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GIGAスクール構想 公立小中学校での環境整備の進捗状況&利活用事例!

Society 5.0時代を生き抜く力を育成すべく、着々と整備が進むGIGAスクール構想。コロナ禍の2020年、各自治体・学校、関係者の尽力により、1人1台端末そしてインターネット環境の整備が着実に進みました。今回は、令和3年度時点におけるGIGAスクール構想の環境整備の進捗状況、学校現場でICT機器の具体的な活用実践事例をご紹介します!

GIGAスクール構想の要点

GIGAスクール構想の環境整備の進捗状況をご紹介する前に、簡単にGIGAスクール構想の要点(目的と内容)をまとめてみました。

目的:Society5.0時代を生き抜く子どもの育成

GIGAスクール(Global and Innovation Gataway for All)構想とは、新しい時代の義務教育の在り方の一環とし推奨されてきた教育ICT環境整備の実現を図る構想です。GIGAスクール構想は、急激な社会的変化が進むSociety5.0時代を生き抜く力を育み、子どもたちの可能性を広げることを目的としています。これまでの教育実践とICTを掛け合わせることで、学習活動を充実することが期待されています。更に、ICT機器を活用することで、多様な子どもたちを誰一人取り残さない個別最適な学び・創造性を育む学びを実現し、児童生徒の資質・能力の最大限の育成を目指します。

内容:教育ICT環境整備

GIGAスクール構想のもと、実現を目指す内容は下記のとおりです。
・児童生徒1人1台端末の整備
・高速大容量の通信ネットワークの整備
・クラウド活用推進
・ICT機器の整備調達体制の構築
・ICT機器の利活用優良事例の普及
・ICT機器の利活用のPDCAサイクル徹底

これらの内容には、ハード面の環境整備に加え、実際にICT機器の活用実践の定着も含まれています。ICT機器は、あくまで手段・道具であり、環境整備された上でICTを活用し学習活動の一層の充実を図るという点が、GIGAスクール構想の要と言えます。

GIGAスクール構想の要点をまとめた記事も是非ご参照ください▼
学校のICT化とは?ICT活用状況とGIGAスクール構想の要点整理!

PDCA=Plan(計画)・Do(実行)Check(評価)Action(改善)

令和3年度における環境整備の進捗状況

ここでは、現時点におけるGIGAスクールの実現の進捗状況をハード面の端末・ネットワーク整備と指導体制の2観点から見てみましょう。

端末・ネットワークの整備状況

文部科学省は2021年5月に全国公立小中学校、義務教育学校、中等教育学校、特別支援学校におけるICT環境整備の進捗状況の確定値を報告しました。

(参照: GIGAスクール構想の実現に向けたICT環境整備(端末)の進捗状況について(確定値)|文部科学省

96.5%の自治体において令和2年度中に児童生徒への端末整備、インターネットの整備を完了していたことが分かりました。また、納品が完了していない団体についても、令和3年度の1学期ないし2学期にはICT環境が整う予定だと報告されています。

これらの数値から、GIGAスクール構想に基づくハード面の環境整備はかなり進んでいることがわかります。この進捗状況は、自治体・教育委員会・学校等の関係者の努力が成果に現れたと高く評価されています。 

アドバイザー・スクールサポーター・支援員の整備状況

設備の整備に合わせて重視されるのが、端末の有効的な運用をサポートする支援体制の整備です。文部科学省は次のように強調します。

ICT 活用に当たり,教員の業務負担が増加しないよう,外部専門スタッフの活用も含めた対応を講じる必要があり,とりわけ ICT 機器等の導入当初は,情報端末や通信のトラブル等に対する技術支援など行うための ICT 支援員の配置や, GIGA スクールサポーター事業の活用による広域的なヘルプデスクの整備などを 通じて学校への支援体制を強化すること。

(引用元:GIGAスクール構想における高等学校の学習者用コンピュータ等のICT環境整備の促進につていて(通知)|文部科学省, p.4)

文部科学省は学校でのICT活用を支援すべく、3種の支援システムを設置しています。

①ICT活用教育支援アドバイザー

教育の情報科の知見を有するアドバイザーは、国が各教育委員会に手配し、環境整備の計画から、実際の活用に際する助言を行います。制度が開始された令和2年度に45名のアドバイザーに委嘱していたのに比べ、令和3年度には101名ものアドバイザーに委嘱しており、制度の充実が図られています。

(参照:ICT活用教育アドバイザー プロフィール一覧|OECT

②GIGAスクールサポーター

スクールサポーターは学校における初期対応に係る業務を担当します。各教育委員会が国の補助金を活用し、学校へサポーターを配置します。文部科学省は「学校での人的体制は不十分である」と注視し、令和3年度には『GIGAスクールサポーター配置促進事業』に新たに10億円の予算を確保しました。また、自治体や学校が人材を探す際に活用できる、人材紹介をする事業者の情報をまとめたページも整備されています。

(参照:学校ICT化サポート事業者一覧|OETC

③ICT支援員

教員に寄り添い、日常的なICT活用の支援を担当するのがICT支援員です。アドバイザーとサポーターは国により、また国の補助金により配置されるのに対し、支援員は地方財政措置を活用し、各自治体で予算を組む必要があります。目安とし、令和4年度までに4校に1人の配置を目指していますが、支援員の配置はなかなか進んでいません。令和2年度末の配置状況は次のとおりです。

(参照:アンケート調査及びヒアリング結果|文部科学省

文部科学省が行ったアンケート調査によると、 ICT支援員の活用に関する課題として最も回答が多かったのが、「財源の確保が困難」「求める人材の発掘・確保が困難」の2点でした。また、ICT支援員の活用に至らない理由としても、最も多い回答が同じ2点した。ICT支援員の配置に向けた対策は今後、必要となりそうです。

自治体での工夫

国が推奨する指導体制に加え、各自治体でも先生方のICT活用をサポートするべく、支援体制を工夫しています。

例えば、新潟市教育委員会は『GIGA SUPPORT WEB』という特設情報サイトを立ち上げ、教職員用のヘルプデスクダイアルも整備しています。

長野県教育委員会では、信州大学と共催する『教育DXお悩み相談室』を立ち上げています。毎月オンラインで先生方が悩みを相談できる時間と空間を設けています。途中退出・匿名での相談ができ、先生方が気軽に質問できる環境作りがされています。

川崎市教育委員会は、各学校でのGIGAスクールを推奨していくGIGAスクール構想支援教師という制度を設け、川崎市総合教育センターの職員を含む225名のオンラインでの情報交換の場を整備しています。

(参照:新潟市教育委員会『GIGA SUPPORT WEB』|新潟市教育委員会令和2年度 第2回 川崎市総合協会議 かわさきGIGAスクール構想の取組について|川崎市, p.6)

現場での具体的な利活用例

記事前半では、ハード面そして指導体制の整備に関する進捗状況をご紹介しました。着実にGIGAスクール構想が実現し始めていおり、各自治体・学校は既に様々な活用実践を報告しています。記事後半では、実際に学校での端末の具体的な利活用例を見てみましょう!多くの自治体が想定できる端末の利活用場面を紹介していますが、ここでは実際の実践事例を細かく紹介している下記の自治体の報告を参照し、ご紹介していきます。

一斉学習

前橋市ではミライシードのオクリンクを活用し、タブレット端末を介した教材の配布を活発に実践しています。例えば、図工の授業時間に作例を送り、子どもたちは作例を見ながら工作に取り組みます。他にも、オンリンクではカラー資料の配布が可能になり、参照した資料の保存もできるため、児童が資料の読み返しができるようになっているといいます。

札幌市の小学校では、書写の時間に示範動画を視聴しながら練習に取り組むという活用事例も紹介されています。「自分の苦手な部分に特化して繰り返すことができた」「筆の運びなど、細かな部分に焦点を当てて確認することができた」などの効果が報告されています。

つくば市の中学校では、「環境問題」について考える授業の導入に、ICTを活用し思考の視覚化することで、生徒の意欲的な学習につなげられたと共有しています。具体的には、Mentimeterというオンライン上のソフトウェアを使い、生徒が知っている環境問題のワードクラウドを作成しました。少数意見を取り上げることができたり、あまり環境問題について知らない生徒への支援にもなったと振り返られています。実際に生徒は「みんなの考えがわかっておもしろかった」などの声を挙げています。

(参照元:令和元年度つくば市ICT教育活用実践事例集【P.25~159】|つくば市先進的ICT教育, p.129)

他にも、単元や授業、調べ学習の導入で児童生徒の考えや既に知っていることを示すアンケート結果を提示したりすることにより、子どもたちの考えを学びの起点にすることができている活用例が多く紹介されていました。これらの実践事例は、ICTの活用が子ども主体の学習活動を効果的に後押ししているように見受けられます。

また、図工や書写の例のように、全員の机間指導が難しい、実技系の授業において、お手本や資料を各自近くで見ることができ、子どもたちの学習意欲の向上につながったという報告がいくつか挙げられています。

個別学習

前橋市ではミライシードのドリルパークを活用することで個別最適な学びを行っており、次のような気づきが共有されています。

計算ドリルでは、今学習している課題だけでなく、わからない問題があれば前の学年まで遡って学習することができるので、自分のペースでわかるところから学習を積み重ねていくことができ、「できた」と言う達成感を味わいながら学習をすることができます。そのため、今まで「わからない」と学習になかなか参加できなかった子供も、意欲的に取り組むようになりました。自分のできるところから繰り返し学習できることや、問題が全員異なるため他人と比べなくなることが、学習への意欲につながっていると思います。

(引用元:GIGAスクールタブレット端末の活用 個別最適な学び|前橋市立桃瀬小学校

長野県では、探究的な学習における情報の収集段階で、クラウド上で個々の情報の収集状況を把握し、支援が必要な子どもに向き合うことができるといいます。

熊本市の学校では、端末でマインドマップやフローチャートを作成し、自分の考えを整理するのシンキングツールとして活用されています。

他にも、札幌市では、様々な個別学習の場面で活用されています。国語の授業では作文の過程を記録し、推敲に役立てる。理科の授業では、観察・実験を撮影し、繰り返し視聴することで分析・考察の深化に活かす。

これらの事例から、1人1台端末は児童生徒が自分の学習過程・成果に向き合い、内省する機会を創っているように見受けられます。現行の学習指導要領では、「主体的な学び」はとても重視されています。子どもたちが粘り強く自分の学習に取り組む力、自分の学びを振り返り次の学びに生かす力を身につける授業の実現を可能にしていることがわかります。

協働学習

ICTのインタラクティブな点を活かし、学校現場では協働学習にも応用されています。例えば、札幌市や前橋市の学校ではGoogle Jamboardを使い、意見交換、集まった意見の分類・整理に端末を活用しているます。

他にも札幌市の中学校では理科の授業のエネルギー施策に関するディベートで、端末が活用されました。まず、グループ内のアイディアを端末に整理します。ディベート中は自分たちの議論を撮影し、その後の振り返りにいかします。準備の効率化や、即座の考えの整理に役立ったといいます。同様に、熊本市では、班の意見をまとめ、プレゼンをするまでの一通りの過程をロイロノートを使って行いました。

また、多くの自治体で報告されている活用事例が、体育の授業での活用です。マット運動や跳び箱の授業で、お互いのパフォーマンスを撮影し合い、スローモーションで見直します。自分の動きを観察し、課題を見つけたら次の練習で改善してみます。お互いに撮影し、一緒に振り返ることで、「友達同士でアドバイスし合うことで、お互いの良さを認め合うことができた」とつくば市は報告します。

現行の学習指導要領では「対話的な学び」、そして「周りの人たちと共に考え、学び、新しい発見や豊かな発想が生まれる授業」の実現は重視されています。協働学習での活用事例から、1人1台の環境は子どもたちの意見交換を活性化、グループ活動の効率化に働きかけていると言えます。

教師同士をつなぐ

札幌市では、教材・板書例・課題の共有に端末が有効に活用されています。次のような取組例が報告されています。

Google Classroom や Google フォーム、Google ドライブを活用し、効果的だった課題や教材を共有する。 
BANSHOT(バンショット)を活用し、板書例を共有する。 
授業等で使用する大判の掲示物等を、Google スライド 等で作成・共有し、印刷や掲示の手間を省く。 
Google ドライブにワークシートを保存。学年の教科担任が共通して使用できるように共有する。 

(引用元:1人1台端末活用のガイドライン【札幌市版】|札幌市, p.20)

教師が連携した授業づくり、カリキュラム・マネジメントは現行の学習指導要領で重きが置かれています。札幌市の例から、ICTは教師同士をつなげるのにも活躍することがわかります。

学校と家庭をつなぐ

長野県ではGoogleフォームを活用し、保護者との三者面談の希望日時の調整をオンラインで行ったといいます。同様に、前橋市の小学校では、GoogleフォームとGoogleドライブを活用し、令和2年度末のPTA総会の資料配布と総会決議をオンラインで行いました。今後、学校からのお知らせ等の配布物もデジタル化していくことが予定されています。

その他の活用例

上記の活用場面以外にも、ICT環境を活用した様々な試みが報告されています。例えば、長野県では児童生徒が係や委員会活動の相談をオンライン上のチャットで行っています。熊本県では、校外学習・修学旅行にタブレットを持参し、野外でのウィールドワークにも活用しています。

他にも、札幌市が小中連携にICT環境を応用した事例を紹介しています。

(参照:1人1台端末活用のガイドライン【札幌市版】|札幌市, p.17)

空間の制限なくつながることを可能にするICT機器の強みがいかされている実践です。

学校現場での実践事例を見ると、多様な場面でICTが活用されていることがわかります。今回、いくつかピックアップしてご紹介しましたが、自治体や学校は、積極的にどの様に端末を活用したか、写真や振り返りと一緒に紹介・共有しています。こういった情報共有は、ICT教育の定着に必須であると重視されています。文部科学省も、自治体ごとの活用の差を埋めるため、『StuDX Style』という情報共有サイトを立ち上げ、具体的な活用事例を紹介しています。

まとめ

新しい時代、Society 5.0時代に相応しい教育環境とし実装したGIGAスクール構想。各自自体・学校、関係者の取り組みにより、ICT環境・指導体制が着実に整い始めています。そして、学校現場でICT機器を活用した様々な試みにより、学習活動の充実が図られています。今回ご紹介したICTの活用事例は多種多様であり、現場での試行錯誤がうかがえます。GIGAスクール構想の一環とし「ICT機器の利活用優良事例の普及」が挙げられるよう、実践事例を共有し、普及する。その上で、学校間・地域間での活用の差を埋めることは重要とされています。複数の自治体は特設サイトの立ち上げや、詳細な報告レポート、GIGAスクール通信の配信などにより、活発な情報交換を行なっています。GIGAスクール構想とともに、学校教育が進展していく過程に引き続き注目していきましょう。

参考資料:
GIGAスクール構想の実現について|文部科学省
 ICT活用教育アドバイザー事業|文部科学省
文科省、GIGAスクール構想「ICT環境整備」の各自治体の進捗状況を公表|ICT教育ニュース
GIGAスクール構想の下で整備された1人1台端末の積極的な利活用等について(通知)|文部科学省
ICT支援員の配置状況と支援事例等 リーフレット|文部科学省
ICT活用教育アドバイザー、ICTスクールサポーター、ICT支援員の概要|文部科学省
令和3年度予算のポイント|文部科学省
鳥取市 GIGAスクール構想について|鳥取市
長野県ICT教育推進センター 長野県教育委員会|長野県
令和3年度教育課程編成・学習指導の基本:1人1台端末等のICTの活用について|長野県
GIGAスクール 長野県ポータルサイト
令和2年度 第2回 川崎市総合協会議 かわさきGIGAスクール構想の取組について|川崎市
かわさき GIGA スクール構想|川崎市
西宮が目指す教育の情報化|西宮市
GIGAスクール構想に向けた進捗状況等について|前橋市
GIGAスクールタブレット端末の活用|前橋市立桃瀬小学校
1人1台端末活用のガイドライン【札幌市版】|札幌市
【特集】先生も奔走『GIGAスクール構想』上々?教育現場に「通信」と「情報」|MBSニュース
新潟市教育委員会『GIGA SUPPORT WEB』|新潟市教育委員会
一人一台端末実践事例|つくば市先進的ICT教育 
GIGAスクール構想の進捗状況と活用イメージについて|板橋区教育委員会
教師が変わる 学校が変わる 子供が変わる:1人一台端末の効果的な活用に向けて|東京都教育委員会
1人1台タブレット端末の運用について:教師用リーフレット|熊本市教育センター

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