「ここにいてもいい」が「どこでもやっていける自信」をつくる。新卒フェローが、心理学×教育実践に今度はオルタナティブスクールで取り組んでいる話。
- 修了生インタビュー
今回は、Teach For Japan(以下、TFJ)のフェローシップ・プログラムの第11期生で、現在はオルタナティブスクールの初等部でご活躍の山田菜央さんに登壇いただきました。赴任先の公立小学校では、大学で学んだ心理学を取り入れた教育実践により子どもが伸びる環境作りに注力されたそうです。新卒でTFJに参画した理由や公立校とオルタナティブスクールの違いなどを語っていただきました。ぜひ最後までご覧下さい。

山田菜央さん(フェロー第11期生/小学校赴任)
みんなで同じ時に同じことをする学校の文化に馴染めなかった子ども時代の経験から、教育学部に進学。アメリカ留学中に心理教育の必要性を実感し、子どもの過剰適応と心理教育プログラムの関係性について研究した。大学卒業後は、TFJフェロー第11期生として、千葉県の公立小学校に2年勤務し、存在承認をベースに子どもが伸びる環境作りに取り組んだ。海外一人旅期間を経て、現在はオルタナティブスクールHILLOCK初等部で勤務している。
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ー教師になった理由を教えてください。
私は昔から学校があまり好きではなく、息苦しさを感じていました。勉強ができる・できないなど、限定的なものさしで測られている感覚が苦手で、プレッシャーを感じていたからです。
高校生の時に、公立でも私立でもなく独自のカリキュラムで学ぶオルタナティブスクールという存在を知り興味を持ちました。「教育って本当にこのままでいいのだろうか?」という想いが強くなり、大学では教育を学び、教育に携わる仕事を志すようになったのです。
大学時代は独自の取り組みを行う学校をいろいろ見に行きました。国内だけでなく、アメリカ留学中にサドベリーバレースクールという先進的なオルタナティブスクールの見学もしました。留学は学部のカリキュラムの一環で、アメリカの学校を視察したり先生方と意見交換したりすることと、語学勉強がセットになったものです。

国内外のオルタナティブスクールを見学して、子どもたちがのびのびと学んでいる環境に好感を持ち、いつか働いてみたいと思いました。新卒で教師という職を選んだ理由は、多くの子どもたちが通う公立小学校の現状を当事者として見てみようと思ったからです。
アメリカ留学中に感じた心理学的アプローチの重要性
ーアメリカ留学で得た経験を教えてください。
心理学的アプローチの重要性を感じました。例えば、コミュニケーション能力は日本では気質の問題として語られがちですが、アメリカではスキルと捉えられており、誰でも伸ばせると考えられています。心理学的なアプローチを教育に取り入れていることに刺激を受けました。
留学で得た経験をもとに、帰国後は「子どもの過剰適応と心理教育プログラムの関係性」を研究しました。過剰適応とは、無理矢理にでも環境に適応しようとすることで、周囲の高い期待に応えようとする子どもに見られる状態です。行きすぎると自分の興味関心を見失ってしまう恐れがあります。このような子どもにスポットを当てて、過剰適応を軽減させるために心理教育プログラムが使えるのではないか、という研究に取り組みました。
情熱を持って活躍しているフェローに憧れた
ー新卒でフェローシップ・プログラムに参加した理由を教えてください。
大学生の時にキャンパスアンバサダー(TFJのインターンシップ・プログラム)に参加して、情熱を持って社会や学校で活躍されているフェローとお会いしたからです。特に印象的だったのは、自身の会社員時代の友人知人を100人集めて、学生と1on1したフェローです。そんな先生聞いたことない!と驚きました。私も魅力的で面白い方々とつながりながら、教師としてやってみたいと思いました。
ープログラムの赴任前研修の中で印象に残っていることはありますか。
最も記憶に残っているのは集合研修での模擬授業です。現役教師や教師経験者に模擬授業した後、児童との関係性や起こりうる困りごとをフィードバックいただきました。現場を経験された方からの意見は大きな学びとなりました。
また、途中で何度も自分の教育ビジョンを問い返す機会があったことも印象に残っています。他の参加者の教育ビジョンを聞いて意見交換したことも刺激的でした。
低学年でも1年間で感情のコントロールができるように
ー赴任先で取り組んだことを教えてください。
赴任先は千葉県の公立小学校です。1学年に4、5クラスある大規模校で、大変な家庭が多い地域でした。初年度は2年生、2年目は1年生の担任を行いました。
初年度はとにかくやることが多くて、「この作業は何につながっているのだろう?」と考える日々でしたね。名簿を何種類も作ったり授業の準備をしたりと慌ただしく4月は過ぎ去りました。その中でも意識したのは、子ども同士をつなげることです。レクリエーションをたくさんやったり、クラスの問題を話し合ったりしました。
1年目に困ったのは、自分が子どもたちに対して許せないラインがわからなかったことです。これは注意した方がいいのか?と悩む場面が多くありました。一度流してしまうと、「この先生はこれは許すんだ」と子どもたちが認識し、段々エスカレートする場合もあるので、線引きが一番大変でした。
子どもたちのやりたいことを応援したい、自分たちで考えて行動してほしいけれど、教師として抑えなければいけない、言わなければいけないラインはどこなのか?そこを探っていくことに苦労しました。
「先生が言うからやる」という状況は避けたかったのですが、この思いに囚われすぎると自分が苦しくなってしまったので、一般論ではなく私個人の感想として、言われて嫌なこと、されて嫌なことは伝えていけるようになったのは2学期頃からです。
ー印象的だった子どもたちとのエピソードを教えてください。
子どもたちと接する中で意識していたのは、感情のコントロールです。低学年では怒ると物を投げたり友達をぶったりする生徒がいます。そういった場面では、まず「怒りの気持ち」という感情を理解することを伝え、次にその感情をコントロールする方法を地道に行いました。
大学で勉強したSEL(Social and Emotional Learning)の事例を元に、他人の気持ちを理解したり対処法を出し合ったりする実践的な手法を考え、2つのアプローチを行うことにしました。
1つ目は、クラス全体へ向けたアプローチで、感情の可視化とコントロールのアイデア募集です。例えば、「列に並んでいたとき友達に抜かされたらどう感じる?」というお題を出して、児童ひとりひとりに温度計で怒り度合いを表示してもらいました。同じ事象でも人によって感じ方が違うと知ってもらうために可視化したのです。次に、「怒りが爆発しそうなときみんなだったらどうする?」というアイデアを書いてもらい教室に貼り出しました。

2つ目は、個別に行ったアプローチで、チェックインチェックアウトです。対象の子どもと毎朝その日の目標を確認します。すぐに怒ってしまう児童に対しては「イライラしたら先生に言いに行く」という目標を設定し、「怒らない」という否定的なものではなく、肯定的な目標を設定するようにしました。そして、目標が達成できたらはなまるを書いたカードを渡し、帰りにその日達成できた目標を一緒に確認します。とくに頑張ったことがあれば児童に聞き、連絡帳で親御さんにも伝えました。
1年後には、自分の気持ちをコントロールできる生徒が増えたと感じています。
ー2年目、1年生の担任は大変でしたか。
1年生は言葉だけでは伝わらないことが多く大変でした。
トラブルが起きたとき当事者の児童同士で話し合いをさせようとしても、起こったことを子どもが言葉で説明するのが難しかったり、私の話が伝わっていなかったりすることが多く戸惑いました。
入学して間もない1年生の1学期は特に話が通じなかったので、マンガのように絵や吹き出しを書いて、起こったことを理解してもらえるようなコミュニケーションを試みました。状況が視覚的に思い出されることで話が噛み合い、非常に効果的でした。これは「コミック会話」というテクニックなのですが、1年目に同僚の先生からこの手法を聞き、そういえば大学でも勉強したなと思い出して実践してみたのです。
日々多忙の中で児童と接する時間を捻出するため、授業の進め方は周りの先生を積極的に頼りました。ひとりで悶々と悩まず、うまくいかなかったときの対処法や使える教材を聞いて自分なりに時短しました。
「ありたい自分でいることを応援し合える」教育環境を作りたい
私の教育ビジョンは「ありたい自分でいることを応援し合える」です。学校を窮屈に感じてほしくないという想いから生まれたビジョンです。
やりたいことをやる、というのは簡単そうに聞こえますが、集団生活の中では難しい場面が出てきてしまいます。自分1人で達成するのではなく、他者のやりたいことも尊重しながら達成することを理想としています。
ー山田さんの教育ビジョンを1年生で実現できたエピソードはありますか。
1年生の後半から始めたプロジェクト活動でしょうか。
これはクラス内の係活動です。一般的な係活動は、あらかじめ決まっている係(黒板係など)を児童に振り分ける形ですが、私のクラスでは生徒自身がやりたいことをプロジェクト化して立ち上げ、仲間を募り活動する形をとりました。読み聞かせ係や友達の良いところを発表する係など、大人では考えつかないような係がたくさん生まれました。
自分のアイデアを提案し形にする(=なりたい自分)、係活動なので周りと関わる(=応援し合える)という流れを作れば、私のビジョンは1年生でも実現できるだろうと思っていましたが、どう転ぶか予想がつかなかったので面白いなと思いました。
ーフェローシップ・プログラムで得たものはなんですか。
失敗に対して前向きになる気持ちです。
大学で学んでいたものの、現場では太刀打ちできない場面が多く落ち込むこともありました。しかし、やってみないとわからないことの方が多いし、失敗から学ぶという視点を持てば、早いうちから失敗した方が良いと思えるようになりました。
自転車の乗り方を頭で理解するのと、実際にペダルを漕いで自転車に乗る練習をするのは全く別物ですよね。自分のマインドを変えてくれたことが一番大きい変化だと思います。
赴任先の小学校で、経験豊富なベテラン教師が悩み試行錯誤している姿を間近で見たことも大きいです。新人の私が悩んでいてもしょうがない、やってみないとわからないと強く感じました。
また、落ち込んだ気持ちを引きずらないために、学校のことを考えない時間を意識的に作るようにしていました。校門を出たら学校のことを一切考えない、シチュエーションに応じてスイッチを切り替えるマインドを意識しました。
児童の伴走者として学びを支援する
ー現在の活動内容を教えてください。
2年間のフェローシップ・プログラムを終え、この5月からオルタナティブスクールのHILLOCKで働くことになりました。新卒1年目に訪問する機会があり、子どもたちが自分で考えながら毎日を過ごしている様子や、一緒に過ごすシェルパ(スタッフ)との空気感が自然体でいいなと思いました。

HILLOCKへの転職を検討する一方で、実は教育業界から離れる選択も考えていました。理由は、世界を自分の目で見てみたいという気持ちがあったからです。HILLOCKか旅、どちらにしようか悩んでいたら、HILLOCKの方が「まずは旅をして、それからHILLOCKに来たらいいよ」と言ってくださったのです。どちらかを選ばなければと思い込んでいたのに、まさか両方叶うなんて。1ヶ月ほどヨーロッパを転々として遺跡などを見てまわりました。
オルタナティブスクールでは、「大人と子どもは対等な存在である」という意識が強いです。働くスタッフのことをシェルパと呼ぶのですが、これはヒマラヤ登山の山岳ガイドから由来した言葉です。先生と生徒という関係ではなく、伴走者というイメージが近いですね。学習者の伴走者として学びを支援する関係性が良いなと思いました。
ーオルタナティブスクールの特徴的な取り組みはなんですか。
HILLOCKでは、朝と帰りに「サークルタイム」を行います。これは、全員が輪になって自分の気持ちをクラスメイトに伝える時間です。困っていることやみんなに話したいことを共有します。オルタナティブスクールでは、子どもたちが主体となりスクールを作っているという前提があるので、日常的に意見を出し合える環境を大切にしています。
自分の気持ちをタブレットに書いてみんなと共有する「朝ノート」という取り組みがあるのですが、やや形骸化していると感じたので、新しいフォーマットを提案して、子どもたちがより気持ちを伝えやすいように改善しました。HILLOCKはSELを取り入れている学校ですが、改善提案に前向きな体制も特徴的だと思います。
ー今後の展望を教えてください。
これまで取り組んできたSELや心理プログラムをブラッシュアップし、他の学校へ広めていける立場になっていきたいです。心理学的なアプローチを教育に取り入れてみたいが、手を出せていないという学校が公立・私立・オルタナティブ問わずあると聞くので、そういったニーズに対応できたらいいなと思います。
Q&A
Q:山田さんの前向きなエネルギーはどこからくるの?
A:エネルギーの高い人や憧れの人の近くに行くことでしょうか。私にとってはTFJの方や大学の恩師などです。家から一歩も出たくない…と落ち込むときもありますが、あの人と話したい・会いたいくらいにハードルを下げて、まずは行ってみるというアクションが大事かなと思います。会うからには何か学ばなければいけない、とハードルを上げるのではなく、小さくても行動を起こすことを意識的に実践しています。
ー最後にメッセージをお願いします。
教育は、みなさんそれぞれの経験があるからこそ様々な形で語られる分野です。しかし、現場に入らないとわからないことがたくさんあります。そして、どの現場に行っても、昔の自分を見ているようだなと感じる子が必ずいます。そのような子どもたちの助けになれると強く感じるので、フェローシップ・プログラムに参加し活躍いただけたら嬉しいです。
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