学校現場で生かす感覚統合
- 活動レポート
Teach For Japanのフェロー(教師)がどのような研修を受けているのか、疑問に思っている方も少なくないのでは?今回は2019年5月に実施した現役フェローの研修をご紹介します。
作業療法士の高畑脩平先生をお招きした研修のテーマは「感覚統合」
感覚統合を学ぶことで、子どもの「問題行動」に対する理解が深まり、より良い学習環境を作ることができます。記事の最後では、フェローの実践例もご紹介します!
感覚統合とは・・・?
感覚統合によって、人は脳に入ってくる様々な感覚を整理したり、まとめたりしています。
人は普段、様々な「感覚」に囲まれています。感覚には一般的によく聞く「五感」(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚)の他にも、「固有受容覚」と「前庭感覚」という感覚が存在します。脳は次々と入ってくるこれらの感覚を統合(整理・分類)し、無意識に自分の身体をコントロールしています。逆に感覚統合がうまくいっていないと感覚の受け取り方に偏りが出て、他人と同じように状況を把握して、それに応じた行動をすることが難しくなります。その結果、落ち着きがなかったり、乱暴な動作が多いと思われたりします。感覚統合を理解することで子どもの行動を理解し、問題がわかったうえで対応することができるようになります。研修では、「固有受容覚」と「前庭感覚」を中心に説明していただきました。
固有受容覚
「固有受容覚」とは、筋肉や関節によって自分の身体の位置や動き、力の入れ具合を感じる感覚です。固有感覚の役割は大きく分けて5つあり、
①自己存在感 (例:抱っこを求める)
②身体のイメージの把握 (例:人がしていることを真似できる)
③力加減、動きのコントロール (例:飲み物をそっと注ぐ)
④距離感、方向の把握 (例:自分の下駄箱の位置がわかる)
⑤一連の手順の記憶 (例:文字の学習)
があります。
固有受容覚と子どもの行動
子どもは様々な経験をしながら、固有受容覚を養い、他の感覚と統合させて発達しています。例えば、固有受容覚があることで、自分の力や動きをその場に応じて変えることができます。子どもたちは綱引きで力いっぱい引っ張ったり、ジャングルジムをぎゅっと掴んだりして100%を知ったあと、飲み物を注いだり、卵をそっと持ったりするなど力を加減することを学びます。逆に、固有受容覚が未発達だと力の加減がうまくできず、自分は軽く叩いているつもりでも相手にとって痛いと思わせるほど強く叩いてしまうなどのトラブルが起きる可能性があります。
前庭感覚
私たちは「前庭感覚」によって、耳石器と三半規管が受容器となって、揺れ、傾き、重力、スピードを感じています。
前庭感覚の役割は大きく分けて4つあり、
①姿勢とバランスの発達 (例:なわとびができる)
②眼球運動 (例:鬼ごっこをする)
③覚醒の調整 (例:ジェットコースターに乗って興奮する)
④自律神経系の調整 (例:車酔いを防ぐ)
があります。
前庭感覚と子どもの行動
前庭感覚は、加速、回転、傾き、高さ、重力などに対して身体のバランスを保つために大切です。例えば、動きながら物を見続けることができるのも、前庭感覚によるものです。子どもたちが遊んでいるときにボールを目で追いかけながら走ったり、教科書を読みながら音読したりすることにも関係しています。一方で、前庭感覚がまだ未発達の状態だと、トランポリンでジャンプしたときにうまく着地できなかったり、ブランコなどで身体が大きく揺れたりすることを極端に嫌がったりします。
感覚統合の具体的な活用方法
これまで説明した固有受容覚と前庭感覚などの感覚の統合がうまくいかないと、落ち着きが無かったり、発語の遅れおくれが見られたり、友達と上手く遊べなかったりと情緒面、言語面、対人面などでつまずくことがあります。
しかし、感覚統合が未熟な子どもたちが直面するつまずきに対して、様々な方法で支援することができます。
例えば、教科書の文字を意味で句切って読むことができない子どもには、行ごとに定規をあてたり、色を変えたりして指導することで視線があちこちに飛ばないように指導します。これを繰り返すことで上下・左右の眼球運動をコントロールできるようになります。
また片手で消しゴムを持ち、もう片方の手で紙を押さえて文字を消したり、アーチ状に浮いている定規を使ったりと、両手を使った動作がうまくできない子どもに対しては、押さえている感覚を強調する支援を行うことで改善することができます。
これらはあくまで一例で、それぞれの子どもにあった、感覚統合を成熟させるための支援を行うことが大切です。また高畑先生は研修にて、大人にとっては支援・指導でも、子どもたちにとっての遊びになるようにすることが大事であるとも仰っていました。子どもたちが支援を楽しみ、成功体験を積むことで、さらに別の支援にチャレンジして感覚統合を発達させていくことができます。
フェローの活用事例
最後に、3期の平山フェローの感覚統合の活用例をご紹介します。平山フェローは赴任後の研修で同じく高畑先生から感覚統合を学び、当時担任していたクラスで活用しました。
教育現場で感じた課題とは?
感覚統合を学ぶ前の平山フェローは、担任するクラスに授業中に立ち歩いてしまったり、うまく集中できなかったりする子どもが多くおり、どのように指導するべきか悩んでいたそうです。また上履きを脱いだり、かかとを踏んだりする子どもも多く、そういった行動をやめるように指導していました。しかし子どもたちの行動はなかなか変わらず、対応に苦慮していました。
実際にどう応用したのか?
感覚統合についての研修を受けて、平山フェローは子どもたちが立ち歩いたり集中できなかったりするのは感覚統合がうまくいっていないからではないかと考えました。
そこで、上履きを脱ぎたい人は「机の下できちんと並べる」という一定のルールを作り、自分の集中しやすい、落ち着く姿勢で学習して良いと伝えてみました。
すると子ども達の集中力が上がり、今まで授業中に席に座り続けることができなかった子どもが授業中に立ち歩かなくなりました。平山フェローは研修で学んだことを現場で応用したことで、傍から見ると変な体勢でもその子にとってはその姿勢が一番集中できるのだと身を持って知ったそうです。
平山フェローの実践例のように、子どもたちの行動を頭ごなしに否定するのではなく、その裏にある原因を考え、「気になる」行動が良くなっていくように様々な工夫をすることが大切です。
今回の地域研修を受けた6・7期のフェローも、あの生徒は感覚統合がうまく行っていないから「当たりまえ」の行動ができていなかったのではないかと考えたようで、現場で応用したいと張り切っていました。研修を生かした今後の更なる活躍を期待しています!
【参考】
感覚統合療法(Sensory Integration)|奈良県総合リハビリテーションセンター
1人ひとりの「感覚の特性」を考えよう!よく聞く感覚統合ってなに?|LITALICO発達ナビ
「感覚統合」とは? 発達障害との関係、家庭や学校でできる手助けまとめ|LITALICO発達ナビ
(編集後記:Teach For Japan)
今回の研修には6・7期生のフェローに加え、実際に学校現場で教員をされている方や保育士の方、教育系の民間企業でお仕事をされている方も参加してくださり、非常に活気のある研修になりました。「自分の当たり前は、他の人にとっての当たり前ではない。」というフェローの感想が特に印象に残っています。
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