どんな環境にいる子ども達にも教育を届けたい。キャリア教育で、子ども達を社会と繋ぐ
- 修了生インタビュー
~アラムナイインパクト vol.8長谷川美沙_(34)_公立中学校教師~
フェロー経験者であるアラムナイの今を紹介する本企画「アラムナイ・インパクト」。第8回目の今回は、フェロー第2期生の長谷川美沙さんです。長谷川さんは現在も教員として活躍していらっしゃいます。
育児休暇を終え、この4月から職場復帰しているという長谷川さん。時短勤務で中学1年生の副担任、英語教師として働かれています。さらには、キャリアコンサルタントの国家資格取得に向けて勉強までされているとのこと。家庭や育児と仕事の両立に留まらず、ご自身の能力向上にも余念がありません。
この記事は、民間企業にお勤めで教育に興味のある方、教育現場で活躍したい女性の方、フェロー後も教員として働きたい方には、特に参考になると思います。教育分野で、しなやかに挑戦し続ける長谷川さんに背中を押してもらえるような内容となっていますので、ぜひご覧ください。
出身大学 | 慶應義塾大学 法学部 政治学科 |
職歴 | 株式会社リクルートキャリア 中学校教師(TFJフェロー) 小学校教師 中学校教師 |
通信教育で教員免許を取得。就活時の経験から、キャリア教育を小中学生に届けたい
早速ですが、現在の仕事内容を教えてください。
フェロー後もずっと教員を続けています。この4月から育休明けで1年ぶりに職場復帰し、中学校で1年生の副担任、英語教員として働いています。
今、一番力を入れて取り組んでいるのは、学年の学級係です。1学年8クラスあるのですが、各クラスの学級委員合計16人と力を合わせて、学年集会やレクリエーションの企画、掲示物の作成などを行っています。学級係は、学年のリーダーを育て、彼らが学年を引っ張ることをサポートする役割であるため、重要且つ仕事が多く、育休明けで少しヘビーかなと思っていましたが、学年の先生たちのサポートもあり、楽しくやれています。
育休を終え、コロナ禍の学校現場で働くようになってからは、以前に比べて変わった部分も見受けられます。例えば、レクリエーション活動の中でマルバツクイズをする時には、動き回る子ども達同士の接触を出来る限り減らすため、動ける範囲を制限するために線を引くなど、学級委員の子ども達と試行錯誤しながら進めています。ほかにも、例年は時間をかけて制作する掲示物についても、接触時間を極力減らすために短縮して効率的に作業しています。
そもそも、どうして教員になろうと思ったのですか?
私が教員に興味を持ったのは、大学生の就活時期でした。当時は、自分も周りも訳が分からないうちに、とりあえずいろんな企業に応募していたのですが、これに違和感を覚えたんです。
本当は人それぞれ強みや弱み、興味関心があるにも関わらず、それを考えたり振り返ったりすることなく企業に履歴書を送る。それこそ、リクナビに載っている企業を上から順に受けていく、知っている企業名やブランド名から受けていくといった状況がおかしいと思ったんですよね。そして、なぜこのような状況が生まれているのだろうかと考えました。
そこで私が考えたのが「幼い頃から自分が将来やりたいこと、好きなこと、興味があることに向き合ってこなかったからではないか。だから、いざ就活となった時、自分のやりたいことや好きなことが分からず、周りに流されるままに就活してしまうのではないか」ということだったんです。そして、自分のやりたいこと、好きなことに気付くためには、学校などで自己理解を深める機会、個性を見極める機会が必要で、そうする中で気付けていくものだと思ったんです。
この経験や思いから教員に興味を持ったのですが、如何せん、気付いた時には遅く、教員免許を取得するための単位も時間も足りなかったので、社会人になって働きながら教員免許を取ることにしました。
そこで、新卒ではリクルートキャリアという会社に就職しました。中でも、企業と正社員として働きたい求職者をマッチングする事業部に所属し、3年間法人営業を担当しました。そんな中、営業先の経営者や人事部長から求める人物像を伺っているうちに、企業の求める人材が市場になかなかいないことが分かってきたんです。
そこで共通していた人物像は、コミュニケーション能力が高くて主体性を持つ人でした。また、担当業界がITだったからかもしれませんが、変化の激しい中で自ら学べる人を求める声も多かったですね。多くの企業がスキルと同等、もしくはそれ以上に人間性を強く求めていることは興味深かったです。
そんな話を聞くうちに、益々、教育現場に関わりたいという気持ちが強くなっていきました。自己理解を深めて自分らしく活躍するためだけでなく、社会に求めらる人物になるためにも、早い段階でキャリア教育を受けることは有意義だと思ったんです。
このように働きながら、約2年かけて通信教育で中学校の英語教員免許を取得し、退社しました。
公教育に携わり、どんな環境にいる子ども達にも教育を届けたい
そんな中で、なぜフェローになろうと思ったのですか?
3つの理由があります。
一番大きな理由は、教育に対して熱い思いを持つ仲間と出会えるだろうと思っていたからです。意識の高い人達とつながる良い機会だと思いました。実際に、素晴らしい仲間に出会えましたね。同期とは今でも交流があり、SNSで情報交換したり、お互いの相談に乗ったりしています。同期の中には、私と同じように教員を続けている方も多くいらっしゃるので、刺激を受けますね。一人で教育に向き合うのと、尊敬できる仲間とつながりながら教育に向き合うのとでは、モチベーションや学びの部分で大きな差があると感じています。
2つ目の理由は、どんな環境にいる子ども達にも教育の機会を届けたいという私の思いと、その当時のTFJの考え方がマッチしていると思ったからでしたね。私は、大学時代から途上国支援に興味を持っていて、生まれた環境によって人の可能性が狭まってしまうことをおかしいと思っていました。そこで、実際に現場を見たいと思い、インドネシアやベトナムで子どもの教育に関わるボランティアに参加したんです。どちらも2週間くらいだったのですが、現地の学校で英語を教えたり、文化交流をしたりしました。
これに加えて、社会人になってからもケニアのマサイ族の村にボランティアに行きました。通信で中学校の教員免許を取得し、会社を辞めたあと、学校に赴任するまでの時間を利用し、1カ月ほど教員としてボランティアに参加したんです。机がない、教材がない、教員が足りないという日本ではありえないことが、環境が変われば普通のことなんだと改めて思い知りました。ここでの経験や学びは教材にし、今でも子ども達に伝えています。
最後に3つ目の理由は、公教育の現場で困っている子ども達のお手伝いがしたいと思っていたからでした。これは、2つ目の理由にもリンクするのですが、家庭環境などを理由に学ぶことが困難な子ども達を支援したいと思っていました。この公教育というのは、私にとって重要なこだわりでした。フェローから今まで、公教育の現場で働き続けています。
フェロー期間中は、どんなことに注力しましたか?
2つあります。
1つ目は、英語の授業のための環境整備です。これを一番頑張りましたね。英語教室を一から作り、教室には英語の掲示物を貼ったり、全部の机に辞書を入れたり、英語のCDを流せるようにしたりしました。
なぜ、英語を学ぶためだけの空間を作ったのかと言うと、子ども達の英語スイッチを入れやすくしたかったからです。英語の授業以外はすべて日本語なのに、英語の授業になると急に日本語は話してはいけませんと言われても、難しいのが本音だと思います。そこで、物理的に環境を変えることで、頭も切り替えてもらおうと考えたんです。実際に、教室に入る時にはHelloと英語で挨拶して入ってきてくれる子どもたちも多くいました。
私が去った後でも英語教室は残っていて、他の先生が使って下さっています。後に引き継げて嬉しいですね。私は、英語教育は、コミュニケーション能力を鍛えることにも繋がるため、社会に出てから求められる人間性を培う力を育めると考えています。この可能性を信じ、今できる英語教育について考えていきたいと思っています。
2つ目は、部活動の指導です。男子テニス部を担当していたのですが、当時は独り身だったということもあり、平日も週末も沢山の時間を部活に費やしていました。ただ、練習量をやみくもに増やすのではなく、効率よく上達するための方法を考え、自分の行動を振り返ってもらうための部活ノートを作ったり、サーブの成功率を視覚化できるように表を作ったりしていました。
その結果、担当し始めた当初は区でもなかなか勝ち上がれないことが多かったチームでしたが、徐々に区大会や市大会でも活躍できるようになり、県大会で活躍する個人まで出てくるようになりました。本当に嬉しかったですね。いい思い出です。
キャリア教育に注力。キャリアコンサルタント資格を取得し、子ども達に寄り添う
それでは、今後の展望を教えてください。
キャリア教育に力を入れていきたいと思っています。私は今までの経験から、子ども達にキャリア教育を伝えたくて教員になりました。自分に出来ることを改めて振り返ると、教育と社会を繋ぐ事だと感じてます。
そのための1つとして、現在、キャリアコンサルタントの国家資格を取得するために勉強しています。今後は学んだことを活かし、より子ども達一人一人と向き合い、個別に将来や進路等の相談を受ける機会を増やしていけたらと考えています。
また、積極的に総合の時間におけるキャリア教育にも関わっていきたいとも考えています。キャリア教育の時間等を通して、中学生の時から自己理解を深め、自分の興味関心を知れるような機会を作りたいです。
加えて、リクルートキャリア時代の先輩が現在、新しく立ち上げている事業「Edu.tor(エデュター)」に興味があり、今は子育てで精一杯ですが、来年を目途に、本格的に参画していければと考えています。
Edu.torは、我が子に世界中のどこでもやりたいことを実現できる教育を与えたいと考える親向けコミュニティサイトです。偏差値だけではないグローバル教育を子どもたちに届けたい、という思いで立ち上げられています。
具体的には、グローバル教育に関するオンラインセミナーや、Edu.tor専属チューターによる個別相談、偏差値ではない学校情報サイトの運営などが行われるのですが、私はここでチューターとなり、個別相談を担当する予定です。個別相談にいらっしゃるのは保護者の方がメインだと思いますが、保護者の皆さんを通して、子ども達一人一人のキャリア相談に乗っていきたいと考えています。
こうして、学校現場では子ども達に直接、チューターとしては保護者の方を通して子ども達に間接的にキャリア教育を届けていきたいです。
最後に、フェロー希望の方へアドバイスをお願いします。
私からは、教員として働くことのを3つ面白さやメリットをご紹介したいと思います。
まず1つ目が、教員は達成感ややりがいを年に一度は必ず感じられる仕事だということです。民間企業での経験と比べても、教員は1年という区切りが大きく影響する仕事だと感じています。仕事にもよると思いますが、民間企業の場合、1年終わるごとに大きな変化が必ずしもあるわけではないと思います。しかし、教員はそうではありません。
1年毎に新学期がやってきて、出会いがあれば別れもあります。1年で担当領域や担当生徒が変わるため、1年ごとに1から、もしくは0から始めなければならないことも多く、正直、大変なことも多々あります。しかし、その分、1年ごとに得られる感動が多いのが特徴だと思っています。1年で子ども達や自分自身の成長を感じられるため、1年が終わる頃には、達成感ややりがいを感じていただける仕事だと思うのです。
続いて2つ目は、教員の仕事は繰り返しのようで、そうではないという点です。これは、1つ目にもリンクしてくるのですが、教員には本当にたくさんの仕事があり、学級経営や教科指導、部活指導に行事や特別学習の指導など、やることは尽きません。
そのため、学級経営のノウハウや経験が身についてきたら教科指導の方法を研究したり、行事や特別学習の内容を企画したりと、やることも学ぶことも沢山あります。それに、去年の担当クラスの子ども達には響いた内容が、今年の子ども達にも響くとは限りません。相手が生ものである以上、正解はなく、常に学んで自分をアップデートしていく必要があるのです。だからこそ苦労もありますが、働き甲斐も感じやすいと思っています。
最後に3つ目ですが、教員は子育てと両立したい方には働きやすい仕事の一つだということです。確かに、教育現場は基本的に忙しいのですが、子育て世代は、時短勤務等の子育て支援制度を使えるため、社会一般で言われているよりは働きやすい環境だと思っています。また、夏休みや冬休みといった長期休暇の際には、自分の子どもといられる時間も確保しやすいと感じています。教員に興味があるけど、家庭と両立できるか不安に感じているという方には、今一度、教員を検討してもらえればと思います。
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