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修了生インタビュー aluminiinterview

子どもの可能性を信じる。信頼と安心をベースとした教室を目指して

フェロー第11期生の下境 大貴(しもさかい たいき)さんをご紹介します。下境さんは、学習塾でのご経験の中で教員になることを決意し、フェローシップ・プログラムに参加されました。

今回は、下境さんがフェローシップ・プログラムに応募された経緯や、実際に学校現場に赴任されてからの取り組み、そして今後の展望などについてお聞きしました。また、赴任校の関口校長先生にも、下境さんの取り組みやフェローシップ・プログラムについて感じられていることをお話しいただきました。

教育に関わるお仕事をされている方や、免許は持っていないけれど教員になることに関心のある方には、特に参考にしていただきたい内容となっています。ぜひ最後までご覧ください。

Q. フェローシップ・プログラムに応募した経緯を教えてください。

私はもともと小さな学習塾から教育の世界に入りました。テストの点数を上げることが最終ゴールとなっているような環境において、子供達の潜在能力の多くの部分が閉ざされていると感じるようになりました。人間の能力は、いくつかの限られた指標で決められるものではなく、もっと千差万別で複雑なものです。人は環境によって大きく変わり、適切な環境下では、自分さえも想像しなかった様々な能力や可能性を開花させることができるはずだと考えるようになりました。
そんな時、Teach For Japanの活動を知りました。Teach For Japanには様々な経験をもったフェローが参画しています。そのような仲間との交流や対話を通じて知見を得ることで、今現場で活躍されている先生方と少し違った視点から子どもたちと向き合うことができるのではないかと思い、フェローシップ・プログラムへの応募を決意しました。

Q. 赴任前研修を通して、感じたことや成長したことを教えてください。

対話を重視するTFJの研修の中でも、特に学習科学に基づく授業デザインに関する研修が、私にとって大きな学びとなりました。この研修では、人がどのように学ぶのかを科学的に捉えるために、認知科学や発達心理学の研究を用い、授業づくりに生かす方法を学びました。それまで私は、子どもたちの成長を自分の勘や経験のみに頼って判断することが多くありました。しかし、この研修を通じて、子どもたちを客観的に捉え、発達段階を踏まえて根拠に基づいた授業設計をすることの重要性を実感しました。
また、授業内でグループワークやアクティビティをただ取り入れるのではなく、活動の中で子ども同士でどのような学びが生まれているのかを観察し、評価する視点をもつようになりました。
そして、教師の役割についても考えが変わりました。教師の役割は「わかりやすく教える」ことではなく、子どもが主体的に学びを深められる「学習環境をつくること」なのだと強く感じました。この研修での経験が、私の教育観に大きな変化をもたらしました。

Q. 実際に赴任をしてみて、どのように感じましたか?

赴任して1年目は小学3年生を担任しました。まず感じたのは、子どもたちが想像以上に主体的であるということでした。教師が細かく指示を出さなくても、信頼と安心がある環境をつくるだけで、子どもたちは、自ら学び、行動することができるのだと実感しました。
例えば、理科の授業で昆虫について学習した時、子どもたちは日常的に出会う昆虫に関して学習以前から興味津々でした。好奇心を損なわせず、学習の方向性を的確に示すだけで、調べたいテーマを自分で設定し、確かめる方法を考え、結果をまとめるという一連のプロセスを、すべて子どもたちだけでやり遂げることができていました。
2年目はそのまま持ち上がりで4年生を担任しました。学年末に1年間の集大成として授業参観で披露する演劇を、4年生の子どもたちがゼロから作り上げるという経験がありました。物語の脚本作り、役割分担、小道具制作、練習スケジュールの調整まで、全て教師の手を借りずに完成させました。その過程で、子どもたちは意見の違いを乗り越えながら、協力して創り上げる力を発揮しており、とても印象的でした。

Q. 特に力を入れた取り組みや意識していたことはどんなことですか? 

私が最も力を入れたのは、学級経営です。学級経営は学習環境構築そのものだと感じていたためです。特に大切にしたのは、信頼と安心をベースとした教室を築くことです。子どもたちが自分の意見を安心して表現し、互いの考えを尊重し合える環境をつくることが、学びの質を大きく左右すると考えました。そこで私は、子どもたちが互いに本音で話し合い、共に解決策を生み出す場を意図的に数多く設けました。学級会のような正式な話し合いの場はもちろん、給食の時間、掃除の時間など、生活の中でちょっとした違和感や困りごとを感じた子どもがいれば、すぐに立ち止まり、みんなで集まって考える機会を設けました。「誰か見過ごされてはいないか」「本当にみんなが納得しているか」を、子どもたち自身が意識するよう支援しました。それにより、子どもたちが「どんな意見も大切にされる」「自分たちの力でクラスを変えていける」という実感を積み重ねることができたと思います。
最終的には、教師が場を設定しなくても、子どもたち自身が「ちょっと一回集まって!話し合って決めよう!」と対話の場を設け、自分たちで解決する姿が多く見られるようになり、心から感動しました。こうして、教室は単なる「授業を受ける場」ではなく、子どもたちが「安心して自分を表現し、互いに学び合い高め合う、小さな社会」へと変わっていきました。

Q. 苦労されたこと、大変だったことはどんなことですか?

正直なところ、苦労と思うことはあまりありませんでした。客観的に見れば毎日が嵐のようにあっという間に過ぎ去っていった日々だったかもしれませんが、それを「大変」と感じることは少なかったです。
ただ、授業の質を上げること、そして子どもたちが夢中になれる授業をつくることは、想像以上に難しいと感じました。知識を伝えるのではなく、子どもたちが主体的に関わり、「もっと知りたい」「もっと考えたい」と思える仕掛けのある授業をつくることは簡単ではありませんでした。特に、発達段階を踏まえながら、全員が興味を持ち、自分ごととして学びに向かえる環境をつくることには試行錯誤を重ねました。

Q. それらをどのように乗り越えられましたか?

私は、子どもたちと一緒に授業をつくることにしました。単元ごとに子どもたちの実態を把握し、彼らの興味や疑問を授業に反映させるようにしました。また、時にはアンケートを活用し、子どもたちの主観的な感じ方も把握しながら授業改善を行いました。「子どもが受ける授業」ではなく、「子どもが創る授業」にすることで、彼らの主体性を引き出し、学びへの意欲を高めることができました。このアプローチによって、子どもたちは学習に積極的に関わるようになり、授業自体もより豊かになっていきました。
子どもは、私達が思う以上に、学ぶという行為についてしっかりと意見をもち、深く考えているので、どちらかというと教師である私の側が助けてもらっていたと思います。まだまだ不十分だからこそ、授業を改善し続けていくことは非常に面白いと感じます。

Q. 修了後のキャリアについて教えてください。 

イギリスの大学院の修士課程に進学し、学習環境が子どもに与える影響を深く研究したいと考えています。これまでの経験を理論と結び付け、どのような環境が学習者に最も効果的な影響を与えるのかを理論的に掘り下げ、次世代の教育システムの構築に貢献したいです。これは、Teach For Japanのテーマの一つでもある「学び続ける教師像」に基づき、教師である私自身も同時に学ぶ存在であると認識し、常に成長し続けることを目指すことにもつながります。教師が学び続けることで、子どもたちと共によりよい学びを作り出す原動力となると考えます。研究で得た知見は、将来必ず学校現場に還元していきたいと考えていますし、少しでも子どもたちの幸せにつながるような教育の在り方を日々試行錯誤し続ける教師でありたいと思います。

【赴任校の関口校長先生】

Q. 下境さんの第一印象を教えてください。

下境さんの第一印象は、非常に親しみやすく、情熱的であるというものでした。職員との仲の良さが随所に見られ、周囲との円滑な関係を築いている様子から、周囲との協力的な姿勢が感じられました。特に対話がしっかりできる点では、相手の意図を正確に理解し、自分の意思を分かりやすく伝える力をもっていると感じました。

また、AET(外国語指導助手:アメリカ人)と英語で話すことができ、職員とAETの橋渡し役を担っていたことで、語学力に優れ、異文化間で円滑なコミュニケーションを図る能力が高いことが分かりました。

さらに、話をしていると、教育に対する熱い思いがあることが伝わってくるため、教育現場での貢献への情熱や、子供たちに対する深い愛情と責任感を感じさせました。

下境さんは、単に職務をこなすだけでなく、児童一人一人の成長に真剣に向き合っている印象を与え、周囲の人々にも良い影響を与えていると感じました。

Q. 下境さんの取り組みや子どもたちとの関わりを見られて、どのように感じられていますか?

下境さんは、子どもたちと真摯に向き合い、その成長を心から支えたいという強い思いをもっていると感じています。まず第一に「子どもの人権を大切にする」ことを徹底しており、子どもたち一人一人が自分の意見を尊重され、安心して学べる環境づくりに尽力しています。その姿勢は、子どもたちが自分を大切にし、自己肯定感を育むことに繋がっています。

また、「子どもの可能性を信じている」ため、どんな小さな成果にも積極的に称賛し、挑戦を続けられるようにサポートしています。困難に直面しても諦めずに前進する力を子どもたちに与え、その成長を見守ることに喜びを感じています。

さらに、「子どもの個性を大切にしている」という点においても、個別のニーズに配慮し、異なるペースで学ぶ子どもたちが自分らしさを発揮できるような支援に徹しています。子ども一人一人の特性を理解し、それに応じた支援を提供することで、学びの楽しさを引き出し、無理なく成長を促しています。

下境さんは、子どもたちの未来を真剣に考え、その可能性を最大限に引き出すために努力し続ける人だと感じています。

Q. フェローシップ・プログラムに対して感じていることや期待などがあれば教えてください。

フェローシップ・プログラムに対して、私は非常に大きな共感と期待を抱いています。このプログラムは、教育の現場で直面する課題に正面から向き合い、子どもたちの未来を切り開く力となる素晴らしい取組だと感じています。特に「単に知識を教えるだけでなく、子どもたち一人一人の個性や背景に配慮した支援を行うことに重きを置いている」アプローチに共感しています。

また、子どもたちが、フェローを通して多様な価値観や生き方に触れることができることは、フェローとしての成長だけでなく、子どもたちにも社会全体にもポジティブな変化をもたらす力をもつと感じています。

私がこのプログラムに期待することは、フェローが教育の現場で実践的な経験を積むことで、子どもたちに寄り添いながら彼らの可能性を引き出す力を養うことです。そして、プログラム終了後にも、その経験を活かして社会全体に貢献できるような意識をもち続け、教育の未来をより良いものにしていければと思っています。

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