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GIGAスクール構想 現場の声から見えてくる環境整備の進捗状況&利活用事例!

新しい時代の教育に不可欠な環境とし、多くの期待とともに始動するGIGAスクール構想。コロナ禍の混乱にも関わらず、関係者の尽力により、着実にICT環境・指導体制が整備されてきてきました。ICT機器を活用し学習活動の一層の充実が期待されるGIGAスクール構想ですが、実際にはどの様に活用されているのでしょうか。現場の先生方はどの様な成果・課題を感じられているのでしょうか。今回、公立小中学校に勤務する現役教員10名にご共有いただいた、環境整備の進捗状況と利活用事例をまとめてご紹介いたします! 

環境整備の進捗実態

文部科学省は、令和2年度末の時点で、全国96.5%の学校において、安定したネットワーク環境のもとタブレット端末を1人1台使える環境が整っていると報告しました。全国各地に赴任するTeach For Japan(以下、TFJ)の現役フェローの方々にも、整備の進捗について伺ってみました。

1人1台の端末整備

TFJのフェローとアラムナイのうち10名に確認したところ、全ての先生が勤務校において1人1台端末の整備は完了していると報告がありました。

通信ネットワーク整備

1人1台の端末整備と並行して重要なのが、高速無制限のインターネットを配置し、通信ネットワーク環境を安定させることです。ネットワーク環境の整備進捗について伺ったところ、8名の学校では「十分に進んでいる」、2名の赴任校では「進んでいる」という結果となりました。

ICT支援員の配置

GIGAスクール構想の有効活用には、ネットワーク等の環境整備に加え支援体制の整備も不可欠です。文部科学省は、現場の教職員を支えるべく、スクールアドバイザー等の指導支援員の整備を行いました。中でも、日頃から先生方に寄り添い、サポートする役割を担うのが、ICT支援員です。ICT支援員の必要性を、文部科学省は次のとおり強調しています。

校内にICT機器が増えることで、操作の習得やICTを活用した授業改善、機器の設置準備等、新たな業務が発生します。 現状そうした業務を多くの教員が負担しています 。こうした状況を解消するために学校ICTの専門家であるICT支援員を配置することが必要です。

(引用元:ICT支援員の配置を|文部科学省

令和4年度までに4校に1人の支援員を配置することを目指していますが、ICT支援員の配置はなかなか進んでおらず、課題があることが報告されています。令和2年度に行われた全国調査では4割強の学校で配置されているという進捗状況でした。

今回、TFJの現役フェロー87名のうち31名の勤務校におけるICT支援員の配置について調査した結果は次の通りです。

回答したフェローの赴任先の7割の学校には、ICT支援員が配置されていることがわかりました。令和2年度に行われた全国調査の結果と比べると、令和3年度に入り、支援体制の整備も着実に進んでいる可能性がうかがえます。

フェロー・アラムナイの活用事例!

今回は、環境整備の進捗に加え、実際にICTを活用したエピソードも寄せていただきました!特に、ICTによる学びの深化が最も期待される授業での活用、課題が多く挙げられている家庭学習での活用、そして仕事の効率化・軽減の役割も期待される教師間協働での活用の3場面にフォーカスしてみました。今回協力してくださったフェロー・アラムナイの方々はこちら▼

ソフトウェア

まず、全体的に活用しているソフトウェアとして、最も多く挙げられたのがGoogle系のツールでした。Google Classroom、Google Slides, Google Jamboard, Google Formsなどが、授業を充実していることが報告されました。他にも、ロイロノートやZoom、まなびポケット、簡単なクイズ等ができるKahoot!、アンケートが作れるMentimeterなどが挙げられました。先生方の報告から、複数のツールを場面に合わせて活用していることが分かりました。

授業での活用エピソード

国語

幸田アラムナイは国語の授業でロイロノートを活用し、意見交換の活性化に取り組みました。まず、各自ノートに書いた感想文や本の紹介文を写真に撮り、ロイロノートに提出します。ロイロノートを介し、子ども達は他の児童が書いたものを読み、感想を書き友だちに送ります。この様なICTの活用の成果とし、次の振り返りが挙げられます。

児童間での共有が簡単になった。早く終わった児童は、他の児童が書いたもの、作ったものを見ておくこことで、待つ時間が無くなった。

「学びの共有」は、目指すべき次世代の学校の特性として繰り返し挙げられています。GIGAスクール構想のもと、子ども達の意見共有が活性化されているという報告は、GIGAスクール構想のポジティブな成果と言えます。

理科

阿竹フェローは、Google Siteを活用し、ヘチマとヒョウタンの観察日記の記録をWEBサイト化しました。日々のサイト更新の役割は児童が担います。全体的な振り返りとし、「植物の成長についての継続的な意欲喚起、理科的な見方・考え方の育成」に繋がったと成果を挙げています。更に細かい振り返りは次のとおりです。

4年生の理科では一年間を通して動植物の様子を観察する学習があるが、ノートや記録用紙だけではなく、WEBサイト(Google site)を活用して当番制で実施することとした。Google siteの活用により、児童がサイトを見る、作るというそれぞれの立場から、ヘチマ、ヒョウタンの観察を深く、そして継続的に行うようになった。また、観察した記録をもとに授業でも活用し、季節によって成長の様子を比較したら、気温と成長の速さを関係づける学習を展開することができた。夏休み期間も、児童はタブレット端末を持ち帰っているため、教師がサイトを更新することで継続して観察ができるようになった。

この事例からは、理科の深い学びに繋がったという成果に加え、小学生が当番制でWEBサイトを管理する経験ができ、ITスキルの学習機会も創出されていることがわかります。

音楽

村上フェローは、音楽のリコーダーテストでもICTを活用できる事例を紹介してくれました。各児童が動画を撮影し、ロイロノートで提出する手法を取り、「動画審査にすることで、授業内でやりたいこと実施することができてよかった」と振り返ります。最近までは、1〜2分の実技パフォマーンスのために、順番を待つことで45分、50分の授業時間が過ぎていたことを思い返すと、ICTツールが活動の効率化、そして学習機会の確保にいかされているように感じます。

他にも、幸田アラムナイも音楽の時間にGaragebandを活用しました。新型コロナウィルス感染症の対策のため、ピアニカを使うことができない中、Garagebandを使うことで鍵盤練習を行うことができたと言います。

その他の活用された場面

ご紹介した4つの事例以外にも、さまざまな活用場面が報告されました。

英語の文法学習にICTを活用した松木フェローは、ICTを使った活動を行うことで、「英語への苦手意識が緩和された」と成果を挙げています。他にも幸田アラムナイが取り組んだ、ミニトマトの写真に気づいた点を直接書き込むという活動は、ICTツールが子ども達のより細かな植物の観察を可能にしていることがわかります。

細かい教科の活用場面以外にも、子ども達と関わる場面での活用事例がいくつか集まりました。

例えば、依知川フェローの中学校の集会にICT機器を活用し、「生徒が一堂に会せなくても集会と同じように式典を進められた」と振り返ります。他にも、幸田アラムナイの義務教育学校では、欠席児童への連絡にロイロノートを活用していると言います。また、Zoomを活用し、補習も行っています。また、共通して多かったのが、授業の振り返りをタブレットに記録するという活用方法です。村上フェローは振り返り時間でのタブレットの活用について、「紙を無くす心配がなくなった」と有効性を挙げています。

ICT活用の成果

これまでご紹介した各教科での細かい振り返りに加え、フェロー・アラムナイの振り返りより、2点の総合的な成果が挙げられました。

①学習の深化

まず、子ども達の学習の深化につながっていることが見受けられる成果が多く挙げられました。

生徒達の集中力が上がった。(小林フェロー)
学習への意欲が高まった。(幸田アラムナイ)
児童が積極的に学ぶ姿勢が見られたり、興味や関心を広げるきっかけになった。(大川フェロー)
生徒の学習方法が多様になり、気かとし、タブレット端末を活用した授業での生徒の主体性は高まる傾向がある。生徒に裁量を持たせる調べ学習を併せて行うと、更に主体性が高まる。(田中フェロー)

学習意欲や積極性、主体性を育むことは、現行の学習指導要領で非常に重視されています。先生方の声から、GIGAスクール構想が確実に子ども達の深い学び、そしてアクティブラーニングを引き起こしていることがうかがえます。

また、児童生徒の声に、より効果的に注目することができるという振り返りがいくつか挙げられました。

挙手発言が苦手な子の意見も拾うことができる。(吉田フェロー)
言葉で感想を伝えるのが苦手な児童も、文字で感想を伝えられる。(幸田アラムナイ)
短時間で多くの意見を見ることができる。(吉崎フェロー)

タブレットを活用することで、発言が苦手な児童生徒も取り残されることなく、学習活動に参加できていることがわかります。「誰一人取り残さない」という目標は文部科学省により繰り返し掲げられており、今の教育が目指す学びの姿です。GIGAスクール構想が今後も、個別最適化・誰一人取り残さないという文脈で力を発揮することが想像できます。

②時間の有効活用

子ども達の学習の充実や、誰も取り残すことなく、より多くの児童に注目できるという効果以外にも、教師の業務負担を軽減しているという成果が挙げられました。例えば、板書代わりにタブレットを活用している遠見フェローは、板書をタブレット代替えすることで、「業務改善」に繋がっていると言います。他にも次のような振り返りが寄せられました。

印刷の必要が減った。(小林フェロー)
集計が楽になり、評価するときにひと目でわかるというメリットがある。(村上フェロー)
生徒が提出する振り返りに対するフィードバック時間が大幅に削減されている。(田中フェロー)

GIGAスクール構想は、校務の効率化など教員の負担軽減への効果も期待されています。フェローの振り返りから、GIGAスクール構想の業務効率化への確実な成果があることがわかります。

家庭への持ち帰り実施状況

フェロー・アラムナイ10名中、端末の家庭への持ち帰りを実施している学校は8校に登りました。また、持ち帰りを実施している8校中2校は、夏休みの限定的な持ち帰りを行なっているとのことです。

持ち帰りの実施校が多い中、端末の家庭での使用は課題も多く、学校と保護者の連携が欠かせません。ICT機器の家庭での活用における工夫点や課題点について聞いてみました。

工夫点

家庭への持ち帰りにおける大事な点が、使用ルールの設定です。実際に、ルールを設ける工夫をしている学校は複数ありました。遠見フェローの赴任校では、使用できるツールが制限されています。また、田中フェローや幸田アラムナイの学校では「学習目的に限る」などといった、家庭での使用ルールが定められていると言います。

他にも、家庭学習での活用を定着すべく、幸田アラムナイの赴任校では「毎日iPadでの課題を出し、習慣づける」という工夫がなされています。更に、遠見フェローの学校では「事前調査と準備」という工夫がなされたと言います。具体的には、各家庭のWi-Fi環境の整い具合を調査し、Wi-Fi環境が整っていない場合には教室を開放できるように調整しました。そして、2回の家庭持ち帰りを実施し、接続テストと模擬授業を行いました。

成果

タブレット端末の家庭学習での活用の成果として、いくつかの意見が寄せられました。

まず、音読の宿題にICTを活用する小林フェローは、タブレットで録音をし、提出することで、「一人ひとりの音声を細かくチェックできる」という成果を挙げています。他にも、村上フェローは、タブレット端末で課題を提出することでの、「丸付けの省略」や「子どもも楽しみながら学習できた」という振り返りを挙げました。

課題点

家庭への持ち帰りを実施することでの利点がある一方で、いくつかの課題も報告されました。

行政的・業務的課題

赴任校が持ち帰りを実施している田中フェローは行政的な課題を挙げています。

持ち帰りに際して、紛失・破損などの際の費用負担を保護者に課していること。つまり、行政が家庭に対して強制的に教育機会を提供する構図になっている

朝日新聞EduAによると、学校外でのタブレット破損の補償は自治体により異なり、田中フェローの赴任校のように、家庭負担と自治体も複数あると言います。

他にも、阿竹フェローが「市の端末であるため、同意書やWi-Fi貸与の書類手続きが発生している」と振り返ります。

テクノロジー系課題

行政的・業務的課題に加え、テクノロジー関連の課題も複数寄せられました。

自宅での充電を求めているが忘れてきて学校で充電切れになる児童が多い。(幸田アラムナイ)
持ち帰ったはいいものの、Wi-Fiへの繋ぎ方が分からず課題ができない児童がいる。自宅のWi-Fiの容量が少なくてフリーズしてしまう等の問題が発生した。(村上フェロー)
ネット環境が家庭にないケースがある。(遠見フェロー)

タブレットを活用し家庭学習の充実をも目指す上で、家庭の状況により児童生徒の学習に差が生じないようにする対策は急務となりそうです。一方で、充電やWi-Fi接続操作の課題などは、保護者との連携により解決もできそうです。

他にも、遠見フェローは、端末の家庭の持ち帰り実施による「生徒の疲労感大」という課題を挙げました。ずっと画面を見ていることが疲労感に繋がったという声や、慣れていないための疲労感など、生徒の声が寄せられたと言います。 

教師間の協働への活用エピソード

GIGAスクール構想下で整備される1人1台端末とは、各先生への配備も含まれます。そのため、子どもと触れ合う場面での活用に加え、教師間の協働を強化することも期待されています。教師間の協働での活用状況は、10校中8校でした。

具体的な活用用途もいくつか挙げられました。まず、多くのフェロー・アラムナイの勤務校において、Google Classroom等で教員専用チャンネルを作り、活発な連絡がとられています。他にも、幸田アラムナイは「Teamsで授業実践事例をシェア」していると言います。更に、田中フェローは、他校のALT(Assistant Language Teacher)とオンライン上で繋がり、異文化交流の授業を実施するという試みをされました。

これらの事例より、GIGAスクール構想が教師間の連携の強化、そして場所の制約を超えた繋がりの実現にいきていることがわかります。

TFJでは、フェローを公立小・中学校へ教師とし送り出すにあたり、ICTツールの研修にも取り組んでおります。
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まとめ

今回、GIGAスクール構想の環境整備の進捗状況、実際にICTツールを活用したエピソード・振り返りをご紹介しました。全国各地の学校で日々奮闘されるフェロー・アラムナイの方々から、数多くの実践事例が集まりました。そして、現場の先生方の振り返りから、GIGAスクール構想に期待される効果が確実に、認めらていることがわかります。他方、家庭への持ち帰りの実施においては、対策を要する課題も挙げられました。しかし、実装間もない現時点で、数多くの成果が寄せられたことは非常にポジティブな進捗として見て取れます。まだまだこれから本格化するGIGAスクール構想、継続的に実践事例に注目していきましょう。

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