SDGs目標4「質の高い教育をみんなに」とは?世界と日本の教育課題、教室からできるアクション
- コラム
SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)は、2015年に国連総会で採択された国際目標で、2030年までに達成すべき17の目標から構成されています。その中で「目標4(Goal 4)」は、教育を切り口に、貧困や不平等、社会的排除といった構造的課題の解決を目指す中核的なゴールの一つです。
この記事では、SDGs目標4の考え方を出発点に、世界と日本の教育の現状を整理したうえで、教室や学校、そしてTeach For Japanの実践から、私たち一人ひとりに何ができるのかを具体的に考えていきます。
SDGs目標4は「教育の機会」と「質の高い」をすべての人に届けることを目指す目標
SDGs目標4が目指しているのは、
単に「学校に通える人を増やすこと」ではありません。
国連が掲げる目標4の正式な定義では、
Ensure inclusive and equitable quality education and promote lifelong learning opportunities for all. (すべての人に包摂的かつ公正な質の高い教育を確保し、生涯学習の機会を促進する)
と示されており、ここには大きく分けて次の要素が含まれています。
- 教育の機会を確保すること
- その教育が質の高いものであること
- それらがすべての人に届くこと
つまりSDGs目標4は、
「学べるかどうか」と「何が学べているか」、 そして 「それが誰か一部の人だけのものになっていないか」
を同時に問い続ける教育目標です。
参考:Transforming our world: the 2030 Agenda for Sustainable Development|国連https://sdgs.un.org/2030agenda

ターゲット(4.1〜4.c)から読み解くSDGs目標4の3つの視点
① 教育の機会を確保する(Access to education)
SDGs目標4では、年齢・性別・家庭環境・居住地などに関わらず、教育を受ける機会そのものを保障することが求められています。
- 初等・中等教育を無償で修了できること(4.1)
- 幼児教育や就学前教育へのアクセス(4.2)
- 技術教育・高等教育への公平なアクセス(4.3)
- 若者・成人の識字や学び直しの機会(4.6)
これは、「学校に行けない」「学ぶ場にたどり着けない」状況をなくすための、
教育の土台にあたる部分です。
参考:SDG 4 Targets and Indicators|国連統計部
https://unstats.un.org/sdgs/metadata/?Goal=4
② 学びの質を高める(Quality of learning)
2つ目の視点は、
その教育が、学習者にとって本当に意味のある学びになっているかという点です。
SDGs目標4では、単に就学年数や修了の有無ではなく、学習の中身や成果が重視されています。
- 読み・書き・計算などの基礎的な力
- 社会や仕事で生きるスキル
- 持続可能な社会を担うための思考力や価値観
UNESCOは、教育の質を
「学習者が自ら考え、社会に参加し、変化に対応できる力を育てること」
と整理しています。
参考:Global Education Monitoring Report|UNESCO
https://www.unesco.org/gem-report/en
③ 誰も取り残されないこと(Inclusion / Equity)
SDGs目標4では、教育の機会や学びの質が、一部の人だけのものにならないことが前提とされています。
国連やUNESCOが用いる inclusive や equitable という言葉は、
障害、貧困、ジェンダー、言語、紛争などの要因によって、学びへのアクセスや質が妨げられない状態を指しています。
- 教育における差別の撤廃(4.5)
- 識字教育や成人教育を含む生涯学習の推進(4.6)
- 教育を支える教員の質・数の確保(4.c)
参考:Inclusion and education|UNESCO
https://www.unesco.org/en/education/inclusion
世界の現状:いま何が起きている?
SDGs目標4が掲げる「質の高い教育をみんなに」は、世界の現状を見ると、いまだ達成には程遠い状況にあります。

就学できない子ども/識字/学習到達度
UNESCO統計によると、世界では約2億4,400万人の子ども・若者が学校に通えていません。
この数字には、初等教育・中等教育・高等教育のすべての段階が含まれています。
特に深刻なのは、
- 紛争や災害の影響を受ける地域
- 貧困層や農村部
- 女子や障害のある子ども
において、就学の機会そのものが失われている点です。
参考:UNESCO Global Education Monitoring Report – Out-of-School Rate
https://www.unesco.org/gem-report/en/view/outofschool
識字の問題は「大人の課題」でもある
教育課題は子どもだけに限りません。
UNESCOは、世界で約7億7,100万人の成人が最低限の読み書き能力(基礎的識字)を持っていないと報告しています。
識字は、雇用、健康、社会参加と密接に結びついており、
成人の識字率の低さは、次世代の教育環境にも連鎖的な影響を与えます。
つまり、教育格差は世代を超えて再生産されやすい構造を持っているのです。
参考:Literacy|UNESCO Institute for Statistics
https://uis.unesco.org/en/topic/literacy
「学校に通っていても学べていない」学習到達度の危機
近年、国際社会で特に問題視されているのが、「学習到達度(Learning Outcomes)」です。
世界銀行とUNESCOは、これを「Learning Crisis(学習の危機)」と呼び、次のように指摘しています。
- 学校に在籍しているにもかかわらず基礎的な読解力や数学的理解に到達していない子どもが多数存在する
世界銀行の推計では、低・中所得国の子どもの約7割が、10歳時点で簡単な文章を理解できないとされています。
これは、就学率の改善だけでは「質の高い教育」は実現できないことを示しています。
参考:Ending Learning Poverty|世界銀行
https://www.worldbank.org/en/topic/education/brief/learning-poverty
紛争・貧困・ジェンダーが「教育機会」を奪う構造
UNICEFは、紛争影響下にある子どもは、安定した地域に住む子どもに比べて、学校に通えない可能性が2倍以上高いと報告しています。
学校の破壊、教師の不足、避難生活の長期化などにより、
教育は最初に失われ、最後まで回復しにくい社会インフラの一つとなっています。
参考:Education in emergencies|UNICEF
https://www.unicef.org/education/emergencies
また、貧困は、
- 学費・教材費の負担
- 労働による就学中断
- 栄養・健康状態の悪化による学習困難
などを通じて、教育機会を直接的・間接的に奪います。
さらに、貧困層の子どもほど、質の高い教師や教育環境にアクセスしにくいという二重の不利を抱えやすいことが、複数の国際報告で指摘されています。
参考:Education and poverty|世界銀行
https://www.worldbank.org/en/topic/poverty/brief/education
SDGs目標4では、教育におけるジェンダー格差の解消も重要な柱とされています。
UNESCOによれば、多くの地域で女子は依然として、
- 早期結婚
- 家事・ケア労働の負担
- 安全上の理由による通学制限
といった要因により、教育機会を制限されています。
これは、教育の問題であると同時に、社会構造の問題でもあります。
参考:Gender equality and education|UNESCO
https://www.unesco.org/en/gender-equality/education
日本の現状:義務教育があるのに“質の課題”が残る理由
日本は、初等・中等教育において高い就学率を維持しており、制度上は「すべての子どもが学校に通える」環境が整っています。しかし、SDGs目標4が掲げる「質の高い教育」という観点から見ると、日本の教育には依然として看過できない課題が残されています。
それは、制度としての平等が、学びの実質的な平等を必ずしも保障していないという点です。
地域差・経済格差・不登校など「見えにくい教育格差」
経済的背景による学習環境の差
文部科学省や内閣府の調査によれば、日本では義務教育段階であっても、家庭の経済状況が学習環境や学習成果に影響を及ぼしていることが明らかになっています。
例えば、
- 学習塾や家庭学習への投資額の差
- ICT機器や学習教材へのアクセスの差
- 保護者の学習支援や進路情報への関与の差
などが、子どもの学びの機会に影響を与えています。
このような差は、学校の外で生じるため、表面化しにくく、「見えにくい教育格差」として固定化されやすい特徴があります。
参考:子供の貧困対策に関する大綱(2023年版・内閣府)https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/834d4ee3-212d-4f35-aefa-6b795ebc913a/26e5c8a9/20230522_councils_shingikai_kihon_seisaku_JapZTAT7_10.pdf
地域による教育資源の偏在
日本国内では、自治体ごとに教育条件が大きく異なります。
- 教員配置数や専門人材の有無
- 特別支援教育や日本語指導の体制
- 放課後学習支援や地域連携の充実度
こうした差は、地方部や小規模自治体ほど顕著になりやすく、子どもが生まれ育つ地域によって、受けられる教育の質が左右されるという構造が存在します。
これは、教育の機会が制度上は保障されていても、学習の「厚み」や「多様性」には地域差が生じていることを示しています。
参考:「令和の日本型学校教育」の構築を目指して(中央教育審議会・答申) https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/079/sonota/1412985_00002.htm
不登校の増加が示す構造的課題
文部科学省の調査によると、不登校の児童生徒数は年々増加傾向にあり、義務教育制度の中で学校に通えない、あるいは通わない選択をする子どもが増えています。
不登校は、個人の問題として捉えられがちですが、
- 学習方法が一律であること
- 集団への適応を前提とした学校文化
- 心身の不調や多様な背景への対応不足
といった、教育システム側の課題とも深く結びついています。
参考:児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査|文部科学省
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1302902.htm
学校現場の課題
学びの個別最適と一斉授業の限界
日本の学校教育は、長らく「一斉授業」を基本としてきました。この方式は、一定の水準を効率的に保障する一方で、学習スピードや関心が異なる子ども一人ひとりに十分に対応しきれないという課題を抱えています。
文部科学省は近年、「個別最適な学び」と「協働的な学び」の両立を掲げていますが、実際の現場では、
- 授業準備や評価にかかる負担
- ICT活用スキルの差
- 人的リソースの制約
などにより、十分な実装が難しい状況も見られます。
参考:「令和の日本型学校教育」の構築を目指して(中央教育審議会・答申) https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/079/sonota/1412985_00002.htm
教員体制と働き方の課題
教育の質は、教員の専門性と働きやすさに大きく左右されます。しかし、日本の学校現場では、
- 教員一人あたりの業務負担の増大
- 授業以外の業務(事務・対応・部活動など)の集中
- 若手教員の離職やメンタルヘルスの問題
が指摘されています。
教員が子どもと向き合う時間を十分に確保できない状況は、教育の質の低下に直結する構造的リスクだと言えます。
参考:教師を取り巻く環境整備について(学校における働き方改革 等) https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kyoshi-kankyo/index.html
学習機会を「保障する」仕組みの不足
不登校や学習困難を抱える子どもに対して、多様な学びの場(オンライン学習、地域支援、外部人材の活用など)が広がりつつある一方で、それらが制度として十分に保障されているとは言い難いのが現状です。
結果として、家庭や地域の支援力によって、子どもが得られる学習機会に差が生じやすくなっています。
これは、SDGs目標4が掲げる
「誰一人取り残さない教育(inclusion)」
という理念に照らして、重要な課題です。
参考:学びの多様化学校(いわゆる不登校特例校)|文部科学省公式 https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1387008.htm
Teach For Japanは目標4にどう向き合うか

SDGs目標4が掲げる「質の高い教育」は、とても大きな言葉です。
Teach For Japan(以下、TFJ)は、この目標を政策や制度の話としてではなく、教室で出会う一人ひとりの子どもとの関わりの中で捉えてきました。
「この子は、どんなときに考え始めるのか」
「どんな声かけが、学びへの一歩になるのか」
TFJの取り組みは、そうした日々の問いから始まっています。
フェローシップ・プログラムが目指す「学びの変化」
TFJのフェローシップ・プログラムは、
「教師になること」そのものをゴールにしたプログラムではありません。
大切にしているのは、
子どもたちの学びが、どのように変わっていくか
そして、
教師自身が、学び続ける存在であることです。
教室では、こんな変化が少しずつ生まれています。
- 正解を待つだけだった子どもが、「自分の考え」を話し始める
- 発言に自信がなかった子どもが、友だちの意見に耳を傾けるようになる
- 「分からない」が言える空気が、学級に広がっていく
これらは派手な変化ではありませんが、
学びの質が変わり始めたサインです。
TFJのフェローシップ・プログラムに参加したフェロー(教師)は、子どもたちに前向きな変化を与えられるように日々実践に取り組んでいます。
研修・自治体連携で“質”をどう支えるか
教育の現場では、「良い授業をしたい」「もっと子どもに寄り添いたい」と思っても、
一人で抱え込んでしまうことが少なくありません。
TFJは、教育の質を
個人の力量や経験だけに委ねないことを大切にしています。
継続的な研修と振り返り
フェローは、赴任前だけでなく、赴任中も研修や振り返りを重ねます。
実践して、悩んで、立ち止まり、また考える。
そのプロセスそのものが、プログラムの一部です。
自治体・学校との連携
フェローは、TFJと自治体・学校の合意のもとで現場に立っています。
そのため、個人の挑戦が、学校や地域の学びの文脈と切り離されることはありません。
これは、SDGs目標4が示す
「教育を支える体制そのものを育てていく」という視点にもつながっています。
現場ストーリーで“学びの質”を可視化― 数字では測れない変化を大切にする
TFJが大切にしているのは、
テストの点数や成果指標だけでは測れない変化です。
- 子どもが自分の言葉で話し始めた瞬間
- 失敗しても挑戦しようとする姿
- 友だちの意見を聞き、自分の考えを深めようとする対話の広がり
こうした出来事は、小さく見えるかもしれません。
けれど、学びの質が確かに変わった証です。
TFJは、こうした教室での出来事を丁寧にすくい上げ、
「質の高い教育とは何か」を問い続けています。
- 参考:Teach For Japanとは|認定NPO法人Teach For Japan
https://teachforjapan.org/aboutus/ - 参考:フェローシップ・プログラムについて|認定NPO法人Teach For Japan
https://teachforjapan.org/recruiting/ - 参考:Teach For Japan 年次報告書|認定NPO法人Teach For Japan
https://teachforjapan.org/annualreport/
最後に:「私たちにできること」
SDGs目標4「質の高い教育をみんなに」は、 国や学校だけが担うものではありません。
これまで見てきたように、教育の課題は
教室の中と、教室の外の社会構造が重なり合って生まれています。
だからこそ、立場や関わり方は違っても、
一人ひとりにできるアクションがあります。
ここでは、個人・企業・自治体/学校という3つの視点から、
「いまから考えられる関わり方」を整理します。
個人(寄付・ボランティア・学び直し・情報発信)
教育に関わる第一歩は、
「関心を持ち続けること」そのものです。
個人ができることには、次のような選択肢があります。
- 寄付
教育活動を行うNPOや団体を支えることで、
直接教室に立たなくても、学びの機会を広げることができます。 - ボランティア
学校現場や学習支援の場では、
教員以外の大人の関わりが、子どもにとって大きな意味を持つことがあります。 - 学び直し・リスキリング
SDGsや教育について学び直すことは、
社会課題を構造的に理解し、自分の仕事や生活と結びつける力につながります。 - 情報発信・対話
教育の話題を身近な人と共有することも、社会の関心を広げる大切なアクションです。
企業(社員参加型支援、地域連携、学習機会提供)
企業もまた、SDGs目標4の重要な担い手です。
近年、国連や経済団体は、
企業が教育に果たす役割は、寄付にとどまらないと指摘しています。
例えば、
- 社員参加型の教育支援
社員がボランティアやプロボノとして教育活動に関わることで、
子どもに多様なロールモデルを届けることができます。 - 地域との連携
学校・自治体・NPOと連携し、
地域課題と学びを結びつけた取り組みを行う企業も増えています。 - 学習機会の提供
インターンシップ、出前授業、職業体験などは、
子どもたちが社会と学びを結びつける機会になります。
こうした取り組みは、
教育の質を高めると同時に、企業にとっても人材育成や組織文化の形成につながる
という側面を持っています。
自治体・学校(外部人材活用、学習支援、データに基づく改善)
SDGs目標4を地域レベルで進めるうえで、
自治体と学校の役割は非常に大きなものです。
とくに重要なのは、
学校だけで抱え込まない仕組みをつくることです。
- 外部人材の活用
NPO、企業、地域人材などと連携することで、
学びの選択肢や支援の幅を広げることができます。 - 多様な学習支援の整備
不登校の子どもや学習に困難を抱える子どもに対し、
学校外も含めた学びの場を保障することが求められています。 - データに基づく改善
出席状況や学習状況、支援の効果などを丁寧に把握し、
感覚だけに頼らない改善を重ねていくことが重要です。
これは、SDGs目標4の中でも
「誰一人取り残さない教育(包摂)」を実現するための、
欠かせない視点です。
SDGs目標4は、
「教育の担い手になること」だけを求めているわけではありません。
多様な関わり方があっていい、という前提に立つことが重要です。
また、SDGs目標4「質の高い教育をみんなに」は、
誰か一人が背負う目標ではありません。
立場や専門が違っても、
それぞれの場所から関わることで、
教育の質と機会は少しずつ広がっていきます。
Teach For Japanは、
そうした多様な関わりが交わる場をつくりながら、
これからも教室と社会をつなぎ続けていきます。
参考:SDG 4:Education(国連SDGs公式・Department of Economic and Social Affairs)
https://sdgs.un.org/goals/goal4
参考:Education transforms lives|UNESCO
https://www.unesco.org/en/education
参考:UNESCO calls for better oversight of private education to reduce inequalities(UNESCO公式記事)https://www.unesco.org/en/articles/unesco-calls-better-oversight-private-education-reduce-inequalities
参考:学びの多様化学校(いわゆる不登校特例校)トップページ|文科省https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1387008.htm
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