フェローインタビュー fellowinterview

「紛争のない世界、平和な世界の実現」のために。新任中学校教員の覚悟

「現状を変えたい」、「一歩踏み出したい」と思ったことはありますか? 今回ご紹介する黒澤フェロー(教員)は、「紛争のない世界、平和な世界の実現」のために教員になることを選び、はじめの一歩を踏み出しました。その一歩に込められた「覚悟」を、素直に綴って頂きました。

※表は横にスライドできます。

名前黒澤 永(くろさわ はるか)
赴任期間2020~2022年(8期フェロー)
校種中学校赴任(英語科担当)
大学獨協大学外国語学部フランス語学科卒業(外国文化学士)
経歴War Childhood Museum(子ども戦争博物館)@サラエボ
東京オリンピック・パラリンピックのPR@東京
好きな本『アルジャーノンに花束を』、『夜と霧』
趣味旅行、書道、コーヒー、たまーにジム通い
よく忘れるものdefinitely(「間違いなく」の意)のスペル、傘
よくなくすものペン、初心

「よく生きているか?」の問いの先にあった教師への道

子どもが好きだから。
母親が先生だったから。
東日本大震災があったから。
学生時代に大きな失敗をしたから。
Teach For Japanの理念に共感したから。

教師を志した理由を色々と考えてみましたが、これという理由が1つあるわけではありません。24歳になる自分が積み重ねてきたものが、教師という仕事に繋がったというような感覚です。 

教師を目指す自分の土台にある想いは、「よく生きたい」というものです。毎日を無駄にせず、社会のため・世界のために何ができるか?という問いが私自身の根底にあります。これは自然と湧き上がってくるものではなくて、意識的に自分に投げかけている問いでもあります。

そして、大学を卒業する頃から社会人1年目にかけて、「よく生きてるか? 」と自分に問うたとき、しばらくNOという答えが続く日がありました。そんな時に出会ったのがTeach For Japan(以下、TFJとも表記)でした。

(写真)NOという答えが続いた日々…

きっかけは2018年11月。高校時代の留学でお世話になった国際的な教育財団である「AFS日本協会」からの1通のメールでした。 

そのメールの中でTFJの取り組みが紹介されていました。

Teach For Japanのビジョン
「すべての子どもが、素晴らしい教育を受けることができる世界の実現」

Teach For Japanのミッション
「教室から世界を変える」

という文言が目に留まったことを覚えています。

ちょうどその頃の私は、東欧ボスニア・ヘルツェゴビナの首都サラエボでの留学を終え日本に帰国したばかりで、大学卒業後の進路と将来への不安を抱きながら、上手くいかない自分の姿に苦しんでいるときでした。

大きな挫折がありながらも、どうにか前に進んでいかなければ……と考えていたそんなとき、Teach For Japanのビジョンとミッションが私の背中をおしてくれました。

「紛争のない世界、平和な世界の実現」が私のビジョン 

私のビジョン
「紛争のない世界、平和な世界の実現」

私のミッション
「教育を通して、よりよい世界を築く未来の子どもたちを育てる」

私が1年間留学をしたサラエボという街は、1992年~1995年のボスニア・ヘルツェゴビナ紛争で苦しんだ都市の1つです。紛争が終結した今日においても、紛争が残した負の遺産が街の至る所に見受けられます。それは、街の外景だけではなく、人々の心の奥深いところにも残っています。

(写真)サラエボでの勤務地「War Childhood Museum」の同僚と

(詳細はこちら「War Childhood Museum」の挑戦

例えば、その負の遺産の1つに「一つの屋根の下に二つの学校」として知られる教育制度があります。

ボスニア・ヘルツェゴビナのほぼ中央に位置するトラブニクという街では、生徒は毎日、同じ学校に通いながら民族別に分かれて勉強しています。別々の教科書を使い、別の言語で学習するのです。クロアチア人は校舎の右側半分で授業を受け、ボシュニャクと呼ばれるイスラム系住民たちは左側半分の教室で授業を受けます。その間にそびえたつのは金網のフェンスです。

そして街の路地に目を向ければ、学校に通うことができないジプシーの子どもたちが裸足で物売りや物乞いをしています。

私はこうした光景を目の当たりにしたとき、紛争のない世界・平和な世界の実現に向けて、社会そのものを変えていかなければならないと考えるようになりました。

大きなビジョンを叶えるには、1人では難しい。社会を変えていくには人々の大きな連帯が必要です。そして、未来を生きる子どもたちは、よりより社会を築こうとする私たちの頼もしい仲間です。これからの社会を担う子どもたちが、世界のさまざまな課題を解決するリーダーになってくれれば、こんなに力強いことはありません。この文脈において、学校教育が果たす役割は極めて大きいと感じています。

また、日本の子どもたちはそういったリーダーになることを世界から求められているとさえ思うことがあります。子どもたちを取り巻く環境は本当にさまざまですが、日本で義務教育を受ける子どもたちは、地球規模で考えたならば、ほんのひと握りの非常に恵まれた教育環境で育つ子どもたちです。

そんな子どもたちだからこそ、さまざまな社会経済的困難を抱える世界の人々に寄り添い、目の前にある課題解決のために考え抜き、行動していく力が求められているのだと思います。

2020年4月から出会う子どもたちの心の中に、「よりよい世界のために貢献したい! 」という気持ちが芽生えてほしい。そんな想いで、TFJフェロー(教師)として教壇に立つことを決めました。

ビジョン・ミッションに一歩ずつ近づくために成し遂げたい3つのこと

私は、2020年4月より福岡県内の中学校にて、英語科の担当として赴任しています。3月には約3週間にわたる教育実習を終えたばかりの私が感じていることは、ビジョン・ミッションに一歩ずつ近づくために教師が頼れる手法はさまざまだということです。

例えば、子どもたちの能動的な学習を促すグループワーク、ディベートやPBL(Project-Based-Learning)。学習者同士の協力や教え合いを促進するジグソー法や、外国語学習を目的ではなく手段として扱うイマージョン教育などなど。私が教育実習生である間は、子どもたちの主体的な学びを指導・評価するICE(Ideas, Connections, Extensions)という学習モデルも勉強しました。

このほかにも、教育界の偉大な先輩方によって、すでにたくさんの教育的手法が考案されています。つまり、教師が取れる手法は本当にさまざまであるし、自分のミッション・ビジョンに近づくための方法は何通りもあります。学校現場に入ってから新たに学ぶ手法もたくさんあることを踏まえ、学びの本棚に少しゆとりを持ちながら、自分の進む道を決めていきたいと今は思っています。

(写真)教育実習中に出会った未来のリーダーたちと

とはいえ、私のビジョン・ミッションに一歩ずつ近づくため、教師として「これだけは成し遂げよう」と思っていることが3つあります。有言実行。ここに宣言します。 

「世界とつながる教室」

子どもたちにとって、日々の学習が社会・世界と密接に結びついていることを体感できる教室にします。

子どもたちが英語4技能と言われる「聞く」「話す」「読む」「書く」といった力を習得していく過程では、そうした技能が実社会や世界でどう役に立つのか? という視点が大切だと考えているからです。例えば、「聞く」「話す」技能を扱う場合は、ビデオチャットを通じて世界中の人々とコミュニケーションをとったり、「読む」「書く」技能を扱う場合は、世界の子どもたちとグリーティングカードを交換したりなど、子どもたちの学習が社会・世界と密接に結びついていることを体感できる授業づくりをしていきたいと思っています。

また、「よりよい世界を築くために私たちに何ができるだろうか? 」という問いかけにあふれる教室にします。

学習を通して自分と社会・世界との接点を見つけながら、「自分は何ができるか? 」という問いに答えていく作業こそが、世界に飛び出す一歩目となるというのが僕の信念だからです。いわばこの問いかけは、子どもたちの心の中に種をまくような仕事です。この問いかけへの答えは、子どもたちが自分自身で探し出し、伸びてゆく芽にかかさず水をやりながら、大切に育てていかなければなりません。そして、子どもたちに関わる私たちは、その子どもたちの土壌に養分をやり、ゆっくり見守る責任があると思っています。 

「教室を飛び越えた学びの機会」

学校に通うだけでは考えることのなかった進路・キャリアや出会うことのなかった大人と、子どもたちがつながる機会をつくります。

よりよい世界を築く未来のリーダーである子どもたちを育てるためには、子どもたちの学びが学校現場だけで完結するのではなく、社会のさまざまなセクターが子どもたちの学びを応援することが大切であり、かつ子どもたちにとってロールモデルとなるような人との出会いが極めて重要な役割を果たすと考えているからです。

一例として、2020年10月(予定)にはTOMODACHIイニシアチブと協働し、九州地域の子どもたちが多様な進路やキャリアの可能性を探るイベントを企画しています。

TOMODACHIイニシアチブは、東日本大震災後の日本の復興支援から生まれたイニシアチブです。日本国政府の支援も受けながら、教育、文化交流、リーダーシップといったプログラムを通して、日米の次世代のリーダーの育成を目指す(公財)米日カウンシルと在日米国大使館が主導する官民パートナーシップです。

福島県会津の出身である私は、震災後の16歳のときにTOMODACHIイニシアチブの留学プログラムに参加したアラムナイ(修了生)でもあります。そして今では、全世界に7,800人を超えるTOMODACHIイニシアチブのアラムナイが存在します。

この7,800人を超えるアラムナイが歩む進路・キャリアは千人千色です。このアラムナイのネットワークを活かし、九州地域の子どもたちが多様な進路・キャリアの可能性を信じ、ロールモデルとなるような人と出会う機会をつくりたいと思っています。

「笑顔あふれる教室」

子どもたちにとって楽しい、嬉しい、笑顔あふれる教室にします。

「笑顔」というのは、私が教育実習中に多くの先輩教師の方々からいただいたアドバイスです。また、教育実習生として過ごした約3週間、私の記憶に何より印象深く残っているものは、先生方の「機嫌よく働く姿」でした。

子どもたちは誰しも、勉強ができるようになりたい、認められたい、褒められたいという感情を抱いていると感じます。そんな時に、先生が子どもたちを笑顔で迎えるという姿勢は、長い教員生活で培った先輩教師の方々の強さなのだと私は思いました。

笑顔で教室に入り、子どもたちにとって楽しい授業し、45分後は子どもたちの笑顔であふれる教室にする。そのためには、よりよい世界を築く可能性に満ち溢れた子どもたちをたくさん褒める。先輩教師に習いながら、一人前の教師として、この強さを身につけたいと思っています。4月から、教師である私自身も笑顔で機嫌よく学級経営を進めていきます。

そして最後に。「よく生きてるか? 」

この問いへYESと自信をもって答えられえる2年間を送る。子どもたちにその姿勢をみせることが、教師としての何より大きな務めだと思っています。

【フェロー経験者登壇】プログラム説明会はこちらから

Teach For Japanは、学校の教室から世界を変えていきたいと考えています。多様な教育課題があるからこそ、学校へ情熱ある多様な人材を「教師」として送り出しています。教室で生まれたインパクトを、学校・地域・社会へと広げ、教育改革の一翼を担います。

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