い学び」は、学習指導要領に基づく中核的な理念
  • 子どもを受け身の学習者ではなく、学びの主体として捉える考え方
  • 授業改善・評価・教師の役割そのものを問い直す視点
  • 教科や学年を超えて実践可能な普遍性を持つ

重要なのは、
この言葉を「流行の教育用語」として終わらせないことです。

教育に関わる選択肢としての「深い学び」の意義

「主体的・対話的で深い学び」は、
子どもだけでなく、教育に関わる大人にも問いを投げかけます

  • 自分は、どんな学びを大切にしたいのか
  • 子どもたちに、どんな力を残したいのか
  • 教育を通じて、社会とどう向き合いたいのか

Teach For Japanは、
そうした問いに実践を通じて向き合う一つの選択肢を提供しています。

学びの質を本気で高めたいと考える人にとって、
「主体的・対話的で深い学び」は、これからの教育を考えるための出発点となるはずです。

教師になることに興味がある方

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