【イベントレポート】ギャップイヤーで世界を旅した私が日本の学校現場にたどり着き、 フェロー修了後も教師を続けている理由。
- 修了生インタビュー
9期フェローの鈴木さんに、フェローシップ・プログラムに参加した理由や赴任前の研修、学校現場での取り組みなどについてお聞きするイベントを開催しました。
当日の内容をまとめた本記事と合わせて、ぜひアーカイブ動画もご覧ください!
【ゲストプロフィール】
鈴木里奈さん(Teach For Japan 第9期フェロー/小学校赴任)
教員を志し教育学部に入学するも「自分の視野を広げ、国際的な視点を身につけてから教育現場に携わりたい」という思いから、大学卒業後にギャップイヤーを選択。NGOのピースボートに乗船し23ヶ国を訪れたり、キウイ農家でインターンをしたり、田舎フリーランス養成講座を受講したりするなど、好奇心のままに様々なことを経験。その後、Teach For Japanのフェローシップ・プログラムに参加。現在は、福岡県の小学校で肢体不自由特別支援学級の担任として勤務している。
▼YouTubeにて動画でご視聴いただけます!
フェローシップ・プログラムに参加した理由
Q:応募前のキャリアを教えてください。
卒業後はすぐに先生になったり就職したりするのではなくて、ギャップイヤーというものを選択しました。ギャップイヤーというのは、学生が社会に出るまでの間に人生のインターバル期間を作っていろいろな活動をするというような意味があります。私は、ゴルフ場のイベントのスタッフをやってみたり、ピースボートというNGOのボランティアスタッフとして活動したり、その後に地球一周の船旅に参加して世界を旅したりなど、好奇心のままにいろいろなことを経験していきました。ギャップイヤーの中で今まで出会ったことのないような人に出会って、多様な生き方をしている人がいるんだなということや、ピースボートの乗船中にいろいろな国の学校現場に訪問させていただいて様々な国の教育も知る中で、教育への関わり方は教員だけではないんだなということを考えることができるようになって、NPOだったり、民間企業だったり、幅広い枠で教育に携わる道を検討できるようになったと思います。
Q:教師を目指したきっかけを教えてください。
小学生の頃から出会ってきた先生に自分は恵まれていて、すごく学校も好きで、小さい頃からなんとなく先生になりたいなという思いがずっとありました。
教育への興味を持ち続けていた一方で、大学1年生のときにピースボートのポスターに出会ったことがきっかけで、「地球一周の船旅に行きたい!」という衝動にかられ、ピースボートのことを調べはじめていくうちに海外にも興味を持っていくようになりました。
本当は大学生のうちに「海外に行く」といったように、興味を持ったことにどんどんチャレンジすることができたら良かったと思うのですが、自分の中で、休学したり、自分にとって何か大きなことに挑戦するという発想を全然持っていなくて、むしろそういうことはやってはいけないんだという風に自分のやってみたいという気持ちを抑制していました。ただ、卒業を間近に控えた4年生のタイミングで、やりたいことに思いっきり挑戦したいという自分の気持ちに気づきました。ピースボートに乗りたいという思いやJICA海外協力隊に行きたいという思い、教員になりたいという思いなど、やりたいことがたくさんあって、どれを選択してどれを諦めようかということをすごく考えていたのですが、そうではなくて全部やってしまったらいいんだという風に思うようになってから気持ちが軽くなって、その経験を生かした先生になりたいと考えるようになっていました。
Q:フェローシップ・プログラムを通して教師になられたのはなぜでしょうか?
Teach For Japanのフェローシップ・プログラムは大学生の時にインターネットで存在は知っていました。ピースポートに乗船した後、JICA海外協力隊への参加が決まっていたのですが、コロナの影響で行けないことになってしまい、ちょうどそのときに学校が休校になったというニュースがあちこちで流れていて、今は海外に目を向けるのではなくて日本の教育現場に携わりたいという思いが高まりました。
私は教員免許を持っているので、どこでも講師として働くことや教員採用試験を受けることができる中でフェローシップ・プログラムを選択したのは、コミュニティの存在とキャリアの柔軟性があったからです。フェローシップ・プログラムは、様々なバックグラウンドを持った方々がいて、そういった同期や修了生と教育について多様な視点で話ができたり、そういう機会を持ちながら教員ができることがいいなと思いました。また、2年間先生として働く間に教育分野に対する自分の関わり方を考えながらその後のキャリアを選択できるというところに魅力をすごく感じて、フェローシップ・プログラムを志望しました。
赴任前研修での学びやコミュニティ
Q:赴任前の研修はいかがでしたか?
研修では教員になる上での自分のビジョンや教育分野の関わり方を常に考え続けることができる環境があって、自分の教育観をすごく高めることができたなと思っています。同期と個別に話したり研修のグループワークをしたり、学生・社会人の枠を超えて話すことができる機会があったので、同期の存在はすごく刺激になってモチベーションに繋がっていました。
研修の中で特に印象に残ってるのは、心理的安全性とウェルビーイングのことを脳科学的に学べたことです。心理的安全性は脳が過度に負担がかかっていない状態の安全な場を作り出すというような意味、ウェルビーイングは心身や社会的に幸福な状態というような意味なのですが、それを科学的に知って、赴任した後に意識しながら学級経営をすることができたのは自分にとって大きなことだったと思います。
(※当時の研修内容です)
Q:教員養成課程との違いはどのように感じられましたか?
大学によって特色が違うと思いますが、私自身の大学生活をふりかえると、大学では一方的に講義を受けることがすごく多くて、どちらかというと教員採用試験に向けての対策の印象を受けていました。自分がどうして教育に携わりたいのか、どうして教育なのかという根本的なことを友達と熱く語り合うようなことは、思い返したらあまりなかったと思います。フェローシップ・プログラムでは、いろいろなバックグラウンドを持った人ととにかく気が済むまで対話できるというところが教員養成課程との違いかなと思います。
赴任中の取り組み
Q:赴任時にはどのようなビジョンをお持ちでしたか?
赴任する時に私が持ってたビジョンは「世界と繋がり子ども自身が可能性に気づく教育」というのを掲げていました。この”世界”というのは、純粋に大きな地球みたいな意味の世界もありますし、人とか社会という意味もあります。いろいろな自分の周りのものと繋がることで子どもの好奇心だったり、自分が何が好きで何が嫌いかというようなことに気づけたりするのかなということを考えていたので、そんな教育がしたいなと思って現場に入りました。
Q:ビジョン実現のためにどんなことに取り組まれましたか?
1年目の時は小学校1年生の担任をしていました。そのクラスの中にウクライナにルーツを持つ児童がいたので、学年全体でウクライナについて学ぶことだったり、異文化の違いを理解したりすることを通して互いに認め合うということを大切にすることで子どもたちの成長に繋げたいと思っていました。ウクライナにルーツを持つ子の保護者に学校で特別授業をしていただき、子どもと世界を繋げられるような機会を作りました。
Q:その他に、印象的だったことや大変だったエピソードがあれば教えてください。
1年目に関しては何もかもが初めてですごく大変な1年で、自分自身がもう本当に潰れる寸前ぐらいまでになってしまった時期もありました。特に毎日の授業準備の仕方や指導力が全然身についていない中での子どもとの関わり方については本当にどうしたらいいんだろうとすごく悩んでた時期がたくさんありました。
一方で、とてもやりがいを感じたこともたくさんありました。特に印象に残っていることは1年を通して取り組んだ「価値語」という実践です。子どもたちがみんなで何か力を合わせて取り組めたり、協力できたりしたときに、星形の紙にそのことを言葉に書いて貼っていくという取り組みをしていました。貼るたびに子どもたちがすごく嬉しそうだった様子をよく覚えています。それを最後に、1個1個の星を大きな星にまとめて「1年間こんなにみんな頑張ったね、すごく1年で成長したね。」という話を最後の学級活動の時間にできたときは、子どもたちの成長もすごく感じ、自分自身も1年間いろいろあったけれど担任ができて良かったということをすごく実感できた瞬間でした。
Q:大変な時期をどのように乗り越えたのでしょうか?
1番大変だった時期にすごく支えになったのは、フェローシップ・プログラムの同期や先輩の存在です。今Teach For Japanのフェローが10人ぐらいいる、福岡県のシェアハウスみたいなところに住んでいるのですが、いろいろ声をかけてくれたり、話を聞いてくれたりする環境がすごく身近にありました。静岡にいる家族もすごく応援してくれていてよく話を聞いてくれました。 学校現場でも大変なときに自分のクラスに入ってくださった先生がいらっしゃって、本当に周りの人に支えていただいて無事に終えられたなと思っています。
Q:2年目の取り組みについても教えてください。
2年目は、特別支援学級の担任になりました。その中で1年生と6年生の2人と関わることになったので、1年目とは全く違う2年目を過ごすことになりました。
2年目は自分の中でもゆとりができて、2人にとことん関わることができる状態になったので、2人に対してどんな学級作りをしたいかということを考えていろいろな実践をしていました。
中でも、ビジョンと繋がるところでは、自分が世界を旅したときに感じたことや見たものを10分ぐらいで何回にも分けて紹介していました。それには、純粋にいろいろな世界を知ってほしいなという思いや好奇心を高めてあげたいなという思いがありました。
また、6年生の子が小学校1年生のときにニューヨークに行った経験があったので、学級に在籍していた1年生の子に対して、ぜひその経験をプレゼンしてほしいと伝えました。それは相手を意識したコミュニケーション能力を身につけてほしいという思いや、スライドを使ってプレゼンする機会はこれから必要になると考えたこと、自分のことを表現する力を高めてほしいというような思い、1年生の子の視野が少しでも広がったらいいなというような、いろいろな思いがありました。
Q:実際のプレゼンはいかがでしたか?
写真や動画の選択など、保護者にもご協力いただきながら、6年生の子は毎日タブレットを持って帰って少しずつプレゼンを作っていました。私は、スライドを作るための機能について必要最低限のことしか教えていなかったのですが、6年生の子はどんどん自分で学んでスライドを作って、実際に1年生に分かりやすいように話をするということを意識しながら発表をすることができました。1年生の子も「すごい!えーこんなことしたのー!!」みたいな反応で、すごく視野や世界が広がる機会だったと思います。子ども同士でそのように学びの場を作れるんだということをすごく実感した実践でもありました。
Q:2年目に大変だったことはありましたか?
2年目は本当にやることがガラリと変わり、肢体不自由の子どもたちと関わっていたので休み時間を安全に過ごせるように見守ったり、運動会や遠足などの参加の仕方を保護者の方やその子たちが通ってるリハビリの作業療法士の先生・理学療法士の先生、教職員と話をして協力しながら様々な配慮を考えていきました。1年目とは全く違う新しい方法でやっていくというところが少し大変だったかなと思います。
Q:2年間を通して印象的だったことや嬉しかったことはありますか?
日々の計算が早くできるようになった!、字が書けるようになった!、なわとびが跳べるようになった!といったようなたくさんの「できた!」という瞬間に立ち会えたことはすごく嬉しくて、印象的でした。2年目のときに担任をしてた6年生の子が卒業するときにお手紙をくれたのですが「この1年を通していろんなことに興味を持てるようになりました。世界はまだまだ知らないことがたくさんあるということに気づきました。ありがとうございます。」ということを伝えてくれて、自分の思いは子どもに伝わっていたんだな、ビジョンに向かって教育をしてきて良かったなということを実感できて、すごく嬉しかったです。
修了後のキャリア
Q:3年目、教師を継続された理由を教えてください。
元々は別の進路を考えていたのですが、2年目の途中でフェローシップ・プログラムの先輩が企画した教育フェスというイベントに参加させていただいたことが、自分自身の進路を改めて考えるきっかけとなりました。その時期は地域の方やシェアハウスのメンバーなど様々な人との関係がすごく深まってきている時期だったので、せっかくのご縁を大切にしたい思いが強くなりました。今住んでいるところにもう少し住みたいという気持ちが強まったり、当時担任をしている子の成長をもう少し身近でみたいというような思いがあったりして、自分の気持ちをいろいろ考えた結果、3年目も先生を継続させていただいています。
Q:来年度以降のキャリアで決まっていることはありますか?
来年度からに関してはすごく迷っています。来年度というよりも長い目で自分の人生を考えたときに、元々行く予定だった海外の教育現場に携わってみたいなという思いがあったり、今小学校と特別支援の免許を持っているのですが、小学校だけではなくて中学校や高校の学校現場にも興味があったり、公立だけではなくて私立の教育について気になったり、オルタナティブ教育について学びを深めたかったり、、、。子どもにとって教員の影響はすごく大きいなということを今現場にいて感じてるので、教員養成課程の方に携わりたいという考えもあります。自分の中でいろいろなことに興味があるような状況なのですが、唯一決まってることは、どんな道を選んだとしても教育に軸を置いて様々なことにチャレンジする人生にしていきたいなと思ってます。
参加者の皆さんの感想
「やってみたいことは、やってみる。」鈴木さんのお話を受け、わたしも不安と戦いながらでも、先生になる夢を叶えたいと強く思いました。
活動の内容に加え、鈴木さんの思いや感情を知ることができ、TFJでの活動に対して大変魅力を感じた1時間でした。
教員採用試験に受かるためだけの勉強をしていたので、視野が大きく広がりました。
参加者の皆さん、そしてゲストの鈴木さん、ありがとうございました!
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