子ども達は大きな可能性を秘めている。それを引き出せる環境づくり、サポートが自分の役目
- 修了生インタビュー
~アラムナイインパクト vol.11_渋谷吉孝(29)_私立高等学校教員~
フェロー経験者であるアラムナイの今を紹介する本企画「アラムナイ・インパクト」。第11回目は、フェロー第5期生の渋谷吉孝さんです。渋谷さんは現在、学校法人大阪学園 大阪高等学校で教員をされています。フェロー時代に子ども達の持つ大きな可能性に気付き、その可能性を引き出せる環境づくりに邁進していらっしゃいます。
今回は、そんな渋谷さんに、フェロー経験後に赴任した現在の高等学校での取り組みや、その中でフェロー経験がどのように活かされているのか、そして今後の展望などについて伺いました。
本記事は、現在、教員などとして既に教育業界で働かれている方、これから教員としてキャリアチェンジしたい方、教育を軸にキャリアを形成していきたい方には、特に参考になる内容になっています。ぜひ、ご覧ください。
出身大学 | 大阪教育大学 教員養成課程 数学専攻 中学校コース |
職歴 | 日々輝学園高等学校 TFJフェロー(小学校講師) 大阪学園 大阪高等学校 |
放課後も大忙し。産学連携、高大連携で様々な経験を提供し、自分の可能性に気付いてもらう
早速ですが、現在のお仕事内容を教えてください。
大阪市にある大阪高等学校で教員をしています。2022年4月には、赴任4年目を迎えます。
教科は数学を担当しているのですが、このほかにも総合的な探究の時間も担当しています。探究の時間では、1〜3年生のカリキュラムを作るなどしており、学校教育目標の実現はもちろんですが、探究と探求のサイクルを回すことで、より生徒一人一人の力をつけられるように日々模索しています。
具体的に1年生では、SDGsのアイデアコンテストにエントリーしたり、「不自由研究」と題して、こちらから指定したテーマについて徹底的に調べてプレゼンしてもらったりしています。今はインターネットで検索すればすぐに答えが分かる時代です。それらを鵜呑みにしたり、そのまま引用したりして終わらないように、なぜそうなっているのか、他との繋がりは何か、次のアクションとしてどうすれば良いのかを考えてもらうようにしています。
このほかに、特に注力していることがあるんですよね。
放課後の特別授業です。産学連携、高大連携でプログラムを組んで様々な内容で実施しています。この特別授業自体は私の赴任前からあったのですが、活発化させている形です。
物凄い量の授業を企画・運営していて、これまでの3年間で100回以上は実施しましたね。1年生から3年生まで、興味のある生徒は自由に参加できるようになっています。
授業スタイルは2通りあり、1回完結型とゼミ活動型に分かれています。1回完結型だと、様々な業種・職種を経験できるような内容となっていて、例えば、自動車関係の専門学校の方に来ていただいて、エンジンの解体からくみ上げまで経験できる授業を行いました。このほかにも、美容系の専門学校の方に来ていただいてエステ体験をしたり、漫画家さんに来ていただいて上手なイラストの書き方を教わったり、モンゴルの遊牧民をされている日本人女性とオンラインで繋いで幸福論についてお話いただいたり、本当にいろんな内容を行っています。
ゼミ活動型では、知育玩具を扱っている企業とコラボして商品開発を行ったり、大手工務店の方に建築の基礎を教えていただいたのち、大阪高校をリノベーションするならどうするかを考えたりしました。このほかにも、大学教授を招いて南海トラフが起きた時を想定して地域防災を社会学の視点から研究したりしましたね。これに合わせて、音楽大学の先生と地域の防災ソングも作りました。
放課後の方が忙しいかもしれませんね(笑)高校に訪問してくれる大学、専門学校などがあれば特別授業に出てもらえないかと提案しますし、自ら学校を訪問して営業もしています。他にも自分の知人に頼ったり、先生方の人脈を頼ったりしていますね。本当にたくさんの方の協力があって成り立っています。
最近では、これまでご協力いただいてきた学校や企業とのご縁から派生して、自治体ともコラボさせていただくようになりました。北海道なのですが、地元の農業高等学校から生徒さんを呼び、学校の正門前で一般開放して物産展を開催しました。
自分が何とかしなきゃと思わず周りを頼り、巻き込む。子ども達に先生にしてもらえた
フェロー時代の気づきが、今の指針にもなっているんですよね。
フェロー時代に強く感じたのが、子ども達の持つ可能性は本当に凄い、計り知れないということでした。子ども達はキッカケさえあれば物凄いスピードで成長していくんですよね。これが実感としてあるので、子ども達の可能性を引き出せる環境づくり、サポートを念頭に行動するようになりました。
フェローになる前、私は通信制の高等学校で働いていたのですが、どこか力が入っていたように思います。フェロー赴任前も、自分が現場を変えてやるんだ!自分が学校を良くするんだ!と、常に自分が主語で考えていました。今思えば、本当におこがましいことですね。子ども達は、既に無限の可能性を秘めていて、私はその可能性を引き出したり伸ばしたりするお手伝いをするだけなのに。そう気づいてからは、自分が何とかしなきゃと思わなくなり、周りの方を頼ったり巻き込んだりすることが出来るようになりました。気づかせてくれたのは子ども達で、そういう意味では、子ども達のおかげで先生にしてもらうことが出来ました。
フェロー期間中には苦しいことも辛いこともたくさんありましたが、その分、楽しいことも嬉しいこともたくさんありました。言葉には言い表せられないですね。これからも自分のプライドではなく、目の前の子ども達のために行動していきたいと思います。
フェロー経験が評価されて、総合学習や特別授業を任されたんですよね。
TFJのフェロー経験者ということで、学校側からは何か新しいことに挑戦してくれそうだと思われていました。実際に、総合的な探究の時間では、フェロー時代に学んだ課題解決型学習(Project Based Learning、PBL)を活かして新しくカリキュラムを作りました。フェローで赴任した北九州市の小学校が総合学習に力を入れていたお陰ですね。
その小学校では、地域学習の一環で近くにあった干潟で環境教育を行っていました。私が担当した高学年では、ただ干潟について学ぶだけでなく、干潟を綺麗に保つためにはどのような行動が必要なのかを調べ、自分らの力でもできる実現可能性も視野に入れ、アイデアを出し合いました。
子ども達の柔軟なアイデアには驚かされましたね。フェローの2年間で、1年目は干潟のPR動画を作り、2年目には地域の人などを巻き込んだ清掃活動を実施しました。1日で750キロものごみを集めることができたのは、子ども達の行動力のたまものですね。感心しました。まさに、子ども達の持つ大きな可能性を実感した経験でした。
子ども達の可能性を引き出し続けたい。枠にこだわらず様々な選択肢を模索する
それでは、今後の展望を教えてください。
直近では、放課後の特別授業におけるゼミ活動型のカリキュラムを、関西のほかの高等学校とも展開して実施していく予定です。ただカリキュラムを提供するだけでなく、生徒たちが交流できるようにしたいですね。
ひとりひとりの学びの機会を広げていくことはもちろんですが、対面で生まれる雑談にこそ価値があると思っているんですよね。先ほどお話しした北海道の農業高等学校との交流では、対面で話す中でお互いの当たり前が違うことに気付き、学びのある時間となっていました。例えば、農業高等学校では企業や自治体と商品開発することが一般的で、逆に大阪など都市部にある高等学校だと、地元にいながら大学など進路の選択肢が豊富にあることは当たり前です。他にも野菜の鮮度の当たり前、学校生活、放課後の過ごし方の当たり前、そうした無意識の当たり前の違いや気付きから、自分の探究したいテーマや課題が見えてくると思います。今後は、関西のほかの学校も巻き込むことで、より広い視野をもった気づきや学びのある、より濃い時間にしていきたいと考えています。
そして、自身の中期ビジョンとしては、今のような子ども達に学びの機会を用意してサポートする活動を続けていきたいと思っています。一つの学校で続けていくのか、どこか自治体の中で活動するのか、会社を立ち上げるのか、様々な選択肢を考えています。
最後に、フェローになるか迷っている方へアドバイスをお願いします。
迷っているなら、絶対になった方がいいと思います。フェローになる前は、なったからには華やかでインパクトのある実績を残さないといけないと感じて焦ると思うのですが、そうではありません。本当に大切なのは、フェロー後にあります。
フェロー期間って、たったの2年なんですよね。でも、この2年間は本当に濃い時間となります。私自身もたくさん悩み考え、同期フェローと何度も語り合いました。そんな中で、人生のミッションを見つけることが出来ました。そして、そのミッションに向かう原動力も得られました。他のフェローやTFJスタッフの方、同僚の先生方、なんといっても出会った子ども達に本当に成長させてもらった2年間でした。あなたにとって、フェローが良い転機となることを願っています。
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