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修了生インタビュー aluminiinterview

一人ひとりの良さを繋ぎ合わせ、現場から未来を創る。

フェロー第10期生の岡田 花香(おかだ はなか)さんをご紹介します。岡田さんは、戦略コンサルタントとして教育業界に関わっていたご経験から教員になることを決意し、フェローシップ・プログラムに参加されました。

今回は、岡田さんがフェローシップ・プログラムに応募された経緯や、実際に学校現場に赴任されてからの取り組み、そして今後の展望などについてお聞きしました。

教員免許は持っているけれど現在は違うお仕事をされている方、学校に関わらず組織マネジメントに関心のある方には、特に参考にしていただきたい内容となっています。ぜひ最後までご覧ください。

応募した理由・動機

「自分の目で教育現場を見てみたい」
この気持ちが、私が教員に転職しようと決意した一番の理由です。
以前は戦略コンサルタントとして、私立・国公立大学や大手学習塾をはじめとする教育業界のクライアントをメインに、経営戦略策定や新規事業立案のサポートを行っていました。高校時代から教育の政策や仕組みづくりに関わりたいと考えていた私にとって、コンサルタントとして教育業界に関わることはとても面白く、やりがいを感じることができる職業でした。一方で、戦略が現場の変化にどう繋がるかまで見届けられないという職務上の限界があり、自分たちが描いた未来が子どもや学生にとって本当に価値のあるものだったのかを実感することができず、不安がふと頭をよぎることがあったのも事実です。

コロナの蔓延で働き方が大きく変化した時期に、自分の今後のキャリアを考えるようになりました。様々な人から発せられることばや表情から読み取れる感情に触れながら、仲間と共に価値のあるものを創っていくことに幸せを感じる私には、リモートワークの拡大により机上作業が中心となった環境に居心地が悪くなったのかもしれません。今後もコンサルタントとして教育業界に関わり続けたいのか?ふと頭によぎる「自分は教育現場の人のためになる仕事ができているのか?」というモヤモヤに対する答えはどうしたら見つけられるのだろうか?このような疑問が頭から離れなくなり、まずは自分の目で教育現場を見ることが必要だと思う気持ちが次第に強くなっていきました。大きなキャリアチェンジに相当悩みましたが、最終的には「一度きりの人生。ワクワクする方に進んでみよう」と一念発起。教育現場の最前線で日々子どもたちと関わっている大人が何に悩み、どんな想いを大切にしているのかを知るために、教員になる決意をしました。

教員になろうと決意した後、どのような形で教員になるかを調べ始めました。私は大学で教員免許を取得していたため、教員採用試験を受けたり、臨時的任用職員のポストを探したりすることで教員になることができましたが、私が選んだのはTeach For Japan(TFJ)のフェローシップ・プログラムでした。TFJのフェローシップ・プログラムの魅力は、何といっても赴任前研修です。単なる知識提供型の研修ではなく、他の受講者と対話をしながら学びを深められる質の高い研修内容となっています。特に私が好きだった研修は「ビジョンづくり」です。教員として働く理由や現場で実現したいことについて、仲間と対話を重ねながら自分のビジョンを言語化する研修でした。この「ビジョンづくり」研修や教育現場での経験を経て、私の今のビジョンは「一人ひとりの良さを繋ぎ合わせることができる環境・社会をつくる」になりました。このビジョンを自分のキャリアの軸にしながら、現在も教員として働いています。

赴任してみて感じたこと(課題)

私が学校現場を見て驚いたことは、教員の「個の力」と「チームの力」の強さとそのバランスです。コンサルタントという職業は、チームで同じゴールを見据え、チームメンバーのスキルや経験を踏まえて分業していくのが基本のワークスタイルです。他方、教員は分野(教科)が異なるものは教員一人ひとりの裁量が大きく、学校全体で進める行事や生徒対応についてはチームで力を合わせて推進します。「個の力」と「チームの力」を臨機応変に使い分けたり相互作用させたりする点が教員という職業の特徴であり面白い部分だと感じています。

一方で、「学校全体で共通のゴールを立て、ゴールから逆算して具体施策を進め、成果を検証する」ということをもっと意識すれば、さらに良い活動につながるのではないかと思う場面もありました。各学校には「学校教育目標」という学校や地域の実情を踏まえて設定されるゴールが存在しますが、残念ながら日々の生活の中で意識されていないケースが多い印象があります。また、「なんとなく良い目標である気はするものの、目標からイメージする具体的な子どもの姿や教育活動の内容は一人ひとり違う」というケースも多いと感じます。最上位目標の具体イメージがすり合わさっていないために、学校全体のカリキュラムマネジメントが推進されづらい現状があるのではないかと考えました。

個々の良さが光り、チーム力も既に備わっている職場に、みんなが具体的に目指せる「共通のゴール」が存在していたらどんなに力強い職場になるのだろう?さらにその先には、どんな素敵な子どもが育つのだろう?ワクワクする気持ちと共に、この問いにチャレンジしてみることにしました。

教員1年目に職員会議で提示した資料。ここからすべての取り組みが始まりました。

それを踏まえての取り組み

チャレンジを進める上で最初の壁は、「同じ思いを持つ仲間と繋がる」ことでした。まずはキーパーソンとなる学校研究主任に相談し、今回のチャレンジに取り組むことで得られるメリットや世界観を繰り返し伝えました。時には意見の食い違いからプチ喧嘩をすることもありましたが、時間をかけてお互いの意見を共有し合うことで、少しずつ前向きな意識が醸成されていきました。話し合いを重ねていく中で、学校研究主任と私は、「『生徒』を主語に人々の思いを繋ぎ合わせることが、このチャレンジのカギになる」と考えるようになりました。そこでまずは、学校教育目標を起点に「卒業時にどんな生徒に育っていてほしいか」を教員同士で語り合うワークショップを開催することにしました。教育現場の最前線に立つ教員たちが意見を共有し合うことで力強い言葉が紡ぎ出され、最終的には具体的な共通ゴールとして、「生徒のめざす姿(以下、『めざす姿』)」が創り上げられました。現在は、この「めざす姿」を軸とした教育活動を広げるための取り組みを進めています。

令和6年度時点の本校の「学校教育目標」と「生徒のめざす姿」

昨年度(令和5年度)は、教員自身の「自分ごと化」を目指して、学校内の教員に「めざす姿」の意義や内容を浸透させることに注力しました。特に教員に好評だったのが、「My Story」という教員のインタビュー記事の発行です。各教員のこれまでの人生と「めざす姿」を照らし合わせたインタビューを行い、その内容を簡単な記事にまとめて隔週で職員室内に発行しました。インタビュー時には文字起こし機能の付いたボイスレコーダーアプリを使ったり、文字ばかりではなく写真を多数掲載したりすることで、できるだけ作成者の負担を減らす工夫をしました。記事が出るたびに職員室が盛り上がり、楽しみながら「めざす姿」の存在をじわじわと広げることができた気がします。

同僚の知られざる一面が知れた!と大好評。
同僚間の関係性を高めながら、「めざす姿」の存在を教員内に広げることができました。

今年度(令和6年度)は、「『めざす姿』を生徒にも広げる」をキーワードに、「めざす姿」を教育活動の実践に落とし込むことに重点を置いています。具体的に取り組んでいることは下記の2点です。
① 「めざす姿」の育成を意識した教育活動づくり
本校では、校内のすべての教育活動を「めざす姿」に繋げることを目指しています。その第一歩として、まずは「めざす姿」の育成を意識した授業の検討を進めています。教員を少人数チームに分け、チームで単元設計をして実施・振り返りを行う仕組みにすることで、教員同士の対話が活性化し、教員一人ひとりが主体的に「めざす姿」と授業について考えることができていると感じています。

本校のゴールである「めざす姿」と日本の教育のゴールである「学習指導要領」の関係性についての対話も実施。
答えが1つではないからこそ、対話を通した学びが深まります。

また、授業以外の教育活動への「めざす姿」の浸透にも着手しています。今年度から、行事ごとの振り返りシートや、「キャリア・パスポート」※ のシートの中に、「めざす姿」に関する項目をトライアルで導入してみました。生徒が自分自身について振り返るシートの中で常に「めざす姿」の項目が入っていることで、生徒の振り返りの質が上がったという声も教員から聞こえています。生徒がスムーズに「めざす姿」に紐づけた振り返りを行うことができた背景には、校長先生による情報発信があります。学校の経営全体構想である「グランドデザイン」や子どもたちの様子を伝える「学校だより」、全校集会でのお話など、校長先生から発信されるコンテンツのすべてに「めざす姿」が組み込まれています。地道に、そして確実に情報を発信してくださっているからこそ、生徒にもじわじわと「めざす姿」のキーワードが浸透し始めているのだと思います。

「キャリア・パスポート」: 児童生徒が、小学校から高等学校までのキャリア教育に関わる諸活動について、特別活動の学級活動及びホームルーム活動を中心として、各教科等と往還し、自らの学習状況やキャリア形成を見通したり振り返ったりしながら、自身の変容や成長を自己評価できるよう工夫されたポートフォリオのこと(独立行政法人教職員支援機構 「キャリア・パスポート」より引用)

② 「めざす姿」に照らした生徒の「現在地」を把握するための定量データの収集
「めざす姿」を意識して教育活動をやみくもに行うのではなく、定量データをもとに教育活動の検討を行うことも目指しています。今年度はまず、年に4回実施する「キャリア・パスポート」の中で、生徒にアンケートを行い、生徒が自分の姿を「めざす姿」に照らし合わせた時にどのレベルまで達成しているかを見取ることにしました。生徒の現状をデータで見ることで、教科を横断した授業づくりの対話が進めやすくなった印象があります。今後はデータの質も改善していきながら経年での変化を見取っていきたいと考えています。

生徒の定量データを見ながら教員同士の対話を進めることで、生徒の状況に対する共通認識が生まれます。

来年度(令和7年度)の学校研究の構想としては、「めざす姿」を軸とした学校での活動を地域に発信し、地域の力をさらに取り入れながら教育活動をより豊かにしていくことを目標に掲げています。一昨年から、学校運営協議会との連携を少しずつ進めており、まずは「めざす姿」に照らした本校生徒の印象をざっくばらんに共有し合う会を設けたり、地域の力を活かした教育活動の具体案の構想を進めたりしています。
また、地域との共創の一つとして小中連携も重視しています。本校が属する学区には小学校と中学校が1校ずつ設置されており、一小一中のメリットを生かした9年間(将来的には幼稚園・保育園も繋げた12年間)の見通しをもったカリキュラムマネジメントの推進を目指しています。その初段階として、今年の1学期に、小学校と中学校の教員が集合して「9年間で子どもを育てるために、教員ができることは?」というテーマでワークショップを行いました。「まずは小中の教員で親睦会をやろう!」という気軽な案から、「校舎同士を廊下で繋げちゃおう!」という破天荒な案まで、様々なアイデアが沸きあがってきました。最初の一歩として、総合的な学習の時間の地域学習に関する9年間のカリキュラムマネジメントを小中合同で推進することが決まり、今年度から話し合いを進めています。

「子どもたち」を主語に対話をすると、たくさんの大人が積極的に発言します。
子どもが持つ可能性に、大人がワクワクしている感じがしています。

実際にやってみての手応え

学校研究としてこのチャレンジに取り組んだことで、「チームで学校をつくる」意識が徐々に高まっていると感じています。立場・担当教科・年齢を超えた対話が広がり、自分の意見をもって話し合いに参加している先生の姿をたくさん見てきました。
下記は、本校の学校研究に対する教員のコメントです。

私は、本校の学校研究は単なる教員の能力を向上するための研修ではなく、組織の文化や風土を醸成することに繋がっていると思っています。組織で共通のゴールに向かって必要な取り組みを共に考え、推進する(あるいは、今ある取り組みが本当に必要かどうかを検討していく)こと、教員同士が分け隔てなく気軽に相談や対話ができることは、今の学校現場にとても必要とされていることです。このような組織文化・風土が学校現場に根付くことで、将来的には長時間労働の改善や心身の不調による教員の休職率・離職率の軽減への一助になると信じています。

みんなが楽しく意見やアイデアを交わし合い、支え合える職場が一番!

今後取り組みたいこと

冒頭でもお話した、私のキャリアビジョン「一人ひとりの良さを繋ぎ合わせることができる環境・社会をつくる」の実現に向けて、引き続き教育業界に携わりたいと考えています。

まずは現在の勤務校で推進している取り組みを、引き続き前に進めていきます。学校のすべての教育活動に「めざす姿」を浸透させる点についてはまだまだできることがたくさんあるため、今後も注力していきます。将来的には、子ども=学びを受ける人、教員=学びを提供する人、地域社会=学びをサポートする人という定義がなくなり、教員・保護者を含む地域の方々・子どもがそれぞれの良さ(強み・興味関心など)を持ち合わせて、全員が学びの場づくりの担い手になる環境ができたらいいなと思っています。

さらに、個人的には組織強化の面で学校を支える人材になっていきたいと考えています。本校の学校研究の取り組みを通じて、教育業界において私がどのように価値を創り出せるのかが少しずつ見えてきた気がします。私が得意とする分野は、現場の意見を引き出して組織のビジョンを紡ぎ出すこと、そしてそのビジョンに向けて中長期的な視点でアクションを設計することです。このスキルを生かして、教育業界をよりよくする担い手になっていきます。

==さいごに==

上記の取り組みは、様々な人の力を繋ぎ合わせながら創り上げてきました。
本校の学校研究の根幹を担う方々に、学校研究に対する感想をいただきました。

野口 裕美 校長先生
学校研究の取り組みを全力でサポートしてくれています。学校のグランドデザインに「めざす姿」を盛り込んだり、学校で起きていることを「めざす姿」に紐づけて学校だよりに掲載し、保護者や地域の方々に発信してくださったりしています。

「国府中の学校研究」というストーリーをつくること・・・それが学校教育目標に照らし合わせた研究のビジョンです。グランドデザインの実現を意識しながら、短期的・長期的ゴールに向けて、求心力のあるリーダーたちが賢く軽やかに導いてくれるので、生産的な取組になっています。学校研究を通して、先生方のやりがいが子どもたちの成長につながることを楽しみにしています。

添田 健 教頭先生
職員室の担任の先生として、いつも私たちを見守り支えてくれます。小学校での長年の勤務経験を活かしながら、小中連携の観点で本質的なアドバイスをしてくださっています。

「教職員全員で議論し設定しためざす姿を軸として、チームで研究に取り組む」このテーマに真摯に取り組んできたことが、教職員の認め合い・助け合う風土の醸成につながっていると思います。学校研究メンバーはじめ、全ての教職員に感謝です!

内貴 基志 先生、和田 幸江 先生(学校研究メンバー)
学校研究のコアを一緒に設計・推進しているお二人です。内貴先生は授業づくりに力を入れているプロとして同僚からの信頼が厚く、「めざす姿」の実践面をリードしてくれています。和田先生はすべての子どもが学びのハンドルを自分で持てる授業づくりを目指しているプロとして幅広い視点から学校研究に深みを創ってくれています。

つながりを大切にしたい、という想いをもって学校研究に携わっています。いま、「めざす姿」という共通の視点で先生たちとつながり、ともに働くことができることに、感謝の気持ちでいっぱいです。

学校研究でワクワクする幸せ!「めざす姿」を軸にした授業づくりにチームで取り組むことで、子ども、教職員、地域の人々が協働して、素敵な学びの場をつくる道筋が見えてきました。子どもたちとともに私たち大人も成長していきたいです。

諸岡 紀子さん(学校運営協議会議長、PTA会長)
子どもたちの学びを支える仲間として、前向きかつ積極的に対話を交わし合える存在です。

初めて学校研究の場に参加したときは、先生方がこんなにも生徒や学校のために何ができるのか、どうしたらより良くできるのかを考えてくれていることに衝撃を受けました。「学校には色んな人がいるが、全員が『学校』という大きな船に乗っている仲間。行き着く先は同じところ。」この言葉は研究の中で先生たちが仰っていたことです。その「船」には、生徒、教員、PTAを含む保護者、地域の人々全員が乗っているな!と思いました。これからも一緒に同じ方向を向いていきましょう!

守田 壮哉 先生(小学校 学校研究主任)
小学校と中学校の架け橋として、小学校の先生方を積極的に巻き込んでくださっています。

今年度、中学校とは様々に関わらせていただいています。「小中相互訪問事業」では、中学校の先生方の授業を参観し、教材研究を熱心にされている姿や日頃の悩み、卒業している子どもの様子など、情報共有できたこともよかったと思います。これからもいろいろと交流していきましょう。

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