活動レポート report

Teach For Japanの赴任前研修って何やるの?候補生の声もご紹介!

Teach For Japan(以下、TFJ)の活動内容は分かったけれど、赴任までにどのような研修があるのかわからない! そんな疑問をお持ちではないでしょうか? 今回の記事では、TFJが行っている研修内容を、小学校教員経験者で研修担当の小林大介さんに語って頂きました。小林さんによると、学級経営の視点を取り入れた研修設計をしているとのこと! 後半では、実際に研修を受けているフェロー候補生の生の声も頂いています。この記事を読んで、TFJへの理解が深まれば幸いです!

※なお、こちらの記事は第8期フェローの研修に基づくものであり、研修内容・形式・日時などは変更の可能性がありますのでご了承ください。

TFJ研修チームが大事にしてること・目指すフェローの姿

フェロー候補生はもともと教育に対する想いが強い方たちなので、その意欲を高く維持し、学び続ける力を高めるために、学級経営の視点をもった研修運営が重要だと考えています。また、「子どもの人権を守ること」「人権を尊重する姿勢を育むこと」という2つの視点から、LGBTQや隠れたカリキュラムなど、子どもに接する上で必要な考え方を学んでいます。

さらに、授業力を中心とした、教員として必要なベーシックの力をつけることも大事にしています。
そのために、教育界のビッグネームの方々をお招きするというよりは、自分自身を含め、現職の先生やアラムナイ(フェロー修了生)など、現場との距離が近い人たちにしてもらえる研修を重視しています。距離の近いTFJアラムナイや学校現場でミドルリーダーと呼ばれるような先生方と接することで、2年間で自分が向かうべきゴールを明確に持てるようになってほしいと思っています。

そして、基本的には「ジタバタするしかないよ」と伝えています。教員の仕事は、学び続けていないと追いつけないものだと思っています。現職の先生方やアラムナイと接することで、フェロー候補生もいい意味で危機感を持ってくれていると思います。

目指すフェローの姿を実現するための仕組み

TFJは、2019年度の研修から、全国各地に散らばっている候補生に研修をするため、いくつかの「仕組み」を用意しています。その中の代表的なものを4つご紹介します。

  1. 月に一度の集合研修
  2. 毎週行われるオンライン研修
  3. Slackを活用した日々の交流
  4. カルテを使った振り返りと評価

それぞれ、どのような内容で、どのように機能しているのかを確認していきましょう。

月に一度の集合研修

月に一度の集合研修は、東京・大阪・福岡の3拠点で行われます。1日を通して行われる研修で、毎回講師の方をお招きした研修と模擬授業を行っています。これまでの集合研修の内容は、下記の通りです。

日程内容講師
7/13 自分の強みや弱みを把握するために、自分史を作成。 田中滿公子先生(大阪教育大学教職大学院教授)
8/3「視野を広げること」と「目標から逆算してアクションプランを設計する考え方を学ぶ」ためにSDGsを学びました。具体的には、SDGsの概要を学び、実践へとつなげる方法を考えました。 上田壮一さん (一般社団法人Think the Earth理事)
9/21対子ども、対同僚、対保護者との適切なコミュニケーションをとる方法をコーチングの視点から学びました。具体的には、話し方や聞き方によって、感じ方が違うということを学びました。また、候補生からコーチングについての概要を学ぶ事前研修も行いました。 関口寿子さん(プロコーチ・アラムナイ)
10/5 LGBTQの当事者の方にお話を伺い、LGBTQ人権について学びを深めました。また、アルムナイの実践を聞く機会も。 進藤夏葉さん(認定NPO法人ReBit教育事業部スタッフ)/TFJアラムナイ
10/26 オルタナティブ教育の1つであるイエナプランを学びました。大日向小学校で行われているクラス運営をフェロー候補生が子どもの立場になって体験しました。また、イエナプランの概要は、オンライン研修でオランダで研修をしたフェロー候補生に共有してもらい事前に理解を深めた上で臨みました。 中川綾さん(日本イエナプラン教育協会理事/株式会社アソビジ代表取締役)

模擬授業については、6年生の外国語活動の指導案を作ることをテーマに、指導案を書く方法をイチから学んでいきました。

2回目以降は、各自で教科や学年を決めて、集合研修前に一度提出してもらって、添削をしています。指導案は、1時間分だけの略案(簡単に授業のねらいや流れを書いたもの)ではなく、「指導観」や「子ども観」も含めた単元を通したものを提出してもらっています。集合研修当日は、アラムナイに参加してもらい、模擬授業のフィードバックをもらっています。

毎週行われるオンライン研修

オンライン研修は、Zoomを使って、研修期間の合計で30回、毎週19:00~21:00に行っています。

最初の段階では、「土壌を耕す」という意味で、細かなノウハウというよりは教員として重要な考え方を中心に学んでいきました。最初のオンライン研修では、人権教育隠れたカリキュラムについて学びました。隠れたカリキュラムとは、口では男女平等と言っておきながら、「男子は水色、女子はピンクの紙とって」とか言ってたら全然だめだよね~。といったことや、「助け合って」とか「協働」と子どもたちに言っているのに、隣りのクラスの先生と全然折り合いついてなければ、子どもは気付くよね~。というような内容です。

そこから、先生の在り方そのもの、立ち居振る舞いがすべて教材になっていくから、自分の生き方そのものを振り返ることが大事なんだねと伝えてきました。この隠れたカリキュラムは、8期候補生の中で頻繁に使われる言葉になってきています。

他にも、LGBTQや子どもの人権、イエナプランのような概念や価値観・教育観に触れる内容を研修してきました。もちろん、模擬授業も行ってきました。

Zoomを利用すれば、小グループに分かれて話し合ったり、全体で交流したりすることができますし、どこにいてもインターネットさえあれば参加することができます。これは、赴任後も生きる仕組みだなと思っています。

Slackを活用した日々の交流

Slackを活用して、フェロー候補生同士がさまざまなトピックで交流をしています。コミュニケーションが停滞し、中だるみの雰囲気が流れる時期もありましたが、研修や個別面談を重ねることで、盛り上がってきています。今では、Slackの呼びかけから、フェロー候補生企画の自主研修や自主勉強会がどんどん生まれてきています。11月には、2泊3日の勉強合宿も開催されました。

そんなフェロー候補生のアイデアから生まれた活動の1つに、「Zoomお茶会」があります。「Zoomお茶会」とは、ネズミ算式にコミュニケーションを取る機会が増えていくお茶会です。まず、ホストになった人が2人誘って、3人でお茶会をします。次は、誘われた2人がそれぞれホストとなって2名を誘ってお茶会を開きます。そうすると、2名が4名になり、4名が8名となり……と、どんどんコミュニケーションが広がっていきます。オンラインの強みを生かした活動だと思います。

他にも、提出物や予定を忘れないように、Slack上でアラートを作ったり、自主模擬授業会やコーチングなどがフェロー候補生同士で行われています。さまざまな経験を持つフェロー候補生が集まることで、お互いの強みや特性を生かすことができていると感じています。

カルテを使った振り返りと評価

TFJでは、自分の成長を知るための指標の1つとして、いくつかの自治体の教員養成指標を参考にして、より評価項目を具体化した独自のカルテを活用しています。

実は、教員育成指標は、どこの自治体にもあります。ただ、それを有効活用して教員育成をしている自治体は、あまり多くありません。正規教員にも、初任者研修や5年経験者研修などがありますが、教員養成指標はあまり有効活用されていないのが現状です。

その理由の1つは、「教員の力は測れない」という考えがあるからだと思います。ただ、評価して測れることもあるだろうと。逆に、なんの指標もなければ、自分の力量が全く分からない状態で学校に赴任することになります。

だからこそ、カルテを作成し、意識するポイントを知り、自分で振り返る機会を設けています。カルテがあることで、「ここが足りないな」とか、「ここは伸ばせたな」と気付くことができ、自己成長を加速させることができます。

見えてきた課題と成果

2つの課題

課題は、2つあると思っています。1つは、模擬授業の機会が少ないことです。最初にお話した通り、研修全体を通して、授業力をつけることを大事にしています。授業力をつけるには、場数をどれだけ踏むかが大切です。

フェロー候補生は、全国に散らばっており、一堂に会して研修をする機会が少ないため、模擬授業をしたいという要望を十分に満たせていないと思います。打開策として、Zoomを使ったオンラインでの模擬授業を行う機会を増やしています。

もう1つは、フェロー候補生の中にモチベーションの開きが生じることがあることです。ただ、フェロー候補生のコミュニティに価値を感じている人が多いので、お互いに刺激し合いながら学びを深めています。

3つの成果

1つ目は、自主的な動きが活発になっていることです。先ほども少し触れましたが、自主勉強会や自主研修などが頻繁に開かれ、教育イベントやニュースなどの情報共有も活発に行われています。受け身の研修ではなく、まさに主体的・対話的で深い学びが実現されているなと思います。

2つ目は、昨年までに比べて候補生の人数が大きく増えたということです。同期生が40名以上いるので、純粋に支え合える仲間が増えたと思います。また、人数が多いと言うことは、TFJを受け入れてくださっている地域にも、複数名で赴任する可能性も高まることになります。

3つ目は、オンラインでの繋がりができていることです。赴任後も、SlackやZoomを使って学びや課題を共有できると思います。物理的に離れていても繋がっていられるのは、フェローを経験する2年間において大切なことだと思います。

そして、研修を通して、学級経営を体験できるのが大きいと思っています。研修担当の私が担任の先生で、フェロー候補生は子どもたち。フェロー候補生は、私の発言や立ち居振る舞いをひとつのロールモデルとして、自分だったらどうするかを考えることができます。それに、相手の気持ちを理解するという点では、子どもの立場を体験できているのは大きいなと思っています。

8期候補生に聞いてみた!研修の改善点と魅力

辻智之さん

改善点

TFJの研修は、一般の教育課程とは違う研修になると思うので、教育学部の方々が4年かけて学ぶ内容を十分にカバーできているかは不安を感じます。教員免許を持っていないがゆえに、分からない部分があります。だからこそ、自主的な行動を促されているんだと思います。

良い点

一番は、それぞれの分野の第一人者や専門家の方が、研修の講師としていらっしゃる機会を得られることです。
また、候補生同士で自主的に勉強会を企画したり、講演会やイベントの情報をキャッチした人がすぐに他の候補生に共有できる関係性ができているのが学びにつながっています。
そして、疑問に思うことや不安に思っていることを質問したら、絶対に提案があること。例えば、学級経営に対する不安を相談したときに、おすすめの書籍を紹介してくれたり、気軽に相談にのってくれたりします。とりあえず候補者のコミュニティに投げかければ、誰かが提案してくれたり、答えを示唆してくれたりするので、安心感があります。

山本亮さん

改善点

模擬授業をする回数がもっとあってもいいのかなと思います。免許を持っていない人もいますし、免許を持っていても取得してから時間が経ってしまっていることもあるので、不安があります。

魅力

実際に現場にいる先生方(フェロー・アラムナイ)から模擬授業のフィードバックをもらえるのが魅力的です。例えば、外国語活動についての模擬授業をしているときに、「小学校4年生に対しては活動内容が複雑すぎるのではないか? 」という子どもたちに触れ合っている先生だからこそわかる視点でのフィードバックをもらうことができます。

野島信二さん

改善点

教員免許を持っていない方が多いので、模擬授業をする機会がもっと欲しいなと思っています。自主的にも集まってやっていますが、きちんと現役の先生からフィードバックをもらえる機会があった方がより良いなと思います。

魅力

集合研修のような、TFJが主体の研修もあるんですが、イエナプラン教育や特別支援教育についてなど、候補生同士での自主勉強会の機会もすごく多いです。自分が学んだことを伝えることで理解が深まることもありますし、考えが深まっていく活動を自分たちでやれている関係性がいいと思います。

小島奈那子さん

改善点

不安は正直あります。ある程度自主的な行動にゆだねらえれている部分があるので……。それに、教員免許を持っていないことが、少しプレッシャーになっていると思います。どこまでやっても「足りてない、足りてない」と思ってしまいます。だからこそ、模擬授業を重ねることで、どう授業をやるかをイメージできます。自信を積み重ねるために、もっともっと授業をする経験を踏みたいです。理論での学びが少ない分、経験から多くを学びたいと思って行動しています。

魅力

研修で、LGBTQのことを学びました。TFJの研修では、これからの時代に合った内容を学べるので、それが良いなと思っています。

あと、先輩フェローとのつながりがるのがありがたいと思っています。オンライン研修やオフラインの研修で、アラムナイが参加してくれるので、実際に実践してきたことを聞けます。そうすることで、自分が「どれくらいやりたいか?」や「やれるのか?」がイメージできるようになります。

(編集後記)
2020度の研修は、8期生が行うという「未来」を語る小林さん。8期生にとっては、自分が研修する側として振り返りの機会になり、9期生にとってはすぐ近くの先輩にいろいろ聞けるというメリットが!いま現在だけでなく、来年、再来年、さらにその先を見据えた研修を展開している小林さん。その視線の先は、フェローがこれから出会うであろう未来を創っていく子どもたちがいるような気がしました。

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