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活動レポート report

【イベントレポート】特別対談!ランジット先生×ウェンディ・コップ氏~グローバルティーチャー賞に輝いた先生の頭の中~

教育界のノーベル賞とも称されるグローバルティーチャー賞。2020年はインドの小学校教員であるRanjit Disale(ランジット・ディサレ氏)が受賞されました。女子児童の教育、多言語国家における学習過程での言語の壁、そして紛争・戦争に苦しむ国としての子ども達の意識改革に注力されてきたランジット氏。今回、Teach For Japanも加盟するTeach For AllのファウンダーでありCEOのWendy Kopp(ウェンディ・コップ氏)との対談を通し、様々な知見を共有してくださりました。本記事では、対談のサマリーをご紹介いたします。

Ranjit Disale(ランジット・ディサレ氏)

ランジット氏は、女子児童の教育機会の充実に向け素晴らしい偉業を成し遂げ、彼の対策は今はインド全土に広がり高く評価されています。元々、小さな村で教員人生をスタートしたランジット氏は、教科書の言語が、子ども達の母国語でない現状が学習の妨げになっていると気づき、言語の壁を壊そうと対策を打ち出しました。QRコードで読み取れる教科書を導入し、児童が読み書きできる言語で学習できる環境を整えました。他にも様々な取り組みを行った結果、ランジット氏の児童のうち98%もの子ども達が目標の学習成果を満たしたといいます。

そして2020年には、グローバルティーチャー賞を受賞されました。受賞以前から、新聞記事やテレビインタビューなどを通し自身の取り組みを共有されてきましたが、受賞を機に様々なグローバルネットワークにて知見を共有してくださっています。最近では、Teach For Allネットワークの一組織であるTeach For Indiaのフェロー候補生の研修にも協力してくださりました。

教員は真のチェンジメーカー

エンジニア専攻から教員養成コースへ

幼少期からテクノロジーが大好きで、ITエンジニアを目指し、エンジニアの大学に入学しました。しかし、いじめの経験から退学し、次年度から違うエンジニア大学へ行くことを考えていました。新しい大学に行くまで、6ヶ月実家で過ごす時間があったですが、将来を心配した父から、教員養成のコースを受講したらどうだ?と提案されたのです。彼自身、教員であったこともあり、私が教員に向いてるのではと思ったのです。

父の助言に導かれ、教員養成コースを初めてすぐ、私は教員の、教育のポテンシャルに心を打たれました。教員は真のチェンジメーカーだと気づきました。それ以来、教員の道へ進むことを決意しました。

データに基づいた対策で課題解決に

教員として一番最初に赴任した村は本当に貧しく、児童の90%近くが不登校でした。初日は本当にびっくりしました。教室は牛小屋のような状態で、親御さんは現状を知らず不満を言うこともなかったのです。そこで最初に、村全体を調べデータを集めました。各家庭の経済状況や文化的背景を調べ、分析したのです。

分析をもとに、3つのゴールを設定しました。
1. 親の教育への意識を高める
2. 男子児童・女子児童の100%の出席率
3. アカデミックパフォーマンスを向上する

児童婚が非常に多い村でしたが、当初のゴールとして児童婚の減少をあえて設定しませんでした。なぜなら、学校での学びを通して、自分で決断する力が育つと信じていたからです。

地域との協働を通し児童の出席率改善へ

分析のもと、村の女性の方が男性より最終学歴が高いことが分かったのです。女性は平均7年生までの学習を修了している一方、男性は平均5年生でした。そこで、村の女性に子どもの教育を手伝ってもらうようお願いしました。教員、親、児童のコラボレーションが重要だったのです。

地域社会との関係を築くために、彼らの言語を学び、地域や家族のイベントにも参加しました。家族の文化を理解することで、地域の人々も自分のことを真剣に受け止めてくれるようになり、徐々に、アドバイスに耳を傾けてくれるようになりました。

そして、近隣の村からロールモデルとなる女子児童を招き、トークイベントも行いました。学習成果が良い女子児童達が、教育がどのように彼らの人生を変えたのか村の親御さん達に話してもらいました。生の声を聞いた親たちに、「この子ができるなら、我が子も」と思って欲しかったのです。

また、午後7時に村中にアラームが鳴るよう設定し、7時には一旦仕事・家事から手を止め、子ども達の宿題を手伝ったり、「明日何を勉強するの?」と話し合う時間を過ごすよう促しました。子どもの学習をどう支援すのか分からない親達に向け、アドバイスメッセージも送りました。これらの取り組みをとおし、子ども達は徐々に自分の学習へ責任を持つよう変わっていったのです。

子ども達に願うこと

課題解決力を育みたい

教育は様々の課題にあらゆる解決策をもたらすと信じています。教育を通して問題を解決することができる人材が育つことで、結果的に、社会改善に貢献できると思うのです。

子ども達の点数や成績に重きを置いていません。それらの指標だけで、「成功」は測れないと思うからです。私が重視する成功や教育成果とは、子ども達が知識を応用して、より優れた解決策を提案する力を身につけることです。そして、社会において周囲の人と良好な関係を築くことができるスキルもとても大切です。ただ単に賢い人に育つだけでなく、良い市民であり、良き人間に育ってほしいと願っています。

非暴力主義のピース・アーミー

子ども達に非暴力の大切さにも気付いてもらいたく、戦争・紛争に苦しむ地域の子どもに向けたピース・アーミープログラムも行っています。インドとパキスタン出身の子ども達が参加できる6週間プログラムです。

1 ピース・バディーとなるために、お互いのことを知り合います。
2「なんで私たちは戦うのか?」この問いについて一緒に考えます。どんな意見も打ち明けられる場を設けるのです。
3両国間の相違点を見つめます。異なる点は何か?似ている点は何か?一緒に考えます。
4共感力と慈悲心に集中します。マイクロソフトのCEO Satya Nadella(サティア・ナデラ氏)の著書『Hit Refresh』を使って子ども達の共感力の促進を目指します。
5フィンランド、カナダ、などの平和な国々からゲストスピーカーを招き平和を築くまでの歴史を話してもらいます。
6「何か止められることはあるか?」争いを続けるか否かは次世代の彼らにかかっているということを伝えてプログラムを修了します。

現時点で、18,000人が参加してきました。2030年までに50,000人の子ども達に参加してもらうのが目標です。

教員というプロフェッションへの期待

未来を意識して動ける教員達

今の教員養成は、教員達を未来ではなく過去に備えていると思います。そのため、これからは、リーダーシップの育成に集中するべきだと考えます。コロナ禍の2020年、教員達はオンライン教育への準備ができていませんでした。教員コミュニティは、世界のペースについて行く必要があるのです。今のままだと、世の中は先に進み、教員養成は遅れてしまいます。社会のニーズを意識し、テクノロジーを応用し、意義深い教え方を実現する方法を考えることが必要です。

グローバルネットワークを活かして協働して

受賞を機に得たグローバルネットワークでは、教員というプロフェッションの大使として、教員の声を増幅することに注力したいと思います。

一緒に働きかけようというメッセージを届けたいです。国を越え、様々なステークホールダーとの協働も促したいと思います。各国では、それぞれ抱える教育課題を様々な施策で対応していると思いますが、お互いから学び合えると信じています。例えば、ウガンダでの実践がインドにも活きることがあると思うのです。教員の間で、共有し、協働し、一緒に成長したいと思います。そして、一緒に成長するために、私の経験を共有することも惜しみません。

テクノロジーは決して教員を置き換えられないことは分かっています。しかし今や、家で専門家から直接学ぶことが可能になっている時代です。教員達は協力する必要があるのです。教員の声を受け止める必要があるのです。教室でどの様な課題を抱えているのか、耳を傾けることが大切です。志を同じく持つ教員のネットワークを築き、改革のアイディアバンクも作れたらいいなと思います。また、教員達が色々なことを試せるスペースを与えるのも重要です。

コロナ禍での取り組み

2016年から、QRコードから読み取れる教科書を使っていました。そのため、子ども達は学校の外での学習の進め方を分かっていました。ただ、各家庭に少なくとも1台はデジタルデバイスがあるよう手配する必要があり、SNSで使っていないデバイスなどを募り、集まったデバイスを不足している家庭に届けて回りました。

オンライン授業では、カリキュラムに固執せず、閉校下の条件を活かし身の回りの社会や自然から学べるアクティビティを計画しました。1日に使った電力や水を記録したり、観察する課題を出しました。彼ら自身が集めたデータをもとに、自分たちの行動を考える機会を設け、データに基づくクリティカルシンキングや決断力を育む事に集中しました。

セルフケアと学び続けることの大切さ

周囲の支えのおかげ 

健康であろうと常に心がけていて、毎日ヨガで1日をスタートします。ヨガがエネルギーの源です。グローバルに働く教育者であるため、日々多くの予定がありますが、管理能力で切り抜いています。また、同僚・家族の支えのおかげで教育に情熱を注ぐことができています。

自己投資と生涯学習

また毎年、収入のうち10%を自己研鑽に投資しています。人、教員とし、成長できるよう、オンラインコースを受講します。学ぶことはとても楽しく、いつもローカルなプラットフォームとグローバルなプラットフォームの両方から学ぶようにしています。ローカルとグローバルの両点を繋いで自分に何ができるか考えることが私の学習プロセスです。

実際の対談の動画はこちら(英語)▼
Teach For All Talks: Ranjit Disale – 2020 Global Teacher Prize winner

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