活動レポート report

Teach For Japanのフェロー候補生の赴任前研修制度とは。独自のオンライン・オフライン研修ほか、個人面談で赴任まで全力サポート!

応募の段階で、本当に教員免許を持っていなくても学校で働けるのだろうか?数カ月から1年弱の研修で、本当に教員として活躍できるのだろうか?そんな不安から、Teach For Japan(以下、TFJ)のフェローへの応募を迷われていませんか?

今回は、フェロー候補生の赴任前研修を担当する職員で元フェローの松尾さんに、TFJ研修の目的や特徴的な内容、フォロー体制などについて聞きました。本記事で悩みを払しょくしていただき、教員、教育の道に進む第一歩をTFJで始めてみませんか?

※なお、こちらの記事は第9期フェローの研修に基づくインタビューであり、研修内容・形式・日時などは変更の可能性がありますのでご了承ください。

フェローシップ・プログラムの研修目的とは

まずは、TFJがフェロー研修を行う目的について教えてください。

第一の目的は、候補生それぞれがフェロー研修を終えて学校に赴任した時に、1人の教員として自立できるまでに育てることです。

例えば、フェローには教員免許が必須ではありませんが、授業ができないようでは話になりません。必要最低条件として、指導要領の概念や指導案の作成を通して授業の作り方を理解し、1人で授業を作れる、クラスを回せるようになる必要があります。研修では、そんな教育現場で活躍する上での必須スキルをしっかりと習得して頂きます。

第二の目的としては、それぞれがフェローになろうと思った理由である教育に対する課題、思い描くビジョンを具体化し、これから活躍する上での信念を明確にしてもらうことです。

私たちは、TFJのフェローが現場に行き、教室の内外で活躍してもらうことを期待しています。その中で、自分の信念が揺らいでいたのでは、周りを巻き込んだ活動は難しいと言えます。

子ども達や教員を始めとする学校、そして地域により良いインパクトを与えるためにも、自分がフェローになるに至った信念を明確にしてもらえるようプログラムを組んでいます。

松尾さんも第4期のフェローとして、福岡県の小学校に赴任されていますよね。その時のご自身の信念は、何だったのでしょうか?

私の信念は、子どもたちにダイバーシティ環境を提供することでした。その理由には、自分自身がマイノリティであることが関係しています。

私は、思春期に自分がマイノリティであることで悩んだことはありませんでした。それは、私の実家が外国人の子どものホームステイを多く受け入れており、幼い頃から肌の違う人や言語の違う人と生活することが当たり前の環境、ダイバーシティ環境で育ったからだと思っています。だからこそ、自分が周囲のマジョリティでないことを悩んだりせずに過ごせてきたのだと思っています。

日本では、ダイバーシティ社会の実現が言われながらも、なかなか実現できていないジレンマがあります。私は、次の時代を担う子ども達の教育現場でダイバーシティを実現することで、そんな日本社会を少しずつ変えていけるのではないかと考えています。

松尾さんの教育における信念の背景には、ご自身の経験があったんですね。次に、フェローが教員免許を持たなくても、研修を受けることで教育現場で活躍できる理由を教えてください。

教員経験者である職員が研修プログラムの構築・運営を担当しているため、教員免許を持たない人がつまずきやすいポイントを理解しています。そのため、実践で使える内容が効率的に学べるように考えて作られているからです。

例えば、研修中には指導案を作成してもらいます。ここでは、ただ作成方法を学ぶだけでなく、教員経験者による添削を行うことで、現場目線でのフィードバックが得られます。ゆえに、実践的な力が身に付くのです。

また、受講者には月に1度、自己評価による振り返りのタイミングが設けられています。

これをフェローカルテと呼んでいるのですが、こちらを元に教員経験者である職員と毎月30分ほど個別面談を実施しています。

当月の振り返りだけでなく、来月の目標を立てる場としても活用しているため、高いモチベーションを維持しながら研修を進められるようにサポートしています。

研修は一斉に行うものですが、フェローは一人ずつ違う学校に赴任するため、個々人が能力を高めて、それぞれに自立してもらわなければなりません。そのため、出来る限り個人に寄り添い、手厚くサポートするように心がけています。

フェローシップ・プログラムの研修内容とは

続いて、研修内容について伺いたいと思います。まずは、研修を担当する講師陣についてですが、どういった方々がいらっしゃるのでしょうか?

教員経験のある職員がメインで研修を行いますが、専門分野に特化した講義内容ついては、NPO法人や企業、塾講師など外部の方々にご協力いただいています。

専門分野とは、環境教育、性教育、STEAM教育など〇〇教育と呼ばれる教育分野です。こういった専門分野については、第一線で活躍している方から直接学べることもTFJ研修の魅力だと思っています。

こうすることで、自身の興味関心に偏らず、教育に関して深くて広い視点を取り入れられます。ご自身の教育に対する課題やビジョンに合わせて、上手く活用してほしいですね。

このほか、フェロー経験者からの特別講義もあります。ここ最近では、自立と共生を学ぶドイツ発祥の教育モデル「イエナプラン教育」に関する講演会を企画しました。

では、どのように研修を進めていくのでしょうか?

基本的には、月に一回のオフライン集合研修と、週に一回のオンライン研修で進めていきます。今年はコロナ禍においてもオフライン研修を実施するか悩みましたが、教育現場は基本的にオフラインであるため、実際に学校で授業をする機会を設けるためにも、コロナ対策を徹底してオフライン研修も実施しています。

月に一回のオフライン集合研修は7月から始め、週末に東京、大阪、福岡の3拠点同時に開催しています。こうすることで、日本各地に散らばるフェロー候補生が受講しやすい環境を整えています。

週に一回のオンライン研修は6月末から始め、3月末までの研修期間中に合計30回ほど行われます。教員の仕事全般について解説する研修から始まり、教育に関する法律や授業づくりの基礎、いじめ・不登校問題への対処方法など幅広く学んでいきます。

このほか、先ほどのイエナプラン教育のような特別講義、社会人スキルやマナーについて復習できる講座なども設けています。

また、これらオンライン研修の様子は録画してあるので、途中から研修に参加した方でも安心して学べます。その際には、実施済み講義を重要度の高い順にご案内するので、短期間でも効率的に学んでいただけます。

また、同じ講義を何度も視聴することができるため、復習にも効果的です。このほか、研修で使ったスライド資料も共有しています。

加えて、TFJ研修には候補生が自発的に立ち上げた勉強会があり、この活動が活発な点も魅力だと言えます。

具体的には、教育法規の輪読会、環境教育に関する勉強会、模擬授業の実践会などがあります。候補生向けにSlackやZoomを用意しているので、自由に活用してもらっています。

次に、具体的にどういった研修プログラムが用意されているのかを教えてください。

一例ですが、最先端の神経科学を軸に、心理学や偉人の知恵、現場の知恵を有機的に統合し、世界のどこにもない人間理解の新たな価値を提供する企業「DAncing Einstein(ダンシング・アインシュタイン、以下DAE)」と提携し、心理的安全について学ぶ研修プログラムを開発しました。こちらは全5回の講座で、今年から開講しています。

DAEの想いである「脳科学的な視点で、すべての人のWellbeingを実現する教育を普及させたい」と、TFJの想いである「これからの教員に求められる資質とその育成プログラムを脳科学的な切り口から設計したい」を掛け合わせて作り上げられました。このプログラムでは、子どもたちのWellbeingを育める教員を増やすことを目標に掲げています。

世界は、グローバル化やデジタル化などをキーワードに目まぐるしく変化しており、一昔前に比べると、先を見通しづらくなっています。そんな中、子ども達は知らず知らずのうちに不安をため込みやすい傾向にあると感じています。

そんな現代だからこそ、Wellbeingを育むための教育を実践できる教員が必要だと考えているのです。しかし、現状は足りていないどころか、そうした資質能力の定義付けもされていません。

そこで、TFJとDAEでは脳神経学の観点から、ストレスに対して脳がどのように反応するかを学び、心理的安全を教室や学校で確保できる教員育成を進めていきたいと考えています。そのためにも、自身が勤める学校などで心理的安全の研修を実施できる教員を増やしていきたいとも考えています。

このように、TFJでは、教育を取り巻く幅広い分野について学べる機会を提供しています。そのため、受講生の学ぶ姿勢や興味関心によって、得られる効果を大いに高められると考えています。

また各研修を通して、自分が学校現場でどういうことを成し遂げたいと思っているのか、そんなビジョンを固める、深める機会としても活用してもらえたらと思っています。

続いては、研修で得られることを教えてください。

TFJの研修では、大学の教員養成課程で得られるような知識・スキルだけでなく、なぜ教員になりたいのか、教員になって何がしたいのかという信念を育める点が特徴です。

特にTFJらしい研修が、オフライン集合研修で行われる自分史を作成するプログラムです。

ここでは、自分目線で自身の過去の棚卸しを行うだけでなく、第三者目線でも自分について振り返っていただきます。

そこで、自分について第三者へインタビューするのですが、これが人によってはかなりハードで、これまで見えなかった、または目を背けてきた自分に対峙することも多く、深い気付きを得られます。ここで知った苦い自分もひっくるめて自分について理解し、受け止めることで、これから進むフェローという道への信念も固くなります。

また、自分の弱みを受け止められると、他人の弱みも受け止められるようになります。そして、自分の弱みを他人の強みで助けてもらう、また逆に、他人の弱みを自分の強みで助けることで、相互承認もできるようになります。

ここからは私の持論となりますが、教員は丸裸になることが仕事だと思っています。自分のポジティブな側面だけでなく、ネガティブな側面も包み隠さず教壇に立つことで初めて、子どもたちとの人間関係が築けると感じているからです。

私は、フェローになった当初、教育現場を良くしたいという気持ちばかりが空回りし、なかなかクラスをまとめられませんでした。子どもたちに対して、なんで静かにならないのか、なんで伝わらないのかと思っては、先輩教員と自分の力量の差を感じて焦っていました。

そんな時に気付いたのが、自分が子ども達にポジティブな側面だけ、いいところだけを見せようとしているということでした。いいところだけを見せようと肩肘を張っていたのでは、相手は信頼して心を開いてくれません。

そこから私は、子ども達とは人間同士の付き合いであることを意識し、教員と生徒という関係の前に、一人の人間として接するようにしました。

そうやって一人の人間として丸裸で向き合っていくので、文句を言うこともあったし、間違いをすることもありました。でも、ちゃんと謝って改善もしていきました。そうやって、自分のネガティブな側面も偽らず、恥ずかしがらずありのままを開示することで、子どもたちからの信頼を得られるようになっていきました。

これは、フェロー候補生の赴任前研修についても同じことが言えると考えています。TFJ職員とフェロー候補生は上下関係ではなく、志を共にする仲間だと考え、職員は少し早く経験した者として伝えられることを精一杯伝えるというスタンスでやっています。そうやって、みんなで日本の教育をより良くしていきたいと心から思っています。

フェロー候補生の皆さんには、この研修を踏み台にして、自分の目指すビジョンを貪欲に実現していって欲しいと思います。それに必要なサポートであったら惜しみません。どんどん言ってもらいたいですね。

フェローシップ・プログラムでの研修サポート体制とは

TFJスタッフとして、研修内でどのようにフェロー候補生をサポートしていますか?

先程お話しした月に一回の個別面談のほかには、少人数での補講や、リクエストのあったテーマでの追加のオンライン研修を行っています。

追加研修については、通常研修にプラスして学びたいことがあれば、ぜひ提案してもらいたいと思っています。これまでには、学校内で起こるいじめの事例を紹介してほしいという声がありました。フェローの学習意欲には最大限応えたいと思っています。

加えて、フェロー候補生が講師として教壇に立つこともあります。

人事関係の仕事をしていた候補生が、目的と手段を意識的に分けて捉える思考法「目的思考」に関する研修を企画したいと手を挙げてくださり、開講しました。開講前には、たたき台として勉強会を開くなど意欲的に準備していましたね。その勉強会には私も呼ばれ、教育現場を経験した教員の目線で改善点をアドバイスしてほしいと言っていただきました。

このように、候補生の皆さんにはTFJを活用し、主体的に学びを深めてほしいと思っています。TFJとしても、こういった柔軟な学びの機会も確保するべく、研修プログラムは余裕を持って組むように意識しています。

また、研修中はTFJ研修チーム=先生、フェロー候補生=生徒に見立てて、相手に伝わりやすいコミュニケーション方法についても学んでもらっています。加えて、フェロー候補生=職員室メンバーと捉え、どうしたら職員室というチームを上手くまとめられるかも考えてもらっています。

また、TFJ研修チーム=学年主任など、決定権のある先輩教員とも考えてもらい、どうすれば巻き込めるか、自分の提案に賛同を得られるかといった点についても学んでもらっています。私たちは、これを職員室サバイバルと呼んでいます。(笑)こういった実戦形式の学びは、現場に出た時に力になると思っています。

編集後記

研修担当職員とフェロー候補生は上下関係ではなく、教育から世界を変えるという同じ志を持つ仲間と捉えて共に研修を作り上げていることが、とても印象的でした。そんな環境だからこそ、フェロー研修生は主体的に研修に参加することができ、研修を終える頃には、自分が想像していた以上の収穫を得ているのだろうなと感じました。

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