フェロー×保護者 登壇イベント!保護者視点でみる“教師” ~教師と保護者が語る“あの時間”のこと~
- 修了生インタビュー
今回は、Teach For Japan(以下、TFJ)のフェローシップ・プログラムの第9期生で現在は民間企業でご活躍の長崎裕也さん、小学校教員時代の教え子の保護者である平原恭子さんに登壇いただき、今だから言える当時の想いや現在への影響について語っていただきました。ぜひ最後までご覧下さい。

長崎裕也さん(フェロー第9期生)
教員養成大学にて化学を専攻。在学中はNPOでの子どもの居場所支援や海外での教育実習を経験した。卒業後、Trach For Japanフェロー第9期生として、福岡県の公立小学校へ赴任。自由進度学習や学校の居心地改善などに取り組んだ。現在は民間企業であるCAN!Pにて、放課後の研究学習スクールとオルタナティブスクールの運営に取り組んでいる。

平原 恭子さん
長崎さんが担任をしたお子さんの保護者の方
▼YouTubeにて動画でもご視聴いただけます!
「全ての子どもたちと共にこころを動かす」をビジョンに取り組んだ担任時代
長崎さん:長崎と申します。私は大学を卒業したタイミングでTFJ第9期生のフェローとして教員になり、3年間福岡県の公立小学校で教員として働いていました。その際のビジョンは「全ての子どもたちと共に心を動かす」というものです。「全ての子どもたちが、学校で人生の選択肢を少しでも広げられるような、そんな心が動く瞬間を作っていきたい」そんな思いでTFJに参画して子どもたちと関わってきました。本日はいくつかの取り組みをご紹介します。
一つ目は、プロジェクトを中心に自分たちで試行錯誤をしたり、目標達成に向けて進めていくという授業の形態である「PBL(Project Based Learning)」です。例えば、生活科の授業で「冬の遊びを考える」というPBLで水を凍らせたのですが、子どもたちの発案で色水でやってみた時に、凍らせる前は均一だった色水が凍らせたら真ん中にだけ色が付いたんです。驚くと共に、心が動いた瞬間でした。そういった気づきや本人の心の動きをとても大切に取り組んできました。

「自由進度学習」では、主に算数の授業の中で、苦手な子は苦手なところがじっくりと、どんどん進めたい子は自分のレベルにあったものを、面白いと思いながら取り組めるように進度をばらしながら、それぞれのペースで進める学習に取り組みました。
「総合的な学習」では地域連携という観点で、校区内の商店街と連携して商店街について調べたり、学びの成果のアウトプットを商店街のイベントでさせていただくといった取り組みを行いました。
「子どもたちの心を動かす」という観点からは少し離れますが、学校は勉強をしたり挑戦したり、緊張する場になりがちです。そこを少しでも安心して過ごせる場にするため、「学校の居心地を良くするプロジェクト」に取り組みました。例えば、図書室にYogiboを置いて、友だちと体を寄せ合って寝っ転がり息抜きができる場をつくりました。
元担任×保護者トークセッション ー今だから言える想い
ここからは、公立学校での担任時代に保護者として長崎さんと関わってきた平原恭子さんにご登場いただきます。
お二人には、お互いの第一印象やいまも覚えているエピソード、当時のことをきっかけにいまにつながる変化や影響についてお話を伺いました。またセッションの終盤には教師を目指す人への期待・メッセージを頂きました。
Q:お二人の関わりについて教えてください。
平原さん:私は4人子どもがいますが、3番目の子が1年生と3年生の時の担任の先生でした。2021年、コロナ禍の色々と情勢が変化する中、また1年生でなにもかもが初めての中で担任をしていただきました。その子も今は5年生になりました。
Q:長崎さんの第一印象について教えてください。
平原さん:入学の式典がなくなったので、学級で初めてお会いしました。若くてフレッシュで前のめりで明るくやる気のある先生、すごく前向きで子どもたち一人一人に向き合っている先生だなというイメージでした。私自身は若い先生に抵抗がなく、やる気に満ち溢れた先生をポジティブにとらえていましたが、他の保護者の方からは「若い先生で大丈夫かしら」といった反応はありました。
Q:長崎さんに伺います。式典もなく子どもたちと保護者の方に教室で初対面する際、どのようなことを考えていたのでしょうか?
長崎さん:めちゃくちゃ緊張していました。新卒だということを心配される方もいらっしゃるというのは想像していました。信頼感を持ってもらえるようにということを意識して、できるかぎりの準備をして臨んだことを覚えています。
Q:平原さんの印象はいかがでしたか?
長崎さん:たくさんの保護者の方がいらっしゃる中なので、具体的なエピソードはないのですが、明るい方だなという印象はありました。もちろん、先に保護者ではなくお子さんを知るのですが、お子さんからイメージしていたお母さんとは少し違うなと感じました。
Q:平原さんに伺います。長崎さんが担任をされていた2年間の中で、印象的だったエピソードを教えてください。
平原さん:息子は学校での出来事をたくさん話してくれました。その中でも一番覚えているのが、1年生の時の生活科の「硬いものと柔らかいものの触感を試してみよう」という授業についてです。授業の中で息子が「フェンスは硬いのか柔らかいのか」という疑問を出したときに、先生が「外に行って触ってきていいよ」と許可をしてくださったそうです。それがとても印象に残っています。
Q:それを聞いた時、どのように感じましたか?
平原さん:本当に感謝ですね。子どもが「どうなんだろう」と興味を持ったことに対して真直ぐに向き合って「やってみていいよ」と背中を押してくださった、そのような経験をさせて下さったことには感謝しかありません。授業中に教室から出て確認することを許可してくださったことにも驚きました。
Q:長崎さんは当時どのような想いで関わっていたのですか?
長崎さん:実をいうと、エピソードとしては覚えていないんです。その子の気持ちを大切にするというのもありますが、私自身も子どもたちの発想がおもしろくてそのような関わり方をしたのだと思います。特別なことをしたという意識はないのですが、それに対して感謝してもらえていたことが、すごくありがたく思います。
Q:1年生の児童に授業中に教室から出ることを許可することに対しては、どのようにお考えでしたか?
長崎さん:全体の統制がとれなくなってしまうのではないかという心配はありましたが、それはそこまで大きな問題ではないと思っていました。もちろん怪我などには気を付ける必要はありますが、校内であればそこまで危険はないと思います。それ以上に、子どもたちにとっての経験になるのであれば、応援してあげたいなと思っていました。
Q:平原さんに伺います。他にも、何か印象に残っていることがあれば教えてください。
平原さん:校外学習がたくさんありました。私自身が商店街で自営業をしているので、「息子からも今日お店の前通るからね」「商店街のお店に行くよ」というのをよく聞いていました。同じ学校内で比べても、息子が3年生の時が一番多かったです。

Q:長崎さんは、校外学習を意図的に行っていたのでしょうか?
長崎さん:はい、意識はしていましたが、3年生は学習の中で商店街とのつながりをテーマに取り組みやすい学年でもありました。それに加えて、商店街や保護者の方に協力していただける方が本当に多かったので、保護者の方からご紹介いただいたり、私自身が商店街に行って直接お話をするなど、皆さんにお願いしながら積極的に外に行っていました。

Q:保護者の方とは、どのようにコミュニケーションをしていたのですか?
平原さん:元々保護者とのつながりは多い学校でした。学校と商店街が近いので、商店街で働いている方がついでに学校にボランティアに来ていただけることもあります。また、親子代々通っている方もいて、学校開放日には児童だけでなく保護者や近所の方も集まる環境で、先生との距離感はとても近かったです。
長崎さん:私は初めての学校だったこと、自分の時代とは違うので比較はできなかったのですが、距離感の近さは感じていました。平原さんとは、読み聞かせボランティアのときにお話していました。
Q:息子さん個人に関して、先生と連携したことはありますか?
平原さん:息子はとにかく面倒くさがりで、私からではなかなか聞いてくれないところを、先生と連携していました。親が言うと反発してしまう部分をうまく伝えてくれていたと思います。
Q:保護者の視点から、今だから言える不安や困ったことはありましたか?
平原さん:長崎先生に担任をしていただいた学年はとても賑やかで、「みんな席について勉強できているのかな?」という不安はありました。ただ、やりたいことができている充実感はそれぞれあったからか、5年生になった今はかなり落ち着いた学年になりました。
Q:長崎さんに伺います。今だからこそ感じる「もっとこうすればよかった」ということはありますか?
長崎さん:今となって思うと、もっと自分にできることがあったのではないかと思うことがたくさんあります。当時は、「目の前のことを解決する」という視点でしたが、今考えるともっと根本的なところから考えればよかったなと思いますね。
例えば、平原さんの息子さんのケースでは、宿題をやってこなかったときに、何とか「やらせよう」という思考でした。そうではなく、「どこで困っているんだろう」「できるようになりたいと思っているのなら何が壁になっているんだろう」というところに思いをはせてあげていたら、できるサポートや関わり方も変わっていたと思います。
平原さん:先生は本当に、どのような方法が息子にあっているのか、何をすればできるようになるのかを、たくさん試してくださいました。5年生になった今でもできないこともありますが、「なぜできなかったのか?」「次はどうすればいいのか?」を、しっかりと考えられるようになったと思います。
Q:長崎さんに伺います。教師としての3年間の経験の中で、今のキャリアに影響を与えているもの、今でも大切にしているものはありますか?
長崎さん:保護者や地域の方との連携や深いつながりです。現在は、教育には携わっていますがビジネスということもあり、学校で教員をしていた時ほどの連携感がありません。ですが、今でも教員をしていた時に体験した連携感は大切だと思っています。だからこそ、ビジネスではありますが地域に開いていきたいと思っています。
Q:平原さんに伺います。長崎さんが担任の時に受けた影響はありますか?
平原さん:第一子の時は、正しいカリキュラムやいわゆる学習だけを気にしていました。長崎先生と関わることで、社会性やこころの問題、人間としての豊かさの大切さに気付くことができました。
Q:最後に、教職を目指している方、先生になりたい方へのメッセージをお願いします。
平原さん:先生が不足している時代です。保護者に対してマイナスイメージを持たれがちで、教員になりたい方への妨げにもなっているのかもしれません。ですが、ほとんどの保護者が一生懸命な先生のことは理解しています。これから先生になる方には、世間のマイナスイメージにとらわれず、保護者とのつながりにも積極的に取り組んでいただきたいです。夢を持って、かわいい子どもたちがたくさん待っている教育現場を目指し、教師不足の現場を助けてください。
長崎さん:保護者の皆さんの根本には子どもに対する想いがあり、学校と関わってくださっています。このように自分が学校を去った後もこのように協力をしてくださって、子どもたちも久しぶりに会ったら声をかけてくれ、仕事としても教員人生としても、とても豊かなつながりができたと思います。もちろん大変なこともありますが、その大変さに見合うくらい素敵なものが得られる楽しい仕事です。他の仕事ではなかなか味わえない濃いつながりにどっぷりつかってください。ぜひ一歩踏み出して飛び込んでいただけると嬉しいです。一緒に頑張りましょう。
まとめ
TFJのフェローシップ・プログラムで教員としての経験を積み、現在は民間企業から教育に携わる長崎さん、そして保護者の平原さんに話を伺いました。教師をしていた時のつながりや経験が今の仕事に生かされていること、そして今でもそのつながりを大切にされていることが、とても素敵だなと感じました。教育を通じて、子どもたちだけでなく、教師や保護者も盛況しているのだなということに感銘を受けました。
これからの長崎さんのチャレンジ、そして平原親子の成長も楽しみになる、そんなお話でした。
長崎さん、平原さん、ありがとうございました。
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