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35人学級への背景と課題!海外の少人数学級への取り組みとは?

小学校の学級規模を35人へ引下げることが決まった日本。文部科学省と財務省の間での議論の末に今回の合意へと至りましたが、どのような経緯で少人数学級への移行が決まったのでしょうか。今回、海外での学級規模や少人数学級へのスタンスにふれ国際比較もしながら、少人数学級へ期待される教育効果と懸念される課題をまとめてご紹介します!

小学校35人学級へ引き下げへ!

最初に、今までの日本の学級編制基準の推移と、今回の合意までの経緯をご紹介します。

学級編制基準の歴史

学級編制基準とは国が一学級の児童数を定めた基準であり、各学校はそれに順じて学級を編制する必要があります。これまで日本では複数回にわたり引下げられてきました。

(筆者作成 参考:公立小中学校等の 学級編制及び教職員定数の仕組み|文部科学省

40人への縮小以来、長い間変わりませんでしたが、2011年より小学1年生のみ35人学級へと引下げられました。そして、2020年12月に、今後5年間かけて段階的に調整し、2025年より小学校全体で35人を学級編制基準とすることが決まりました。この図からも分かるとおり、小学校全体での編制基準の引下げは約40年ぶりとなります。

35人学級引下げへの経緯

萩生田文科大臣が「菅内閣の教育改革の第一歩」であると言及した、少人数学級への合意。どのような経緯があったのか、簡単にご紹介します。

小学1年での35人学級導入以来、他学年における学級基準縮小の議論が滞っていました。しかし、コロナ禍に行われた教育再生実行会議が示した方向性が決断を後押したと言います。第47回教育再生実行会議及び、その他ワーキング・グループなどの場で挙げられた論点を、図にまとめてみました。

(筆者作成 参考:少人数によるきめ細かな指導体制・環境整備について|首相官邸教育再生実行会議 初等中等教育ワーキング・グループ(WG)第2回を開催|文部科学省主な論点に関する参考資料|官邸教育再生実行会議初等中等教育WG(2020.09.24)資料5|東北大学大学院情報科学研究科 堀田龍也

これらの論点から、少人数学級への移行は、新しい時代を生きる人材を育成していくために、誰も取り残す事なく、且つ自立的に学習を進められるよう、個別最適な学びときめ細やかな指導を実現させるための政策だとまとめることができます。

しかし、今回の政策の目的は、学級編制基準引き下げに付随して起こる教職員定数の改善であると鈴木寛教授は強調します。学級規模が縮小されることで、学級数が増える事が予想されますが、それによって毎年確保されるべき教員の基礎定数が増加し安定することが期待されています。そのため、「非正規が多い若手教員の正規化とそれによる優秀な人材の安定的な確保」が叶うとの期待を挙げています。

また、今回の合意に至るまで、文部科学省と財務省の厳しい交渉が注目されてきました。その背景に、少人数学級にかかる予算が大きいため財政の健全性を慎重に考える必要がありました。少人数学級および教職員定数の改善に要する費用は約68億円と言われています。

国際比較からのヒント

少人数学級を検討する際に、よく引き合いに出される海外の政策。今回の合意に至るまでも、国際比較した際の日本の学級規模及び教員一人あたりの児童・生徒数が注目されました。国際比較から得られる情報で日本の現状を客観視してみましょう。

海外の小学校の学級規模

今後日本では35人に縮小されますが、海外の小学校での学級規模はどうなっているのか表で見てみましょう。

(筆者作成 参照データ:Education at Glance 2020|OECD

この表から、日本の学級規模は国際的にみて大きい事がわかります。2000年代に学級規模の縮小を実施した国は多く、過去10年間のOECDの平均は毎年下がっています。

海外での少人数学級へのスタンス

少人数学級の教育効果に関する科学的根拠は様々で、未だ絶対的な教育効果は認められていない政策です。しかし、多くの国が学級規模を縮小するよう試みているのは何故なのでしょうか。各国がどの利点に注目し、何を目的とし導入しているか理解することで何かヒントが得られるかもしれません。

★スウェーデン

常にOECD平均以下の学級規模を保つスウェーデンでは、長期的な効果に着目し少人数学級が実施されています。国内での研究は、少人数学級により、最終学歴の改善や、社会人での給与の向上がみられたという結果を示し、小規模学級を支持しています。

★フィンランド

長年学級規模が小さいフィンランドでは、児童の規律と学習成果を向上すると同時に、教員が指導と研鑽により集中できるようにするための重要な政策としています。

★アイルランド

2020年10年に新たに教員定員数の増加及び少人数学級への予算を組んだアイルランド。30人以上の学級が増えている情勢を踏まえ、学級規模が大きい学校を中心に教員配置を改善していく政策を打ち出しています。

★アメリカ

多くの州で学級規模が縮小されたアメリカ。少人数学級と学習成果の関係性は決定的ではないが、逆に学級規模を拡大することは児童の学習を害するとの主張が強く、引き続き他の教育政策と比較しながら慎重に進められるべきとされています。

★イギリス

ヨーロッパで学級規模が最も大きいイギリス。教育省は現在の学級規模と学習成果の強い関係性は認められないと分析し、学級規模への縮小は、他の教育政策の有効性と比較しながら慎重に進められるべきだとしています。一方で、2019年のイギリス全国教育連合の調べによると、教員が次期内閣に最も期待する教育政策として学級規模の縮小が上げられたと言います。

★韓国

韓国はここ10年で劇的な学級縮小を実現しました。2008年には平均30人でしたが、2018年には平均23.8人にまで引下げました。しかし、少人数学級の導入は教育政策の主軸ではありませんでした。伝統的に教員の「質」を向上させることに注力していた韓国は、教員の給料改善、教員養成課程の強化、採用方法の効率化も同時に重視されました。

そして、貧困層の学校が教員確保において不利な立場に置かれないよう、貧困地域の学校に勤める教員にはインセンティブを設ける施策もとられています(給与手当、より小さな学級規模、指導時間の縮小、次の学校の選択権など)。このような施策で、地方に住む子どもや、貧困家庭の子どもを支援する政策を導入しているのが特徴的だと言います。

海外と比較して日本は?

海外の学級規模と少人数学級へのスタンスをご紹介しましたが、ここ10年の世界の動向と日本での推移を比較してみましょう。①学級規模、②教員一人当たりの児童数の過去10年の推移をグラフに示しました。

(筆者作成 参照データ:Education at Glance|OECD 20102011201220132014201520162017201820192020

日本では数十年間学級編成基準は縮小されなかったため、学級規模の変動はあまりありません。一方で、教員一人あたりの児童数は毎年改善されOECD平均に近づいています。この背景に、担任外教員が段階的に増員されたという情勢があります。特別支援教育に対応する教員や非常勤職員が増えました。また、OECD平均と比べ日本の学級規模は大きいことが読み取れますが、今後の35人学級により国際基準に近づくことが予想されます。

少人数学級導入への期待と課題

先ほど、少人数学級の決定的な教育効果は認められていないとご紹介しました。今回の合意に際し、様々な期待と懸念の声が挙げられています。

期待することができる教育効果

★学力効果

第一に、少人数学級のにすることで学習成果の向上が期待されています。少人数学級により、特に、不利な立場に置かれている子ども達の学力成果の改善が確認できるという研究結果が多くあります。

★教員の声

授業運営においての利点とし、多くの研究が、少人数の場合、児童の態度や規律などの行動管理に割く時間を縮小し、授業内容の指導に充てる時間が増えるという効果を示しています。

その他にケンブリッジ大学のガルトン教授らのレポートでは、教員達が少人数学級を好む理由が示されています。他の教員達と良好な関係を築きやすい、個々の児童の違いに気づきやすく、個にあった補習サポートをしやすい、よりリラックスして授業運営ができるなどの声がまとめられています。

また、教材研究の強化や学級事務の軽減など、教員の職務の軽減にも有効であるという研究結果もあります。それを踏まえ、文教大学の小林教授らは、学校の働き方改革にも有効である施策だと主張します。

★保護者の声

さらに、保護者の観点に着目した香川大学の山本准教授らの研究は、少人数学級の方が、教員に対する態度がポジティブになりやすいという結果を示します。担任の先生は子どもが「失敗しても、そっと助けてくれる」「新しいことに挑戦するとき、励ましてくる」「困っていることに、すぐ気づいてくれる」などの対教師の認知が高まることがわかりました。このように、教員と家庭との連携の向上も期待することができると言います。

★子どもの声

他にも、子ども達の観点に注目した香川大学の大久保准教授らの研究では、少人数学級の場合の方が、先生は信じてくれている、応援してくれる、相談にのってくれるなどと肯定的な認知が高まることを示しています。

注意が必要な課題

様々な観点からの少人数学級への期待をご紹介しましたが、注意が必要な課題も挙げられています。 

★教員数増加に関する課題

まず、数を確保できるのか?という課題。
教育研究家の妹尾氏は、教員の数を確保への課題感を挙げています。20代の先生が増え若返りが進む都市部では、転職や離職の傾向が強いのに加え、精神的なうつ病などで休職する人も多いのが現状だと指摘します。その上で、数を確保できるなら誰でもいいのか?と言ったらそうではありません。

そこで浮上するのが質をどう保つのか?という課題です。
数を確保するために、倍率が下がり、質の高い教員を配備することの優先順位が下がる可能性も指摘されています。現に、アメリカのカリフォルニア州で少人数学級を導入した際に、資格や免許、大学院修了などの条件が相対的に悪い教員を採用せざるを得なくなり、さらに貧困層の学校に片寄って質の悪い教員が配備されてしまったという研究結果があります。

この点を踏まえ、慶應義塾大学の中室教授は、「教員増が質の低下を招き、格差拡大につながらないか。今後、注視が必要だ」と呼びかけます。教員の質の低下や地域差を防ぐために、先ほどご紹介した韓国のように、貧困層への優先導入や、貧困地域の学校に勤める教員にインセンティブを出すなどの施策も必要かもしれません。

また、複数の研究は少人数学級で指導の質を最大限高めるために、教員研修も不可欠だと呼びかけています。学級規模を縮小しただけで、少人数に向けた指導に変換できる確証はないことを指摘し、少人数に適した指導方法など研修することが大切だと言います。

★政策の目的が不明確

もう一点挙げられている課題が、何のための少人数学級なのかが不明確という指摘です。先述のとおり、学級規模を縮小するだけで、著しく学力が向上するという検証はありません。きめ細やかな指導や学力向上を目指すために、他の政策の有効性を慎重に検証していない点が危険であるという指摘は繰り返し挙げられています。

中室教授や妹尾氏は、データに基づく検証を行い他の政策の有効性も考察し、日本の限られた教育支出を有効活用してくための議論が行われるべきだと指摘します。OECDも、教育政策の長期的な検証の重要性を次のように強調します。

政策の影響をより厳格に一貫して測定することは、長い目でみて費用対効果が高いばかりでなく、最も有益で、最も実施しやすく、最も成功する確率の高い教育政策オプションを策定する上でも極めて重要である。

(引用元:教育政策アウトルック:改革を実現させる(日本語要約)|OECD

少人数学級への移行とTFJの活動の親和性

今回の35人学級への移行及び教職員定数の改善への動きは、Teach For Japanの取り組みと非常に親和性の高い政策だと考えています。

Teach For Japanでは量、質における教員不足がさまざまな教育課題の根本にあると意識し、この課題に働きかけるために独自の選考と研修を経た教員を公立小中学校に送り出しています。また、今回の少人数学級への移行で課題となる「質」の保証にも、脳神経科学や学習科学などのエビデンスに基づいた研修を実施するなど、積極的に取り組んでいます。

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まとめ

今回、35人学級への移行を踏まえ、合意へ至った経緯や、海外での少人数学級への取り組みをご紹介しました。また、少人数学級に関する教育効果の期待や、注意が必要となる課題もまとめてみました。様々な期待がある一方、少人数学級は大きな財政支出を要する政策であるため、慎重な教育効果の検証が必要だということが分かりました。そして、子どもの学力の向上など見える教育効果だけでなく、教員の働き方への影響や児童・保護者の態度などの見えにくい効果にも着目し、少人数学級の教育効果を検討する必要があることも分かりました。萩生田文部科学大臣は国や自治体との議論を行い、教育効果の検証を行なう意向を示しています。全面導入までまだ時間がある政策ですが、段階的な導入がされていくので、引き続き注目していきたいと思います!

参考
【小学校が35人学級へ】 評価できることと大きな課題、疑問|妹尾 Yahoo!ニュース
30人学級論争、OECDデータが波紋「日本の教員数は平均並み」|日本経済新聞
35人以下学級は実現したけど…文科省の「説明不足」で議論が歪曲、鈴木寛教授が指摘する「真の論点」|弁護士ドットコム
学級規模が児童の学級適応に及ぼす影響(1)|大久保 et al.(2007)香川大学教育実践総合研究
学級規模が児童の学級適応に及ぼす影響(2)|山本 et al.(2007)香川大学教育実践総合研究
学級規模が児童生徒の学力に与える影響とその過程 第13章 総合的考察|山森光陽(2015) 国立教育政策研究所
学級規模の大小と学年学級数の多少による児童の過去と後続の学力との関係の違い|山森光陽・萩原康二(2016)教育心理研究
学力の「経済学」|中室牧子
公立小学校、1学級上限35人で合意 文科・財務相(中室牧子教授の〔分析・考察〕)|日本経済新聞
公立小学校、1学級上限35人で合意 文科・財務相|日本経済新聞
公立小中学校の少人数学級化、萩生田文科相「実現にこぎつけたい」 上限30人へ引き下げ|東京新聞Web
小学校低学年における学級規模の縮小効果|小林・嘉数(2020)同志社女子大学教職課程年報
少人数学級ありきの政策推進は危ない。根拠も中身もあいまいなまま突き進む、教育”改革”|妹尾 Yahoo!ニュース
萩生田光一文部科学大臣記者会見録(令和2年12月18日)|文部科学省
Average group sizes in basic education in Finland below the OECD average|Finnish National Agency for Education
Class size & Student-teacher ratio|OECD
Class size and education in England evidence report|Department for Education (UK) (2011)
Class Size and Teacher Quality|Buckingham, J. (2003)Educational Research for Policy and Practice
Class Size Reduction and Student Achievement: The potential Tradeoff between Teacher Quality and Class Size|Jepsen, C. and Rivikin, S. (2009)The Journal of Human Resources
Class Size: what research says and what it means for state policy|Chingos, M. M. and Whitehurst, G.J.R. Brookings.edu 
Class sizes|National Education Union(2019)
Does Class Size Matter?|Schanzenbach, D. W.(2014)National Education Policy Center
Examining the effect of class size on classroom engagement and teacher-pupil interaction: Differences in relation to pupil prior atteinment and primary vs. secondary schools|Blatchford, P., Bassett, P. and Brown, P. (2011)Learning and Instruction
INTO acknowledges class size cuts are good news for primary|Irish Natioanl Teachers’ Organisation
Long-term effects of class size|Fredriksson, P. Ockert, B. and Oosterbeek, H. (2012)The Quaterly Journal of Economics
Policy Lessons for Korea|OECD(2014)
Study on Small Class Teaching in Primary Schools in Hong Kong|Galton, M. and Pell, T.(2009)
The Class size debate: what the evidence means for education policy|Woods, D. Goldman School of Public Policy, UC Berkeley 

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